3
イケメンでスポーツマンの一松 和也。
大和撫子で才色兼備の尾市 琴。
そして――コミュ力お化けの新見 朝日。
外見・人脈ともにトップクラスの彼らは、去年から高校二年の今までスクールカーストのトップとして君臨し続けていた。
彼ら三人が揃った教室は、さっきまでの雑然とした雰囲気が消え、三人を中心に回り出す。
まるで明かりに吸い寄せられる虫のように、カースト中位のラスメイト達が彼らに集まっていく。ひときわ大きな集団となった彼らは、三人を中心としてバカ騒ぎをしている。
うるせぇ……。
「おはよ……」
隣の席の女子が、眠そうな声であいさつしてきた。
酒井 詩織。
栗色のボブカットの彼女はいつも通り平凡で、カースト上位のような派手さはない。冷たい目つきが特徴的で、しゃべり方もサバサバしている。一見してクールな印象がある女子だ。
「そういう詩織は、眠そうだな」
細めの下には、クマがある。どうやら夜更かしをしたらしい。
「徹夜してラノベ読んでた」
「なるほどな。気に入った作品あったら、教えてくれよ」
「けっこう豊作だったよ。帰ったらまとめてLINEする」
俺は陰キャなので、当然ながらただの女友達ではない。俺と彼女の接点は、ライトノベルだ。
去年の夏。俺の所属するNR出版が主催したラノベイベントで偶然鉢合わせ、俺と彼女は知り合った。俺は顔出しNGだったので、作家であることがバレた訳ではなかったのだが……そこからちょくちょく話していくうちに作家であることもなし崩し的に知られてしまった。
「それより、夕月こそ眠そうだけど、どうしたの」
「……徹夜してラノベ書いてた」
「新作? それとも続き?」
「とりあえず、新刊のプロットを書くつもりだったんだが……」
「察した。まぁ……応援してる。ほどほど頑張れー」
「詩織からねぎらいの言葉をもらえるなんて。明日は雪でも降るんじゃないか」
「……夕月の中の私って、そんなイメージなの?」
そんなわけで、詩織は高校内で唯一、俺がラノベ作家であることを知っている人間だ。
気やすく話せて趣味の合う詩織の存在は、女友達ゼロの俺の唯一の青春ポイントともいえる。
また、人付き合いにストレスを感じてしまう俺にとって、彼女のサバサバして落ち着いた性格はありがたい。
「元気だねぇ……」
どこか呆れたような様子で、詩織は騒いでいる彼らに目をやる。
「詩織は混ざらなくていいのか?」
「……知ってて言ってるでしょ。私、ああいうの苦手なんだって」
実際、詩織の外見はかわいい。カースト上位勢に混ざっていても違和感がないぐらいだ。
しかし、本人の性格はそこはかとなく陰気なので、あまり目立つことはない。
「そんじゃ、私寝るから」
「おう、おやすみ」
詩織は机に突っ伏すと、すぅすぅと寝息を立て始めた。
マイペースなやつ。
そんな彼女を横目に、読書に戻ろうとするが――騒いでいる連中がうるさくて集中できない。文句の一つでも言いたくなるが、余計なトラブルを起こすのはごめんだ。
「……眠れぬ」
詩織も目が覚めてしまったようで、ジト目で彼らを睨んでいた。
だが悲しいかな。俺もコイツも、クラスでは権力のある方じゃない。おとなしく彼らの演じる青春群像劇を視聴する他ないのだ。
そんな風に心の中で悪態をついていたら、ふと、気になる光景が見えた。
金髪ギャル――新海 朝日の右手。そこには、一冊の文庫版が握られていた。
赤い背表紙に、スニーカー文庫特有のシンプルな特徴的な表紙。
間違えるはずはない。あれは――「涼宮ハルヒ」シリーズ!?
原始人がAK47自動小銃を握っているかのようなアンバランスな光景に、俺はしばし呆気にとられていた。
ブクマ・評価お願いします!