弟子入り
「そう言えばアリス、俺の天晴は何処だ? 見当たらないんだが??」
「ああ、そう言えばまだデュランは知らないんでしたね。呼んできますので少し待っててください」
デュランはプライド王国での闘いからもう一週間と一日も経っていたことに驚きながらも様々な疑問点をアリスへと訊いていると、相棒である天晴の姿が近くにないと気が付いた。
何処にあるのか訊ねてみると、なんでか呼んでくるという謎の言葉を残してアリスは部屋を出て行った。
混乱しつつ待っていると扉が開くと同時に入ってきた黄色の髪と眼の少女が、デュランへ抱きついてきた。
「ご主人様~、よかったぁ! 目を覚ましたんですね!! 私は天晴です!!!
ご主人様の使った魔法の影響で私は付喪神になったんです!! これからもよろしくお願いしますっ!!」
「なんだって!? それは本当かアリス!!」
そして抱きついてきた少女の正体が天晴だというとんでもないことを聴いてアリスへ確認してみると、彼女は首を縦に振って肯定した。
実際に少女の魔力を探ってみるとそれは驚くべきことにデュランの魔力そっくりだった。
……どうやら確かにこの少女は俺の相棒である天晴のようだ、認めがたいが。
「……取りあえず天晴は刀の姿に戻れるのか? それと今まで通りに使っても大丈夫なのか?」
「もっちろんです! 私は貴方の刀の天晴ですから!! 後これからは私も夜の相手が出来るのでもしアリス様が妊娠されても安心ですよ!!!
私がアリス様が相手できない間はご主人様と交わるのでッ!!! 私は物なので妊娠はしないので安心ですッ!!!!」
「――まてまてまてっ!?」
デュランは天晴へ気になっていたことを訊いてみたが、何故かとんでもないことを言い出した天晴に焦りながら彼女の肩を掴んで制止した。
というかアリスも顔を真っ赤に染め上げてないで止めるのを手伝ってくれ! 頼むから!!
「お前は俺のことを毎日女とつながってないと満足できない獣か何かと勘違いしてないか! そんなことは――」
「えっ、だってご主人様、ドライ王国でアリス様ときん――」
「――ごめんなさい、俺の負けです! ですからそれ以上言わないでくださいッ!!」
デュランはなんとか天晴を説得しようとしたが血迷ってとんでもないことを叫びまくったドライ王国での話をアリスの前でされそうになり、即座に負けを認めて土下座した。
――なんで当時の俺は魔物を倒しながらアリスとしたいプレイ内容なんか叫んでんだ!? クソッタレめ!!
「わぁっ、土下座なんて止めてくださいご主人様! 私ならどんなぷ――」
「そうかぁ!? 外に遊びにいきたいかぁっ!!? じゃあなアリス、ちょっと行ってくるッ!!!」
デュランは慌てて天晴の口を手で塞ぐとそうアリスに告げてから外へと飛び出した。
病み上がりの体が悲鳴を上げるが無理矢理押さえつけて走る――何故ならデュラン自身の夫としての尊厳がかかっているのだから!
その後、なんとか説得と口止めを終えたデュランはアリスの元に戻ったがその顔色は真っ青だった。
ちなみに結局天晴とはアリスが妊娠したらその際は交わることになりました。
――俺も所詮はただの男だったよ、トホホ。
「そう言えばデュラン、あの時言ってた――刹那一条ってデュランのもう一つの魔法なの?」
説得と口止めをなんとか終えて、燃え尽きていたデュランにアリスはそう話しかけてきた。
デュランはあれは魔法である天下無双を使った俺が刹那の間に敵を一条の光になって斬るという動きへヴィンデがつけた名前であり、魔法なんかではないが。
せっかく母親であるヴィンデからもらった名前だがら、余裕がある状況で敵を斬ったらそう言っているだけであることを説明する。
「そうなの? だったら僕もデュランの剣技に名前をつけたい! そう言えばあの大きい魔力の刃と空間を斬った技の名前は決まってる?」
「いや、まあ、決まってはないが……」
「じゃあ、僕が名前をつける!! う~んと」
デュランは別に名前なんかいらなくないかと正直思ったが、何はともあれアリスからもらえるプレゼントなので大人しく受け取ることにした。
それにしても真剣な表情で考え込んでるアリスは可愛いなぁと思っていると、考えがまとまったのかアリスがこちらへ視線を向けてきた。
「――魔力の刃は嵐流刃なんてどうかな、嵐のように流れるとてつもない力がこもった刃って理由でつけたんだけど。どう、デュラン?」
「嵐流刃……うん、気に入った。これからはあの技の名前は嵐流刃だ! 素敵な名前をありがとう、アリス!」
デュランの返事を聴いたアリスは嬉しそうに微笑みながらもう一つの技名を話しだした。
「空間を斬る技は界破斬なんてどう? 世界の境界を破壊する斬撃で界破斬! かっこよくない♪」
「かっこいいかは置いておくがいい名前だな。また素敵な名前をありがとう、アリス」
そうして無事に名前が決まり、和気あいあいとした空気が流れる中。
アリスは何故かデュランの元まで近づいてきて「それと僕、お願いがあります!」と言った後。深々とデュランに頭を下げた。
「デュラン、僕は夫である君の足手まといになりたくない! 今回みたいなことはもう嫌なの!! だから僕をデュランの弟子にしてください!!!」
「――マジで!? と、取りあえず顔を上げてくれ、アリス」
「嫌です! 弟子にするというまで顔を上げませんッ!」
デュランは弟子にしてくれというアリスの言葉で、大好きな剣の修行をアリスと二人で出来るという誘惑へと負けそうになったがなんとか持ち直し。
とにかく頭を上げるようデュランは言ったがアリスの覚悟は固いようで、弟子にするというまで顔を上げないと叫んだ。
「分かった、弟子にする! でも優しいアリスに刀は似合わないから教えるのは棒術だ! この条件が飲めないなら弟子には出来ない!」
「それで大丈夫です師匠! これからは弟子としてもよろしくお願いします!!」
デュランは悩みながらもなんとか妥協案を出し、それをアリスが受け入れたことで彼らは夫婦でありながら師弟でもあるという不思議な関係となったのでした。
見晴らしのいい荒野の中、デュランは木刀をアリスは木製の長い棒を持ちながら向き合っていた。
「ぐ、ぐぬぬぬっ」
「これが橋かかりという状態だ。長物はリーチが長く刀相手には有利だがこうなったらおしまいだからな、こうならないよう使う際は気をつけるんだぞ!
一応魔法などを使えばここからでも対処は可能だが、橋かかりできるほどの腕の相手だからな。当然そんな隙は与えないだろう。
……とはいえアリスは精霊魔法を使えるから大丈夫だろうが、危険なことには変わりない。気をつけろよ」
「――はい!」
アリスの持つ棒を上からデュランの木刀が押さえつけており、なんとかその状況を打開しようとするアリスだったが。それは敵わず、木刀を胴体に当てられて倒れた。
それでもすぐに立ち上がるとアリスは「師匠! 今日もご指導ありがとうございました!!」と頭を下げてから朝食の準備のため、天幕目がけて走っていくのだった。
「師匠か、今だにアリスからそう言われるのは慣れないな。
最近ご飯はずっと朝昼晩とアリスに任せっきりだし落ち着かん、もう少し素振りでもしてるか」
師匠が弟子へご飯を作るのはおかしい! というアリスの言葉はたしかに正論だが、これだと端から見たらデュランは食材の狩猟だけして後は修行三昧のダメ夫じゃないかと思ったが。
想像以上に自身へのダメージが深かったのでそのことをについて考えるのを止め、せめて少しでもお金を稼ぐため天晴と共に近くの鉱脈を探し出し。地下三千メートルの位置にあった金を掘り出すのだった。
「デュラン、ご飯だよ~。って、その金塊はどうしたの?」
「うん、これか。近くで拾った」
「そんなわけないでしょうがっ! このおバカ!! そこに正座しなさい!!!」
そしてその場で金塊にした物を持ち帰ったが、何故かアリスから正座るように言われてこんこんと説教されたのだった。……な、何故っ?
こうして後に聖女と称えられることになる少女は己の弱さと向き合い、また一段と成長したが。
それに対してデュランは相変わらずアリスに怒られているのでした。マル。
この作品に今のところ登場してる全ての敵の中で、最もデュランを追い詰めてるの相棒の天晴なの草