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「ぐぎぎぃ……ぐぬぬ……」


口から漏れだすのは、さび付いた機械のようなうめき声。


本当なら作品なんて放り出して楽になりたい。でも、それはできない。

なぜならば俺はライトノベルを愛しているからだ。

……いや、愛なんて綺麗な関係じゃないのかもしれない。

「沼」そう表現するのが適切に思える。抜け出せないぐらいラノベ沼にハマってしまい、そのまま成り行きで作家デビューをしてしまう程、俺はラノベにハマっていた。

しかし、脳みそは仕事を放棄しているようで、一行たりとも文章が思い浮かばない。人差し指はキーボードの上で力尽きてしまったように動かず、焦燥感だけが募っていく。


「もう、朝か……」


俺――鹿野 夕月は、ラノベ作家をしている。数年前、運よく新人賞でデビューし、何とか高校と両立して執筆活動を続けていた。

が。数か月前、スランプに陥った。最近はめっきり執筆も進まず、気分が沈んでいる。


苦痛のまっただ中の俺とは反対に、窓の外では登校中の高校生たちが楽しそうに談笑しているのが見える。そんな彼らを見ていると、まるで俺だけが世界から置いてきぼりにされてしまったような感覚を覚える。

俺は決めた。とりあえず今日はやめにしておこう。

それに、そろそろ登校の時刻だ。作品の投稿はできないが。ははっ、笑えん。


―――――


自分で言うのもなんだが、俺は陰キャだ。

……考えれば考えるほど、「陰キャ」という言葉は完成度が高い。

陰気な人間を指すネガティブな言葉ではあるものの、漢字1文字+カタカナ2文字という威圧感のない外見に加え、「キャ」という物珍しくもポップな発音。それに、たった四文字で「人付き合いが苦手で、控えめな性格」というプロフィールを紹介できる。

もともとは「根暗」という言葉が使われていたが、それらに取って代わったことも納得だ。


「おい根暗!」


と呼ばれても不快なだけだが、


「おい陰キャ!」


なら不思議と笑みがこぼれ、許せてしまう。そんな不思議なコトバ、「陰キャ」。いやどっちも不快だろ。

などとどうでもいいことを考えながら、二年B組の教室へ入る。


窓際の自分の席に腰かけ、鞄からラノベを取り出す。家での時間をラノベ執筆に充てている俺にとって、始業までの読書時間は貴重だ。誰にも邪魔されたくはない、至福の時間。

昔は教室でラノベを読むことに気恥しさを覚えていたが、今ではそんなことは思わなくなった。むしろ見せつけるまである。ねぇよ。

ルンルン気分でページを開こうと――した、その時。


「ちわーっす!」


鼓膜を震わせる、甲高い声。

金髪のポニテが特徴的な少女が、教室に入ってくるのが見えた。

新見 朝日。あえて彼女を紹介するなら、「ギャルで陽キャ」。

……作家であることを恥じるレベルの紹介文だが、実際にそうなのだからしかたない。


金髪に濃いメイクという威圧的な外見でありながら、持ち前の強引さとコミュ力でカーストトップに君臨している。俺とは正反対の人種だ。

目算だが、胸はEカップ以上。どうでもいいけどな。もしかしたらFあるかもしれない。どうでもいいけど。態度だけじゃなくて胸もデカいんだよな。どうでもいいけど。どうでもよくない。


「おっす朝日。朝っぱらからうるせぇな」

「おぉカズヤ、ちわ! うるせぇは余計でしょ!」


余計ではないだろ。

なんのひねりもないツッコミが浮かぶ。

カズヤと呼ばれた男――こちらも朝日と同じ金髪だ。あえて紹介するならオラオラ系のスポーツマン。以上。どうでもいいけどオラオラ系って元はゲイ用語らしい。


「二人とも、ごきげんよう」

「おぉ、琴。おはよう」

「琴、ぐっもーにん!」


あとから教室に入ってきた少女が合流する。彼女の名前は尾市 琴。黒髪ロング。

The和風美少女といった見た目で、落ち着いた性格をしている。成績は優秀。言葉遣いもあいまって、まさに「大和撫子」といった感じだ。


金髪ズとは正反対のタイプだが、なんでか知らんが馬が合うらしく、一緒のグループに所属している。

胸はAカップ。どうでもいいけど。大和撫子って胸も慎ましいんですね。



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