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05 えっちなのはいけないと思います!

「な、名前……ですか?」

「はいっ! お名前ですっ!」


 謎の美少女(全裸)に名前を聞かれた僕は……とりあえず、正直に答えることにした。


「……か、カケル。カケル・アーウィンです」

「<氏名登録、並びに声紋登録完了。続いて、その他生体認証情報の登録を行います> ……ちょっと、じっとしててくださいね?」


「へ……う、うわっ!?」


 女の子は、おもむろに僕に抱きついてきた。


 裸のっ! 美少女がっ! 僕に! 抱きついてきたああああっ!


「あー、暴れないでください。すぐに済むんで」


 女の子が腕の力を強めてきて、逆に僕の身体からは力が抜ける。


 柔らかいっ! 温かいっ! あと何か! 何か膨らみが当たってる!

 ヤバイヤバイこのままじゃ……。


「<生体認証情報、登録完了> ……はい、終わりました」


 そう言うと、女の子は僕から離れた。


 あ……終わりなんだ……ちょっと残念……。


 ヤバかった部分も、すっかり元通りだ。


 そんな僕を無視して、女の子は呪文を唱えた。

「<衣服生成スポーン・クロース>」

 空間から光の粒が集まってきて、彼女の周囲に服を形成した。生成系の魔法だ。


 あ……服……着ちゃうんだ……それは……かなり残念……。


 いやいや! 僕は何を考えてるんだ! 正気に戻れよ!


 ほら、よく見てみろよ。この服だって、けっこう可愛いだろ……髪の色に近い青が基調で、フリルとかついてて、上半身は彼女の抜群のスタイルが引き立つ細身で、下半身は女性らしい広がりのあるロングスカートで……可憐だ。


 いやいやいやいや! 全然正気に戻ってないぞ僕!

 落ち着け、深呼吸だ。

 すぅーーーーーーー……はぁーーーーーーーーー。


「あら?」その時、女の子が笑って言った。「ふふ。そんなに興奮してくれましたか? 私の身体で」

「ブフゥッ!」


 深呼吸、失敗。


「ゲホッ! ゲホゲホッ! ゲホッ……」

「す、すいません!」


 女の子は慌てて、咳き込む僕の背中に手を当ててさすってくれる。でもやめてそういうの! なんかビクッてなるから! さわられたとこ、ビクッてなっちゃうから!


 そんな僕の思いは露知らず、女の子は言う。


「本当にすいません。ちょっとからかっただけで、こんなに取り乱すとは思わなくて……」

「い、いえ……」


 こっちこそすいません……ちょっとからかわれたぐらいで、咳き込んじゃって……ビクッてなっちゃって……。


「……学習しました」女の子は言った。「これからは、会話の対象年齢を少し下げますね」

「……え?」

「え? 下げないほうがいいですか? じゃあそうしましょう」

「い、いや……そ、そんなことよりも!」


 僕は何とかして話題を変える。


「君は一体……?」

「ああっ!」


 女の子は、いけない、うっかりしてましたっ、みたいな感じで、両手の平を打ち合わせた。


「大変申し遅れましたっ……!」


 言いながら、女の子は両手でスカートをつまんで軽く上げ、膝を折り、深々とお辞儀をする。

 カーテシー。女性が行うあいさつ。優雅で、とても上品だ。


「私は、カケルさまの忠実な自動人形、パーソナルネーム<マキナ>と申します……ふつつか者ですが、どうぞ、よろしくお願いいたしますっ!」


 ……可愛い。

 いや、見とれてる場合じゃなくて。


「ええっと……マキナ。それが君の名前、ってこと?」

「はいっ♪」


「じゃあ、マキナ……自動人形って、一体?」

「自動人形は、あなたの忠実なしもべですっ!」

「……」


「す、すいません、いまのじゃわからないですよね……つまりですね。カケルさまは、私になんでも命令していいんです。私にできることなら、なあーんでも叶えちゃいます!」

「……なんでも?」

「はいっ! なあーーーーんでもっ! ですっ!」

「……」


 ……正直に言うと、僕はこの時、かなりがっかりしていた。


 つまるところ、魔法で動く家事使用人、ということだろうか?

 確かに、見たことも聞いたこともないようなレアアイテムには違いない。市場に出せば、とんでもない高値がつくことだろう。


 けどそれは、生きて帰れれば、の話だ。


 生きるか死ぬか。そんないまの切羽詰まった状況では、こんなアイテムを引き当てたところで、何の役にも……


「カケルさまっ!」マキナが笑顔(可愛い)で言ってくる。「どうか遠慮なく、ご命令をっ♪」


 ……まあ、難しいことは後回しにして、とりあえず命令してみよっかなっ♪


「う、うーんそうだなあ……」

「早く早くぅっ♪」

「そ、それじゃあ……」

「うんうんっ!」

「……呼び方、変えてもらおうかな?」


「……………………………………は?」


 冷たい声だったが、僕はすぐには異変に気づかなかった。


「その『カケルさま』って呼び方なんだけどさ。なんか、女の子に『さま』づけされると、落ち着かなくて。もっと普通に『カケル』って呼んでくれない?」


「…………………………………………まあ、命令なら、従いますけど」


「え、ちょ、あれえええ!?」僕はようやく異変に気づく。「なんか急に態度悪くなってない!?」


「そ、そんなことないですよお~……ただ、私はもっと、過激なのを期待してて……」

「過激って何!?」

「いきなり……とか……」

「だからいきなりって何!?」

「もう! そんなこと私に言わせないでくださいよお! えっち!」

「さっきから君が一人で言ってるだけだろ!?」


 僕のツッコミ(変な意味じゃないよ!?)は無視して、マキナは盛大なため息をついた。


「はあああああ~……ったくもう、変なのに拾われちゃったなあ。経験とか、なさそうだし。なんか、すっごくメンドくさそう……」

「ねえちょっと君!? 実はかなり口悪いよね!? さっきも僕のことからかって楽しんでたよね!?」


「でもまあ、さすがに呼び捨てっていうのは自動人形としてのプライドが許さないんで、間を取って『カケルさん』でいいですか?」

「あと君、たまに僕の発言を無視するよね!? ……あ、呼び方の件については、それでいいです」


 こうして、無事、一件落着。

 ……するわけがなくて、次の瞬間、轟音と共に、地面が大きく揺れた。

「な、なんだっ!?」


 するとマキナは、スカートをバッと大きく翻して振り返りながら、叫んだ。

「上です!」


 マキナの索敵は正確だった。

 石造りの屋根が割れて、中から何か巨大な物体が、部屋の入り口付近に落ちてくる。


「うわっ!」


 着地の瞬間のさらなる衝撃で、僕は床に尻餅をつく……だが、マキナは仁王立ちのまま、微動だにしなかった。


「な、何だ……?」

 僕がやっとの思いで立ち上がると、落下してきた物体の周りに広がった粉塵が、ちょうど晴れ始めるところだった。


「ゴ……」

 粉塵の中から現れたのは、見まごうことなく

「ゴーレム……!」

 だった。


 まだ、かなりの距離がある。だが、それでも十分に、その岩で出来た身体の大きさを感じられた。圧倒されそうになる。


『グ……ウオオオオオオオオオオォォォッ!』

 巨大な両腕を振り上げて、咆哮するゴーレム。


「くそっ!」


 こうなってしまったからには、是非もない。


 僕は杖を構え、覚悟を決める……隠密系の魔法は、一度相手に発見されると必要魔力量が跳ね上がってしまい、もう使えない。


 前衛のいない戦い。はっきり言って、勝ち目はなかった。

 けど、ただやられるだけなんて、論外だ。


「マキナ! 下がってろ!」

 僕は、悲壮な決意を胸にそう叫ぶ。


 ……ところが、だった。


「……いいえ、カケルさん」


 マキナは、自信に満ちた声でそう言いながら、


「下がっているのは……あなたの方ですよ」


 ゆったりとした足取りで、僕の前に立って、ゴーレムと対峙した。


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