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「オタクが好きな作品なんて、エロばっかで内容も空っぽ――」

「――は? エロばっか? 内容がない? バカ言え。ハルヒはライトノベルとしての雰囲気を保ちながらも、ベースには数々のSF要素が散りばめられている。しかもそれを舞台装置として放置するんじゃなく、キャラクターの背景として違和感なく活用してるんだよ。いうなればあれはメタSF作品なんだ。お前にその凄さがわかるか? わからないだろうな」


ちょ、俺顔真っ赤w。

周囲がシンと静まり返る。

ちらりと後ろに目をやると、詩織が口元を抑え、必死に笑いをこらえているのが見えた。

あとなぜかオタクグループの連中が熱の入った目で俺を見ている。「よく言った!」みたいな。

静寂はすぐに破られた。


「……なにマジになってんの。キモすぎ」


呆気に取られていた新見は、すぐに侮蔑に満ちた視線を向けてきた。周りもそれに従い、俺をバカにしたようにせせら笑う。

言わなければよかった――なんて、思わない。いくら馬鹿にされたって、あの作品のすばらしさを伝えられないことにくらべたら些細なことだ。


「鹿野。ちょっとお前、ないわ」「たしかに」「めっちゃ早口だったねw」「キモすぎ」


雨後の竹の子みたいに、次々に囁かれる罵倒。悪口。

職業柄、バカにされることには慣れている。ネットで叩かれることなんて日常茶飯事だしな。()()()()()()()()もあって、人よりも多く批判されてきた自信はある。

なのであまりショックは受けないが、気分の良いものじゃない。

悪口は止まず、それどころか勢いを増していき――


「黙りなさい」


透き通った声。日本刀のように鋭い声音は有象無象の悪口を切り裂き、周囲に静寂が訪れる。

声の発生源。それは意外な人物だった。

尾市 琴(おいち こと)。カーストトップの大和撫子が、氷のように冷たい表情で回りを睥睨する。


「これは鹿野さんと新見さんの問題で、あなたたちがとやかく言うことではないわ」


カーストトップ。生徒会長。権威の象徴である彼女の言葉に逆らえる人間は、この教室には誰もいない。取り巻き立ちは沈黙していき、教室には再び沈黙が訪れた。

思いもよらぬ援護射撃に、俺は呆気にとられてしまう。


「自分の意見をひるむことなく述べた彼は立派よ。そして、外野でしかないあなたたちがそれを叩くのは、卑怯というものよ」


彼女の言葉に、教室にいるすべての人間が耳を傾けている。


「確かに、あの早口はキモかったけれど……」


それは余計だろ。


「朝日、彼の言葉にも一理あるわ。ここはお互い矛を収めて、終わりにするのはどう?」


新見と一松、尾市。金髪ズと大和撫子。正反対の彼らが同じグループに所属していることを疑問に思っていたが、なにやら事情が掴めてきた。

金髪ズは持ち前のコミュ力でグループの規模を広げ、尾市はその人脈を利用する。その代価として、彼らが暴走しかけた時――今のように、いじめの一歩手前まできてしまった時は、尾市がそれを止める。あるいは、権力をちらつかせ無かったことにする。

そういう協力関係の元で、彼らの関係は成り立っているのかもしれない。ただの推測だけどな。


「まぁ、琴がそう言うなら……」


しぶしぶ、といった感じで新見が従う。

取り巻き立ちも熱が冷めたようで、各々の席へ解散していく。一松も興が冷めたようだ。ちらりとこちらを睨むと、教室から出ていった。

俺と新見、尾市だけが残される。

ここは尾市の好意に感謝し、俺も引き下がるのが道理だろう。

でも。

ここまでラノベを――作家を、読者をバカにされ、引き下がれるわけがない。


「ちょっと待て」

「は、なに?」

「新見、この前の現代文赤点だったよな」

「……それ、今関係なくない?」

「文章読むの、苦手なんだろ。だから、ラノベとか小説とか――そういう創作物、馬鹿にしてるんじゃないのか?」


逆上させないように、けれど、相手の心を逆撫でするように。言葉を選んで、獲物が餌に引っ掛かるのを待つ。


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