21「かかってこい! 相手になってやる!」です!
僕に聞かれると、ローラは僕をにらみつけながら言った。
「問題は、あなたたちが仕事を取り過ぎたことですよ……この一週間、あなたたちがクエストをこなし過ぎたせいで、他の冒険者の仕事が減っています。数だけじゃなくて、クエスト報酬の相場も、全体的に下がっている」
「さらに、討伐クエストがなくなって、仕方なく薬草や山菜などの採集クエストを受ける冒険者が続出した結果、採集物の相場が暴落。この調子だと、数日中に採集クエストの依頼すらもなくなりそうです。そんな状態が続けば、廃業せざるを得ない冒険者も出てくるでしょう……いえ、飢えて死ぬ人だって、出てくるかもしれない」
「な……」
僕は、ローラの話を聞いて言葉を失った。僕らがクエストをこなし過ぎたのが原因で、そんなにひどいことが起きていたなんて、ちっとも知らなかった。
「わ、悪かったよ。知らなかったんだ……」僕は素直に謝る。「これからは、仕事量については、もう少し抑えるようにする……でも、そうすれば、マキナを取り上げる必要なんかないだろ?」
「ダメですよ! それじゃ解決になりません」ローラは言った。「そんなことになったら、あなた一人が楽をして、命の危険もなくお金を稼ぐことになるでしょう? そんなの不公平です。自動人形は、ギルドの共有備品にするべきなんです!」
……あくまで、マキナを取り上げるつもりか。
そういうことなら、僕も下手に出るわけにはいかない。
「……マキナはモノじゃない。けど、もしモノだとするなら、僕がダンジョンで手に入れたレアアイテムだ。僕に所有権があるに決まってる」
「そんなもの、規約を変えちゃえばどうとでもなります」
「なんだとこの野郎……!」
と、その時、それまで黙っていたマキナが、僕の袖を引っ張った。
「あの、カケルさん、ちょっと……」
「マキナ。心配するな」僕は言った。「こいつとは、僕がきっちり話をつける。大丈夫。君は必ず、僕が守る」
「んなっ……!」
僕に言われると、マキナは赤面して顔を逸らし、口をとがらせて言った。
「じ、自分のことではあんなにナヨナヨしてるくせに、私を守る時だけこんなに勇敢になるなんて……ズルいですよ」
「それで、何か言いかけなかったかい、マキナ?」
「ああ、そうでした……ええっと、私も実は、仕事量を抑えるっていう、カケルさんの解決策には反対です。もっと良い解決策があります」
「それは?」
「この街を出て、もっと大きな街へ行くことです」
「……」
「もっと大きな街なら、経済規模が大きいですから、私たちがちょっと多く仕事をしたとしても、全体に与える影響は微々たるものでしかありません。他の冒険者に迷惑をかけることもありません。そういう点でも、カケルさんは大きな街に行った方が、活躍できると思うんです」
「……そうだね。少し、真剣に考えてみるよ」
僕はうなずきつつも、こう続けた。
「でも、街を出て行くとしても、こいつとの決着はつけていかなきゃならない。これだけ一方的に言われた後で街を出たりしたら、まるで逃げたみたいだ。でも、僕は逃げたりしない。正しいのは僕だからね」
僕は書類をローラに突き返しながら、こう言った。
「この規約の変更は、僕の所有権を侵害するものであり、したがって無効だ……不服だというなら、出るとこに出ようじゃないか」
この時、僕には絶対の自信があった。いまの世の中は色々と問題だらけだが、所有権に関しては、広く認められるようになってきている。裁判をすれば、必ず僕が勝つという自信があった。
だから、裁判をちらつかせればローラは引き下がるに違いない、と僕は考えていた。
……ところが、僕と対峙するローラは、自信たっぷりにこう言い放った。
「あーら? 裁判というわけですね。望むところです! ぜひそうしましょう!」
「な……」
そのローラの自信満々な様子を見て、僕は急激に警戒を強め、思考を巡らす。
まともに法律論で戦えば、どう考えてもローラに勝ち目はない。
だが、ローラはこの通り、自信満々な様子。
……ということは、つまり、こいつはまともに戦うつもりがない。
裁判で、まともに戦わずに勝つ方法……そんなもの、一つぐらいしか思い浮かばない。
「まさか……!?」
「ふふ……どうしたんですか? そんな、急に青ざめちゃって♪」
「お前……」
してやったりの顔で笑みを浮かべるローラを前に、僕は確信する。
こいつ……裁判官を、味方につけてるのか!?