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13 言ったもん勝ちは、許しません!

「「ひっ!?」」


 怒鳴りつけられ、驚いて離れたマッシュたちに向かって、僕は杖を突きつける。


「読めたぞ……こういうことだろ? 先にギルドに逃げ帰ったお前たちは、僕やゲイルはどうしたってみんなから聞かれて、とっさにこう答えた」

「自分たちを助けるために、僕とゲイルが犠牲になってくれた、って……『お前たちだけでも逃げろ!』なんて、英雄的なことを僕やゲイルが言ったとでも、ギルドのみんなに言いふらしたんだ……そういうことだろ?」


「か、カケル、落ち着けよ……」


「ふざけるな、このゲス野郎ども!」


 僕はそばにあった柱に杖を叩きつけ、唖然となっているギルドのみんなに向かって、こうぶちまけた。


「みんな、聞いてくれ! マッシュとミリアムが言ったことは、全部嘘だ! 真実はこうだ……マッシュとミリアムは、ゲイルを置いて、自分たちだけ逃げ出したんだ! そのせいで、ゲイルは死んだんだ!」


「な、なんだって!?」「嘘だろ、おい……」「どういうことなの!?」


 真実を暴露されたマッシュは、一瞬、明らかにうろたえていた。

 ……だが、すぐに敵対的な表情になって、食い下がってくる。


「ははあ……こっちこそ読めたぜ、カケル」

「なに……?」

「お前、最初から俺たちを殺すつもりだったんだろ?」

「な、なんだって?」


「おかしいと思ったんだよな~……いつもだったら百発百中で魔法を当てるお前が、今日に限っては外しまくっててさ。俺たちを殺すつもりだったんだとすれば、説明がつくよな」


 なんてやつだ。よくもまあ、次から次へとでまかせを……。


「そ、そうよ! その通りよ! 私もおかしいと思ったの!」


 だが、僕が反論する暇もなく、ミリアムがここぞとばかりに乗っかってきた。


「カケルは前から、頭の良さを自慢してばかりいて、パーティーの嫌われ者だったもの! きっと、自分を嫌う私たちを逆恨みして、皆殺しにしようとしたんだわ!」


「でも、ゲイルが盾になってくれたおかげで、俺たちは助かった……で、いまのカケルは、俺たちを社会的に抹殺するために、真っ赤な嘘をついている、と、こういうわけだ」


「ふざけるな……そんなわけないだろ!」


 僕はそう言ったが……冒険者ギルドのみんなは、どちらを信じていいものか、疑いと迷いの目で僕らの様子を見ていた。


「どういうことだ……?」「一体、どっちの言っていることが本当なの?」「わからん……どちらの言っていることも、筋は通っている」「カケルの頭の良さは、正直言って、俺たちもムカつくからな……」「おお神よ、道をお示しください……」「いずれにせよ……ものすごく醜い争いなのは、間違いないな」


「みんな、こんなやつらの言うことを信じちゃダメだ!」僕はみんなに訴えた。「こいつらが言っていることは、みんなデタラメだよ!」


 その時、マッシュが言った。


「へえ……じゃあ、なんでお前、生きてるんだよ?」


「な、なんだって……?」


「お前はあの時、ゴブリンの群れの中に取り残されていた……ゲイルという前衛が死んだんなら、どうしてお前は生きていられたんだ?」


「そ、そうよ!」ミリアムが、またしても乗っかってくる。「ゴブリンの中でも知能が高いやつは、人間と会話したり取引したりできるやつがいる、って言うわ……カケル、あなたがゴブリンと手を組んでいたんだとしたら、全ての説明がつく!」


「な……それは!」


 と、その時だった。


「はーいはいはい!」


 それまでずっと、黙って成り行きを見守っていたマキナが、手を打ち鳴らしてパンパンと音を立てながら、前へと進み出てきた。みんなの注目が、一斉に彼女に集まる。


「……冒険者ギルドのみなさま。しばしお耳を拝借いたします」


 そう言って、マキナはカーテシーをしながら、軽く頭を下げてあいさつをする。


「わたくし、本日付けでカケル・アーウィンさまの忠実な自動人形となりました、パーソナルネーム<マキナ>と申します。以後、お見知りおきを」


「「自動……人形……?」」


 唖然とする冒険者たちを前に、マキナはおもむろに、手近にあったテーブルの上のリンゴを掴み、頭上へと放り投げた。


 サーベルの一閃。


 次の瞬間、マキナの左手の上の皿に落ちたリンゴは、綺麗に剥かれ、切りわけられていた。おまけに、ウサギさんだった。


 冒険者たちが「おおーっ!」とどよめく。


「……わたくし、かように多少の剣の心得がございます。この技を使い、私はカケルさまの前衛を務めさせていただきました。先頃も、カケルさまの詠唱を妨害せんとしたゴブリンたちを、一匹残らず剣のサビとしたところでございます」


「おお!」「なるほど、それでカケルは生きてたのか」「なら納得だな」「俺と結婚してくれ!」


 冒険者たちは、どうやら納得したようだった(なんか一部違うのもいたが)。


 次いで、マキナは酒場の白い壁に向き直る。


「続いて、みなさま、どうかそちらの壁をご覧ください」

「「んんっ?」」


 みんなが壁の方を向くと、マキナの目からその壁へと向かって光線が伸びて、壁に映像が浮かび上がった。


「これは、私が先ほど見た出来事を、そのまま投影したものです」




「う……うわあああああっ!」

「キャアアア!」


 事もあろうに、マッシュとミリアムは、武器をうち捨てて逃げ出したのだ。

 なんてことだ。これでは、ゲイルの背中はがら空きになってしまう。


「なっ!」僕は叫んだ。「バカッ! ゲイルを援護しろ! おいっ!」


「おおおいっ!」

 ゲイルも、目の前のゴブリンの相手をしつつ、肩越しに振り返りながら叫んでいた。目には涙が浮かんでいる。

「逃げるなあっ! 頼む、逃げないでくれえ! 俺を置いていくなああああああっ!」


 だが、マッシュたちは僕らの叫びを無視して、そのまま走り続けた。まだゴブリンが陣形を塞ぐ前だったので、二人は逃走に成功する。




「「……」」


 マッシュとミリアムは、あまりのことに言葉を失っている。


 映像を止め、冒険者たちの方に向き直りながら、マキナはニッコリと笑った(目は笑っていなかった)。


「……と、こういう次第でございますっ♪」


 次の瞬間……冒険者ギルドのみんなの怒りは、マッシュとミリアムに集中した。


「マッシュ……」「ミリアム……」

「「お前らあああああああっ!」」


「「ひ、ひいいいいいいっ!」」


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