01 ダンジョンの奥にて …… ちなみに、13 + 8 は 21 です
「え、嘘でしょ?」
薄暗い、石造りのダンジョンの奥。
僕は天井の方を見上げながら、呆然としてそんなことを言っていた。
ところが、嘘でも何でもなかったんだな、これが。
「ゲハハハハハハハハハハ!」
僕の視線の先で、下品な笑い声を響かせているやつはゲイル。筋骨隆々とした重装剣士。
状況はこうだ。
場所はダンジョンの奥。
次のフロアへと降りる階段が崩れているので、そこへ入る冒険者は、縄ばしごを下ろすのがこのダンジョンのセオリーになっていた。
ところが、僕一人が降りた段階で、ゲイルの野郎、縄ばしごを引き上げやがったんだ。
「ゲハハハハハハハ……ざまぁねえな、カケルよお!」
「ざまぁ! マジざまぁなんすけど!」
「やっちゃえやっちゃえ殺しちゃえっ! キャハハハハハ!」
崩れた階段の上から、ゲイルが僕の名を呼んでバカにすると、後ろにいるマッシュ(軽装剣士)とミリアム(弓使い)もケタケタと笑い、手を叩いて大喜びしていた。
ゲイルは下品なやつだったが、パーティーの頼もしい盾役であり、僕の大切な仲間だった……というのは、どうやら僕の片想いだったらしい。
「ど、どういうことだよ、ゲイル!」
「どうもこうもねえ! お前、魔法が使えるなんて生意気なんだよ!」
「ええっ!? 魔法使いが魔法を使うのは当たり前だろ!?」
そこを否定するのっ!? みたいなことを言われて抗議する僕を無視して、ゲイルは続ける。
「それだけじゃねえ……カケル、てめえは頭が良いのを鼻にかけやがって。胸くそ悪いやつだって、前からみんなで話してたんだ」
「いやだってお前……13 + 8 は 12 だとか言われたら、間違いを指摘せざるを得ないだろ……」
商人からぼったくられそうになってたのを助けてやったんだぞ、おい!
「うるせえ! 12でも22でも同じようなもんだろ!」
「全然違うよ! あと22も間違ってるからね!?」
「うるせえって言ってんだろ! ……ふぅ。とにかく、だ。カケル……お前は追放だ。街で一番の俺たちのパーティに、お前みたいな鼻持ちならない、チームの和を見出す野郎はいらねーんだよ!」
「……ぼ、僕がいなくなったら、どうするつもりだよ! 代わりの魔法使いなんて、そう簡単に見つからないぞ!」
「残念でした~~~~! もう見つけてありまーーーーーす!」
「な、なんだって……?」
「お前なんかと違って、若くて可愛い女の子だよ! ……やっぱ、魔法使いはちょっと経験が浅いぐらいがちょうどいいんだよ。面接したら彼女『経験はないですけど、何でも勉強させてもらいます!』って、とっても素直な様子だったぜ?」
「こ、こんな小さなパーティに、実戦経験のない子を入れるのか!? ゲイル、正気かお前!」
「ああん? お前、わかってねえみたいだな」
ゲイルはあごを上げて、あからさまに僕を見下しながら言った。
「魔法使いってのはな、俺たち前衛の奴隷なんだよ。お前たち魔法使いは、詠唱中に守ってくれる俺たち前衛がいないと、なんにもできやしねえ」
「だからお前ら魔法使いはな、魔法を使えるちょっと便利な奴隷、魔法奴隷なんだよ。俺たち前衛の奴隷なんだよ!」
「……なのにカケル。お前はそんな奴隷としての立場をわきまえず、やれ『敵を引きつけてくれ』だの『盾で矢を防いでくれ』だのと、安全な場所から勝手な指示ばかり出しやがって……」
僕はハッとして言った。
「……ゲイル。僕は君がそんな風に不満に思ってたなんて知らなかった。謝るよ。反省すべきところは反省する……だから、もう一度話し合おうよ!」
「ケッ! いまさら命乞いしたってムダだ」
「命乞い? ゲイル、このままじゃ、命が危ういのは君も同じだぞ!」
「泣き落としが効かねえと思ったらこんどは脅しか? みじめだなあ、みじめだよ、カケル」
「そうじゃない、聞いてくれ! これぐらいの小さなパーティじゃ、一人一人の役割が大きいんだ。そこに一人でも実戦経験のない人間を入れたら、戦力が大幅に低下して、戦線は崩壊する!」
僕は続けて言った。
「ゲイル、このままじゃ死ぬぞ、お前!」
「……フンッ!」
瞬間、ゲイルは崩れ落ちた階段から飛び降りて、僕と同じ床に降り立った。重装剣士の巨体が急に着地したせいで、部屋全体が揺れる。
「うわっ!」
僕の足元もふらついた。
……だが、衝撃を受けたのはゲイルの身体も同じはずなのに、ゲイルは全くダメージを受けた様子がなかった。さすがパーティの盾役、頼もしい……もし味方だったら、だけど。
だが、着地したゲイルは、金属がこすれる音を立てながら大剣を引き抜いて、僕へと向けてきた。
「俺が死ぬ……? だったらここで試してみるか? 俺とお前、戦ったらどっちが死ぬかを! おおっ!?」