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14 正義は勝つ! のです!


 悲鳴を上げ、互いに抱き合って震え上がるマッシュとミリアム。


 怒り狂う冒険者ギルドの荒れくれ者たちは、日頃モンスターを相手にする時と全く同じ要領で、あっという間にマッシュたちを取り囲み、壁際に追い込んだ。


 そのタイミングで僕は、


(マキナのおかげで助かった……)


 と思いつつ、みんなに呼びかけた。


「き、聞いてくれ! みんな!」


 ただし、みんなを止めるためではない。煽るためである。それぐらいしてやらないと、気がすまない。


「現実問題として……仲間のことを、助けたくても助けられずに、仕方なく逃げてくることもあると思う……でも! だからって、置いていかないでくれって泣き叫んでいた仲間のことを『身代わりになってくれた英雄だ』なんて嘘をつくなんて! そんなことをする冒険者が、いてもいいのか!?」


 反応は上々だった。


「そうだっ!」「カケルの言う通りよ!」「俺にも似たような経験はある……でも俺は、そんな恥知らずなことはしなかった!」


 みんな口々に言って、怒りはさらに高まっていく。

 それと同時に、マッシュやミリアムの震えも大きくなる。

 そしてついに、冒険者たちの中に、得物を取り出す者が現れ始めた。


「殺しちまえ!」「そうだっ! 追放処分ぐらいじゃすまねえ!」「殺せえ!」


「ひいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「お願い、殺さないで! 殺さないでえええええっ!」


「……フッ。ざまぁ」

 震え上がるマッシュたちを見て、マキナが凄惨な笑みを浮かべつつそう言っているのを横目で確認しながら、僕はちょっとばかり悩んでいた。


 ここで止めなければ、本当にマッシュとミリアムは殺されてしまうだろう。

 それは、いくらなんでも、ちょっとばかり寝覚めが悪い。

 ……けど。


 ……ああっ!

 ……止めたくねえなあっ!

 今回ばかりは、さすがの僕も。

 なんか、止めたくねえなああああああっ!


 ここで僕が止めたりしたら、品性最悪なマッシュたちのことだ。「ラッキー♪」とか「チョロいわね♪」なんて思うだけで、僕に感謝など一ミリもしないだろう。


 ほんと、助けてやる気、なくすわ。


 なんて僕が思っている間に、マッシュたちは鞘に収めたままの剣や槍で小突かれたり、叩かれたりし始めている。泣き叫ぶ二人。完全にリンチだ。みんなの得物が鞘から抜き放たれるのも、そう遠いことではないだろう。


 そろそろ止めないといけない。でも……


(あーあ……どうせなら、誰か他の人が止めてくんないかなあ……)


 そうなってくれれば、マッシュたちが後で今回のことを思い出した時、あの時の僕は本気で殺す気だったと思ってくれて、死ぬまでずっとビビり続けてくれると思うんだけどねー……。


 ……と、思った矢先、ギルド入り口の大きなドアが勢いよく開いて、甲冑姿の衛兵が続々と入ってきた。


「くおらああああああっ! 野蛮な冒険者どもがああああああっ! 何を騒いでおるかあああああああっ! 大人しくしろやああああああああああああっ!」


 おおー、良いタイミングじゃないか、と僕は感心する。


 策略家として知られる街の領主によって、冒険者ギルドのすぐ隣には、衛兵の詰め所が建てられている。荒れくれ者の冒険者たちは、しょっちゅう騒ぎを起こすからだ。


 おかげで、僕ら冒険者は衛兵たちとすっかり顔なじみだ。今日、野蛮な叫び声を上げながら飛び込んで来た隊長のことも、僕はよく知っている。最近、娘さんが生まれたばかりの彼は、この子が強面の自分に似てしまったらどうしようなどとクヨクヨ悩んでばかりいる、色々な意味でおめでたい人である。


 結局、リンチされかかってボロ雑巾のような姿になったマッシュとミリアムは、話を聞いた衛兵たちによって引っ立てられていき、そのまま冒険者ギルドを永久追放処分になった。それも、この街のギルドだけじゃない、全世界の冒険者ギルドからの追放だ。


 後で聞いた話によれば、二人は「お、俺、冒険者以外の仕事なんてできないよ……」「これから私、どうやって生きていけばいいの……?」なんて言って、途方に暮れていたらしい。


 でも、これに関しては、僕はやつらに同情する気はない。一日に二回も仲間を裏切るようなやつが、冒険者を続けるべきじゃない……ま、そんなやつら、どんな仕事をしたってダメだろう、とは思うけど。


 ……にしても、ずいぶん良いタイミングで衛兵が来たもんだなあ……と思っていると、マキナが、何食わぬ顔をしてギルドのドアから入ってくるのが見えた。


「あれ? マキナ、いつの間に外に出てたの?」

「……実は、私が通報したんです。衛兵さんたちに」

「え……?」

「その方が、カケルさん好みの結末かな、と思って……違いましたか?」

「……いや、違わないよ」


 言いながら、ほんと、この子は優秀だなー、と僕は思った。


「何から何まで、ありがとう、マキナ」


 僕が感謝すると、マキナはいつも通りにカーテシーをして、僕に一礼しながら言った。


「いいえ、どういたしまして♪」


 それを見て、僕は決心する。

 マキナを誰かに売るなんて、そんなことは絶対にしない、と。

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