ミディアの行方 ~ミルデランティ~
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ミディアがいなくなったことで、エリデランティが泣いて取り乱している。父上もまさかそんなことが門前で起こっていたなんて気が付いていなかったようだ。
今、父上は門兵を呼びつけているけど…どうなることだろうか。
それにしても何てことだろう…
屋敷の中の人間は甥のパシオリティと叔母上のアンナクランツェの2人ばかりに目を向けていた。その前は義母の身の毛がよだつ所業のせいで、使用人達も大混乱していたのが容易に想像がつく。
誰もがミディアがその時どうしていたのか…気が回っていなかったのだろう。普段から手の掛からないしっかりした女の子だし、それがまさか屋敷の外に出されているなんて…
門兵から聞き取りを終えて戻って来た父上は目を吊り上げていた。
「門兵もあのメイド2人も解雇だ!」
「どうしたんです~?」
俺がそう聞くと、俺を見た父上は盛大な溜め息をついた。
「門前にミディアがメイド達に連れて来られた時に、母親がすでに門の外に出されていたので…ああ、娘も追い出されるのか…と何の疑いも無くそう思ったそうだ。全くっ!何故確かめない!!」
「父上、だったら答えはひとつだ。ミディアは自分が追い出されたと思っているのではないですか?」
「っ……!」
エリデランティと父上が……叔母上もハッとしたように顔を上げて俺を見た。
「兄上…早く捜索をお願いします!」
「分かった、警邏部隊に行こう」
フラフラのエリィを連れて転移魔法で城に戻った。城の庭には転移魔法で移動する術者用に、特別な区画が設けられている。
つまりいきなり転移で飛び降りて来ても、人と接触事故を起こさないように魔法で防御してくれている特別区画になっているのだ。その特別区画は…術者には有難い設備なのだが、実は城の端の方に設置されている。つまり…各部署の役人棟などから遠いのが難点なのだ。
転移を終えるとエリデランティと警邏部隊の詰所に向かう。城内では魔術の多用は原則禁止なのだが、特別区画から本棟は遠すぎて時間がかかる。魔法で体を軽くして走り抜けた。バレたら始末書かな…
エリィと2人、警邏の事務所に駆け込むと近くにいた事務員の女性に挨拶もそこそこで急いで説明をした。
「しょ……少々お待ち下さい」
と、女性が事務所の奥に小走りで走って行って暫く待っていると、俺の知っている警邏部隊の副隊長と隊員が足早にやって来るのが見えた。
「ミルデランティ隊長、義妹が行方不明だって?」
「どんな状況で?」
俺は義母の所業は不貞行為とぼかしたが…それ以外の状況を2人の隊員に説明した。すると副隊長が
「う~ん門前に連れ出された後…そこからは義妹さんの意思で屋敷を離れた可能性が高いんだよね?」
と言った言葉に思わずエリィと顔を見合わせた。た、確かにミディアが自分で離れた可能性が高いけど…
「そうなってくると、事件性が薄いということで、『家出』という扱いになってしまうので警邏では捜索は出来なくなるのだが…」
「家出っ!?」
「そんなっ!?」
エリデランティの悲鳴に近い絶叫が詰所内に響いた。先程取り次ぎをしてくれた事務員の女性が、心配そうな顔で俺やエリデランティの顔を見詰めているのが視界に入った。
「ミディアはまだ9才なんですよ!?屋敷から連れ出されて出て行けと言われたら…深く考えること無く従ってしまう年齢です!」
エリデランティの言い分は最もだ。だが…
「でもね、もう9才とも言えるよ?家の外に出されたと分かったら大人に訴えるとか、周りの状況を見て行動に移す事の出来る年齢だ」
そう言った警邏の副隊長の意見も一理ある。
そうだよな…確かに子供でも何も分からないチビでもない。特にミディアは大人びている。自分の置かれた立場をよく理解して行動に移しているはずだ。
そう…よく理解しているからこそすぐに、ラバツコンテ家から遠ざかろうとした?ミディアは厄災の元である、実母から早く逃げ出したかったんじゃないだろうか?いつまでも門前にいてはアリフェンナに頼られ縋られてしまう…その危険性に一早く気が付いて逃げ出したんだんじゃないか?母親を見捨てて…
ちょっと笑いそうになってしまった。これはあくまで俺の予想だけど…俺だってもしミディアの立場になったら、あんなクソババアの元から早く立ち去りたい。関わりたくないから逃げ出すわな。
「分かりました、では公爵家で独自で捜索することにします」
「あっ兄上!?」
エリデランティの腕を掴むと、暴れるエリィの顔を覗き込んだ。
「よーく考えろ、エリィ。俺達の知っているミディアはあのアリフェンナと一緒に叩き出されて大人しくしていると思うか?」
「!?」
エリデランティの目に力が戻って来た。そうだ、よく考えろ…あの年齢よりも大人びているミディアだぞ?
「あのまま門前に居たら、あのアリフェンナに八つ当たりされそうじゃないか?俺だったらあのババアに縋られたり詰られる前に逃げ出すよ。関わりになるのは怖いよ…お前はそう思わないか?」
エリデランティもようやく冷静になって考え始めたようだ。
俺は言葉を続けた。
「ミディアならまずは見付からない所に移動すると思う…今の態勢を整える為にだ。それにミディアは俺達…ラバツコンテに追い出されたと勘違いしている可能性が高い。となると…俺達に見つからないように人目に付きにくい場所へ逃げだした…こう思わないか?どうだ?」
エリデランティは俺の腕を掴んだ。目には生気が宿っている。
「ミディアなら…逃げ出して自分で何とかしようとすると思う!兄上っミディアは生活の為のお金を稼ごうとするんじゃないかな!」
そうかっ!流石、俺よりミディアと付き合いが長いエリデランティなだけはある、それが正解な気がする。
「ミディアでも稼げる職種となると…」」
「兄上…もしかして職業斡旋所に行ったんじゃ?」
「え?公所の中にある?ミディアがそんな場所知っているかな?」
「それもそうか…」
こう言っちゃアレだが俺もエリデランティも公爵家の子息だ。仕事を求めるとなると、エリィが言った国の公所に設置されている職業斡旋所…つまりは働き手の募集の案内所に行って働き口を自ら探す……ぐらいしか思いつかない。
後は手っ取り早く金を稼ぐとなると、最終手段の犯罪くらいしか思い付かないのだが…あの正義感の塊みたいなミディアが自ら犯罪に手を染めるとは思えない。
「あの…坊ちゃま方…口を挟んですみません」
背後から急に声がして気が付いた。転移魔法でラバツコンテ公爵家の私兵団の団長のビューデが一緒に来ていたのだった。
ビューデ団長は恐る恐る俺達に話しかけてきた。
「商店街に行きますと、職業斡旋所にある本格的な求人ではなく、小さな子供のお小遣い稼ぎの出来る御用使い等の仕事がありまして…それならばミディア様でも働けるのでは?」
「何だって!?そんな仕事があるのか?」
「兄上っ商店街だ!」
俺とエリデランティはビューデと共に商店街に向けて駆け出した。何も走らなくても良かったのだが、気が急いていた。
そして3人で商店街の入口に駆け込んだ…のはいいがよく考えればどこを探せばいいのか分からない。俺達は…ビューデも含んで出自の良い子息ばかりだった。こんな時に誰に何を聞けばいいのか分からず茫然となっていた。
そんな時に商店街を歩く警邏巡回中の軍人を見つけた。そうだ…彼らに聞けば…
「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが…」
と、声をかけると面識のある俺より少し上の先輩達だった。ミディアの件は伏せて…子供がお小遣いを稼ごうとするのなら、どこに行くだろうか?と聞いてみた。
「何?迷子でも捜しているのか?」
「そうだな~テレイア菓子店はどうだ?あそこは個人宅への配達が多いんだよ」
「ああ、あの焼きたてのマソートを届けてくれるアレだろう?そう言えばあの配達人は子供が多いよな?」
その警邏の先輩達にお礼もそこそこにその場を去ると、今度はマソート菓子店に駆け込んだ。
こぢんまりとした店内ではあるが奥の厨房の間口は広く、店の入口からでも中で菓子作りをしている複数人が見える。
「は~い、いらっしゃいませ」
少し年配の女性が奥の厨房から俺達の方へ小走りに近付いて来た。俺は小間使いの仕事を頼んだ中にミディアがいなかったのかどうかを聞いてみた。
「金髪の儚げでお人形のような可愛い女の子…ねぇ、ねえ?そんな可愛い女の子来てたっけ?」
とその女性が奥の厨房に声をかけると、奥から
「知らねぇな~」
「もし来たら、知らせてあげるよ」
との声が飛んで来た。俺は心配げな表情をしている女性に礼を言って、もしその少女に似た風貌の9才くらいの女の子を見かけたら警邏に知らせて欲しいと伝えて店を出た。
店を出ると明らかにエリデランティは気落ちしていた。
「兄上、どうしよう…ミディアは本当に儚げで…地上に遣わされた女神の化身のようで…見るものを魅了する美の魔力を放出しているから、きっときっと…あの可憐な可愛さに目を付けられて人攫いに遭ったんだぁ!」
「落ち着けって…あのミディアが大人しく人攫いに攫われると思うか?さっきの警邏の副隊長の感じでは、ミディアらしき女の子が暴れているような目撃情報も無いみたいだ。おまけにラバツコンテ公爵家の周りは王城にも近くて人通りも多い。まずこの辺りで人攫いは出ないはずだ。あのミディアが自ら人攫いに遭いやすい場所に行くとは思えない」
「じゃあ…どこにいるんだよっ!っくそ…ミディアー!」
「あっ!?おいコラ!」
取り乱したエリデランティがミディアの名を叫びながら通りを爆走しだした。
ところが道を歩く人達が、エリィを追いかける俺と強面のビューデの姿を見て、男の子が男2人に追いかけられている!と勘違いしたらしく通報されたみたいで
「少年を追いかけ回しているのは貴様らか!」
と言って俺とビューデが商店街のど真ん中でお縄についた。すぐに誤解だと分かって巡回の警邏の若い隊員には平謝りされた。俺も恥ずかしかったけど、ビューデがその手の性癖の変態おじさんだとご婦人方に大声で罵られてしまって、いたたまれなかった。
道の真ん中でエリデランティを叱ったり、警邏の隊員に弁明したり…とその日は疲れ果てて帰路についた。
あの日から数日経ったがまだミディアは見付かっていない。流石に俺も中々見つからないミディアに不安が募って来ていた。
オバ一号「ちょっと警邏のお兄さん!あそこに男の子を追いかけ回している男2人がいるよ!ありゃぁ変態じゃないのかい!」
オバ二号「気持ちの悪いっ早く捕まえとくれ!あそこに変態がいるよぉ!」
ビューデ&ミル兄「………」




