08 知り合ったばかりだから、ビックリすることも多いのです
そこからのマキナの活躍は、もう、とにかくすごかった。
ザコは瞬殺。
固い敵は秒殺。
ザコの群れに取り囲まれた時は、マキナは僕の周りで剣舞を舞うように戦って、気がついたら死体の山ができあがっていた。
ダンジョンボスのジャイアントサーペント(巨大な蛇)は、さすがに秒殺とはいかなかったけど、まあ僕の魔法も合わせて分殺ぐらいだったろうか。はっきり言って、シークレット部屋のゴーレムの方が強かった。
「ほらほら! カケルさん!」
ひとしきりボスにダメージを与えて気絶させた後、マキナははしゃぎながら僕に言ったものだった。
「こいつもう瀕死ですよ! さあトドメを! 魔法でトドメを!」
「……そ、そんな露骨に接待プレイしなくていいから」
なんて、かえって僕は恐縮したくらいだった……まあ、マキナがどうしてもというので、トドメは僕がもらったけど。
ともあれ、僕たちはこうして、無事にダンジョンを攻略した。
「生・還っ!」
ダンジョンの出口から出て来て、日の光を浴びた僕は、両腕を振り上げて喜びを表現した。
「ああっ! 生きているって、素晴らしいっ! 太陽の光が、まぶしいっ!」
「ふふっ。お疲れ様でした、カケルさん」
「何言ってるんだよ。全部マキナのおかげだよ……本当に、どうもありがとう」
僕がそう言うと、マキナはカーテシーをしながら深々と頭を下げる。
「お褒めに預かり光栄です。カケルさんのお役に立てたのでしたら、これ以上の喜びはありません」
「……」
皮肉とか、慇懃無礼とかじゃなく、百パーセント素のまま、本気でそんなこと言うんだよなあ、この子……。
可愛い……けど、どこか照れくさい。
「ま、まあ、とりあえず、街に戻ろうか」
「はいっ♪」
そう言って、僕らが森の中を走る街道を歩き始め、しばらくした後のことだった。
マキナが「あの、カケルさん……」と、彼女らしくない、おずおずとした様子で口を開いた。
「どしたの?」
「自動人形の立場でこんなことを言うのは、出過ぎた真似かもしれません。どうかお許しください」
「そ、そんなこと言わないでよ! ……何か、言いたいことでもあるの?」
「はい……あの……もう、あんなダンジョンの奥に、一人で挑むのはおやめください。危険すぎます」
マキナは、心の底からあなたのことが心配です、という顔で言った。
「もちろん、そのおかげで、私がカケルさんと出会える幸運に恵まれことには、感謝しています……ですが、これからはどうか、私にお供をさせてください。この身命を賭して、カケルさんをお守りいたします」
「あ、ああ……」
僕はマキナが何か勘違いをしていることに気づいて、それを訂正することにした。
「いや、僕は別に、一人でダンジョンに挑んでいたわけじゃないんだけどね」
「ええっ!」それを聞くと、マキナは口に手を当てて、痛切に悲しそうな表情になった。「それでは、お仲間はみんな……ああっ! おいたわしいっ!」
「あ、いや、仲間が全滅したわけでもなくて……」
それから僕は「言いにくいんだけど……」と前置きしつつ、僕がパーティーから追放されたことをマキナに語った。
マキナの反応は激烈だった。
「はああああああああああっ!?」
聞き終えたマキナは、そう叫んだ後、地団駄を踏んで、全身で怒りを露わにした。
「ざっけんなっ! なんなんですかそのクソ野郎どもは! カケルさまを追放してダンジョンの奥に置き去りにするなんて……お前らの方が地獄に落ちろ、って感じですよ!」
誰だこのじゃじゃ馬は。
……などと思いつつも、僕はマキナをなだめようとする。
「ま、まあまあ……」
「まあまあ、じゃありませんよカケルさん! ……わかりました。私が天に代わって、そいつらに天誅を下します」
いつの間にかサーベルを生成して握りしめているマキナ(怖い)にたじろぎつつ、僕は言った。
「天誅って……どうするの?」
マキナは目をランランと妖しく光らせながら、嬉々として語り始めた。
「まず、このサーベルで、やつらをズタズタに切り刻みます」