戦闘潮流
「助けたいのか、アリス」
「えっ、いや、そのぉ……」
デュランにそう言われた時、魔法で心の中を見られたのかと僕は一瞬思った。
それほどまでに完璧にデュランは僕の願望を言い当てていた。
「前にも言ったが遠慮なんかすんな、どんな無理難題でも俺がいる。必ずアリスのやりたいことを実現してみせる。
アリスはどうしたい? ゆっくりでいいから言ってくれ」
「ぼ、僕は――」
見捨てるべきだと何処か冷静な部分が、理性的に判断しているのを感じる。
僕はその結論を全面的に肯定したい――だってデュランは始めて手に入れた僕だけの宝物だから。けど、だけど、それでも僕は!
「――助けたいです! きっと罠だって、デュランを危険にさらすって、分かってるのにっ!!
……それでも助けたいんです、僕も死の怖さは身にしみて分かるから」
「分かったアリス、あの蜘蛛共を俺達でぶっ潰そう!」
彼らを見捨てることが出来なかった。
何故なら今の彼らはデュランに助けられる前の、死を怖がる僕自身だったから。
「デュラン、これは?」
「大樹ユグドラシルの枝木で作った鞘だから、持ってれば少しの間なら守ってくれる」
僕はデュランから渡された鞘を見つめながら少しでも勝率を上げるため返すべきじゃ無いのかという言葉が脳裏をよぎったが、こうしないと弱い僕を気にしてデュランは全力で闘えないのだと理解して自身の弱さに歯がみした。
それでも僕は僕にでも出来ることをするため、表情を引き締めた。
「……分かりました。その代わり、デュランも無理はしないでください。
何か不測の事態があったらみんなで逃げるんです、分かりましたか!」
「ああ。心配しないでも無理はしないよ、何かあったらみんなで逃げよう。
ヴィンデは全員に幻惑魔法をかけながら周囲の警戒と援護! ルイス、ノア、リーベはアリスを死んでも守れ! クラウンは俺と一緒に親蜘蛛を殺るぞ!!」
ヴィンデさん達へ指示を出したがその中に僕に対する指示が無かったことへの不満を言おうとした瞬間、デュランはこちらへ優しげな顔を向けてきた。
「デュラン、僕は!」
「アリスは回りの小蜘蛛を頼む! 無理に殺そうとしなくてもいい、人命救助優先だ、分かったな!!」
「うんっ!」
「よしっ、いい子だ! では行くぞぉッ!!」
そう言って飛び出していったデュランを見送りながら僕自身も足の裏から風属性の魔力を放出することで移動速度を上げ、プライド王国へ急いで向かった。
ヴィンデさん達がつかず離れずの距離で着いてくるのを見ながら安心した弱い自分を罵倒しながら僕はデュランが現れた瞬間、建物の破壊から逃げる人々に狙いを変えた小蜘蛛の集団を風属性の精霊魔法で吹き飛ばした。
「大丈夫です! 貴方達は僕らが守ります!!」
「下等種族共が何を言っている! 貴様らに助けられるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
僕目がけて助けた人族の男性がそう叫んだ。――分かっていたことだ、そう言われるのは。
それだけ人族と多種族の間にできた溝は深い。けど、そんなことで怯んでなんかいられない! 僕のわがままのため、デュラン達は命を賭けてるんだから!!
「だったらこの場を切り抜けた後で勝手に死んでください! 貴方達がなんと言おうと僕達には関係ない!! 僕達は自分自身の心に従ってここにいるんだから!!!」
「なんだと! 貴様、誇り高き人族である我らに自殺しろと言うのか!! この無礼も――ガハァッ!?」
「えっ」
僕の言葉を聴いてこちらを睨み付けてきた人族の男性をルイスさんが殴り倒した。な、なんで!?
「お前を守れってのがデュランの指示だからな、だったらその心を守るのは当然だろ?」
「あっ、そっか!」
そう納得した僕の目の前で赤い炎を体に纏い、丸い小ぶりの盾と剣を構えながら何故かルイスさんは僕へ頭を下げた。
「それと今まですまなかった! 俺はお前達を誤解していた! ここからはこのルイス、全力で闘わせてもらうッ!
――元スミス王国親衛隊隊長ルイス! 押して参る!!」
僕へそう謝ってからルイスさんは近づいてきていた小蜘蛛を炎を宿した剣で溶断し、そのまま盾で殴りつけて吹き飛ばした。
そして小蜘蛛が即座に再生して二匹へ増えたのを目の当たりにした後は剣をしまい、上から盾を叩きつけて小蜘蛛を地面へ埋めてしまった。――すごい。
「重傷者は手を上げてください! どんな怪我でも治します!!」
「興味深い。すさまじい回復能力だが、それはこうして光波ブレードを通して雷撃を流し続けても機能するのか試してみよう。
――さあ、実験の時間だ!」
その近くではノアさんが怪我をしている人々の治療を行い、リーベさんが光波ブレード? を小蜘蛛に突き刺して雷撃を流し続けていた。
ぼ、僕も負けてられない! と決意を新たに小蜘蛛を吹き飛ばして一点へ集めた後、ルイスさんがやったように魔法の竜巻を叩きつけて地面へ埋めた。
『クソッ、即時の再生と転移に加えて超スピードだと!? どう考えても俺対策だろ、コイツ!!』
『――ご名答、その通りでございます』
そうして闘い続けているとデュランの声と知らない誰かの声が国中に響き渡り、驚きながら視線をデュラン達が向かった方へ向けるとそこには巨大な蛇の顔が空中に浮かんでいた。
『どうしたよ、こっちには来ないのか卑怯者!』
『ええ、まだ私は命を落とすわけにはいかないのでね、それともう一個プレゼントを今贈りましたのでお楽しみください』
『プレゼントだと、それはなん――何ッ!?』
そんな会話の後、僕は突然真上に巨大な魔力の塊を感じて視線を上へ向けるとそこには絶望があった。
『もうおわかりかと思いますがあれは汚染した竜穴を内包した山です。
そして今から三十秒後に爆発します、早めに逃げた方がいいですよ? ふふっ』
『このクソ野郎め!』
『ほめ言葉ですな、ありがたくいただきましょう。ではごきげんよう』
あんな巨大な山を三十秒以内になんとかするなんてデュランでも無理だと僕は一瞬思ったけど、もしかしたら魔法を使ったのならなんとか出来てしまうかもしれないという事実に気が付いて戦慄した。
もしもなんとか出来るのならデュランは僕のため魔法を使うだろう、夫婦だから分かる。
でもそんなことをしたらデュランが死んでしまうかもしれない、嫌だ、それだけは嫌だ!
『我が身は剣となりて敵を討つ――天下無双っ』
「――皆さん今すぐ撤退です! 急いでッ!?」
デュランが約束を守り、僕達と一緒に逃げてくれる可能性へ賭けた僕の祈りとは裏腹にデュランは魔法を使った。その次の瞬間、僕はとっさにそう叫びながら逃げ出した。
僕がわがままを言ったから僕の心を守るためにデュランは魔法を使ったにも関わらず。
今度はあれほど救いたがっていた人々を見捨ててデュランの命を優先している――ああ、僕はなんてマヌケなんだ! 今になってデュランが死ぬかもしれない可能性に気が付くだなんて!!
『短縮詠唱じゃ十秒しか持たねぇ、ゆっくり浄化してる時間はねぇんだ! 悪いな!』
「皆さん撤退中止! 周囲の人々を助けつつこの場で待機!!」
そうして後悔している僕の耳にそんなデュランの言葉が聞こえてきたのとほぼ同時、真上から感じていた巨大な魔力の塊の気配が消えた。
僕はそのことに気が付くと逃げるのを止め、周囲の人々を守りながら上空で瞬く間に消えていく山を見上げていた。
何故なら――
「――刹那一条。アリス、無事でよかった」
「約束を破るなんてデュランのおバカ!! なんで逃げないのよ!!」
――事態の解決が終わったのならば僕とヴィンデさんの安全を確保しようとするのが分かったいたから。
目の前に現れたデュランの髪と眼は灰色になっていて、見てるだけで僕は惚れ直してしまった。
それでもデュランへ対する不満を告げてしまう僕自身の弱さに絶望で涙を流してしまう。
予想通りデュランは僕とヴィンデさんを荷車まで連れて戻った後、再びプライド王国へと戻って行った。
「ヴィンデ様、治療用具は何処に置いてありますか!」
「そこの一番奥よ! それと包帯と血液パックをありったけ持ってきなさい!! ありったけよっ!!」
僕は急いで荷車から治療用具を取り出して治療の準備を始める。デュランには回復魔法が使えないと前聴いていたからだ。
そうして万が一ないよう祈っていた僕の前で、帰ってきたデュランは口から血を吐きながら倒れた。
「僕が絶対にデュランを死なせないから! だからもう一度目を覚まして! デュランッ!」
「可愛い奥さんを泣かしてんじゃないわよデュラン! このまま死んだら冥界まで殴りに行くからね!!」
僕とヴィンデさんで必死に治療を行い、なんとかデュランが死ぬのを回避することができた。
それから一週間後。目を覚ましたデュランに僕は泣きながら謝ったのだが、なんでか僕は押し倒されて丸一日デュランとつながることになった。
なんで? でもデュランが元気になってよかったぁ。




