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03 シークレット部屋


 ドスンッ、ドスンッ……。

「……」


 僕は、すぐそばを通り過ぎる巨大なモンスター……狼のでっかいやつみたいなのだ……を、息を潜めてやり過ごした。


(魔法がもつのは、あと二十分ぐらいかな……それまでにダンジョンを脱出する方法を見つけないと……ああいうのに食われちゃうわけだ)


 僕は、腹のあたりをガブッと噛みつかれ、骨を噛み砕かれ、クチャクチャと肉と臓物を咀嚼される自分の姿を想像した。


 うわー、嫌だなー。


 追い詰められたら、ホントに叫んじゃうかも。「ぎゃー食われるー!」って。


「……」


 僕は頭を振って嫌な想像を振り払うと、ダンジョンをさらに先へと進んだ。


 このダンジョンには、途中でダンジョンを抜けて帰還できるような仕組みはない。


 脱出する方法は二つ。


 一つは、何か良さそうなアイテムを見つけて、さっきの崩れ落ちた階段を、どうにかして登ること。前の階のモンスターは弱いから、僕一人でもなんとかなる。

 そしてもう一つは……ダンジョンの最奥にいる、ボスを倒すこと。


 でも、ボスを倒すのは、僕一人では無理だ。

 だから、実質は一択。何か、良いアイテムを拾うしかないんだけど……。


(ん……?)


 少し広い空間に出た僕は、その光景を見て立ち止まった。


 大部屋の一角にある通路の前に陣取る、一体のゴーレム。身体が岩でできていて、人の三倍ぐらいの背丈がある、巨大なやつだ。

 ピクリとも動かないゴーレムは、どう見ても、その通路を守っているようにしか見えない。


(シークレット部屋、か……)


 多くのダンジョンには、階層の途中にそう呼ばれる部屋がある。


 挑む者には困難な試練が降りかかるが、それをクリアした者には、報酬として強力なレアアイテムが与えられる……そういう部屋だ。


 シークレット部屋の中に入ってレアアイテムを得るには、強敵を倒したり、パズルを解いたりしなければならない。難易度は高く、ダンジョンボスよりも強い敵が現れることだって、珍しくはない。


 ダンジョン攻略のために必須ではないから、スルーしても良い。

 けれど、冒険者なら、誰だってレアアイテムが欲しいものだ。


 ……ただ、このダンジョンのシークレット部屋は「いわくつき」だった。


 通路を守るゴーレムは強力だが、倒すのは不可能ではない。

 しかし、それを成し遂げたパーティによれば、ゴーレムを倒すと、毎回決まって通路は崩れ落ちてしまうのだという。


 ならばと、あるパーティは<不可視(インビジブル)>や<消音(クワイエット)>の魔法を自分たちにかけて、ゴーレムの横をすり抜け、通路の奥へと進もうとした。


 ところが、通路の入り口付近には「2人以上で通過すると発動するトラップ」がビッシリと敷き詰められていることがわかった。「ここから先は一人で進め」というわけだった。


 そこでそのパーティーは、罠の察知や解除などのスキルを持ち、単独行動に最も向いているであろう「盗賊」を、一人で先へと送り込んだ。


 ……だが、その盗賊は帰ってこなかった。


 そのパーティは何度かその試みを繰り返したが……四人目が帰ってこなかった時点で噂が広まり、志願する盗賊が一人もいなくなってしまった。


 そういうわけで、このダンジョンのレアアイテム部屋は、未だかつて一度も攻略されたことがない。


 ……だけど。


(賭けるしかない、か……)

 僕はそう思った。


 この状況で生きて帰る。それは、ほとんど不可能なことだ。


 けど、不可能を可能にするには、普通ならやらないようなことを、思い切ってやるしかない。


 僕は意を決して、ゴーレムが守る通路へと近づいていった。


不可視(インビジブル)>や<消音(クワイエット)>の魔法のおかげで、ゴーレムは僕に気づかない。ここまでは、情報通りだ。


 僕は無事にゴーレムの脇をすり抜け、真っ暗な通路の奥へと進んでいく。


 進みながら、僕はゴクリとつばを飲み込んだ。


 恐らく、この先にあるのは、一人でも発動するトラップとか、待ち伏せ系のモンスターとかだろう。


 隠密系の魔法で、モンスターは回避できるかもしれないが……感圧式のトラップか何かがあったら、もうお手上げだ。


 そういうのは盗賊の専門分野。魔法使いの僕には、対処するすべが全くない。


 一歩足を踏み込んだ、次の瞬間。


 嵐のように飛んできた矢で、蜂の巣にされる。

 降ってきた岩で「グシャッ」と潰される。


 ……そういうことが、十分にあり得る。


「……フーッ」


 ゴーレムから十分に離れたことを確かめて、僕は一息つく。

 そして、気を引き締め直して、前に進む。


 怖さのあまり立ち止まったとしても、何も起こらない。

 前に……前に、進まなければ……。


「わあ……」


 そんな張りつめた僕だったので、広い空間に出た時には、思わず警戒を緩め、ため息を漏らしてしまった。

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