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ミディアの行方 ~エリデランティ~

貴族の爵位継承等の知識はフワッとしたものです。やんわりと読んでいた頂ければ幸いです

誤字修正をしています

軍属になって半年…月に一度あるか無いかの休みの度に、ミディアに会いに実家に帰っている俺。


ああ、早く俺のミディアに会いたいな…と第一分隊の隊長室に向かっていると、廊下の先から実兄のミルデランティが必死の形相で駆けて来るのが見えた。


「エリィ!ちょっと来い!」


兄上に腕を掴まれて、隊長室のすぐ横の備品保管室に押し込められた。何だよ?


「今、家からヤユーデが知らせてきた。アリフェンナ様がパシオリティに……その……してだな……それで父上が大層怒っているらしい。」


言い淀む兄上の言おうとしている言葉に予想がついた俺は戦慄を覚えた。油断していた…!従兄弟のパシオリティはまだ5才だ…もしかして…そうなのか!?


兄上は俺が顔色を失くしているのに気が付いたようだ。


「お前…心当たりがあるのか?もしかして…お前もアリフェンナ様に何かされたのか?」


「!?」


兄上は俺の肩に手を置くと


「エリデランティ…」


俺の顔を覗き込んで来た。言うのは恥ずかしい…でもミディアがエリお兄様に恥ずべき所は無い!と何度も力説してくれた言葉を思い出して、勇気を振り絞った。


「俺も…数回触られたり…触れと言われて…その……」


「っ!くそっ!?」


兄上の魔力が震えて大きく波打つ。


「父上はアリフェンナ…を警邏に突き出すそうだ。どうやら他にも被害にあった子がいたようで…今、家では大騒ぎだそうだ」


ああっそうか。俺、以外にもあんな恐ろしい思いをしている子供がいたのか。


「ミディアが…ミディアが俺を助けてくれたんだ」


「っえ?本当か?」


「うん…俺を庇ってずっと守ってくれていた…ミディアが体を鍛えて反撃できるようになればいい、と教えてくれたので、それから体を鍛え始めたんだ」


兄上は目を見開いた後に少し笑った。


「そうか……あの子は凄いな。お前が急に体力作りを始めたのはそれが原因か」


俺は頷いた。そうミディアのお陰だ、きっとミディアは俺を助け出して…そうだ。


「パシオリティは、大丈夫かな」


「そうだな、そうだ!こうしちゃいられない。今から休暇申請を出して一度、家に戻ろうかと思うんだが…」


「お、俺も行く!」


兄上はちょっと怖い顔をした。


「上官に申請していない休暇は許可出来…」


「上官は兄上だろう!早くしてよ!」


そう兄上は軍では抜きん出て強く、統率力もあるらしく既に第一分隊の隊長…俺の上官なんだ。


俺と兄上は慌てて実家へと帰ったのだった。


王城の近くに居を構える公爵家の屋敷は大騒ぎだった。何故ならまだ門前でアリフェンナ…様というのもイヤだけど、あのクソババアが泣き叫んでうちの私兵と侍従とおまけに警邏共と揉み合っていて、それが往来を歩く人々の注目を浴びていたからだ。


兄上は一瞬で正門で揉めているクソババアの所へ飛んでいくと、何か魔法を揮っていた。多分あの女を昏倒させたんだろう。ぶっ倒れたクソババアは警邏の先輩方に担がれて護送車に入れられて連れて行かれた。


それを見送ってから、俺と兄上が門から邸内に入ると


「坊ちゃま方お騒がせ致してまして、申し訳御座いません」


出迎えてくれたヤユーデとメイドのラシリアが低く頭を下げていた。


「パシィは大丈夫なのか?」


俺は真っ先にまだ5才の従兄弟の様子を聞いた。するとヤユーデは頷いてくれた。


「驚いて泣かれてばかりおられますが、坊ちゃま方のお顔をご覧になられたらきっと落ち着きましょう」


俺と兄上は急いで叔母上とパシオリティの元へ向かった。貴賓室に居た叔母上とパシオリティは俺達が現れると、泣き笑いの顔を見せた。


「お兄様っ!」


パシオリティは泣きながら俺達の方へ走って来てミルデランティ兄上に飛びついていた。


「何とも無いな?大丈夫だな?」


兄上がそう声をかけるとパシオリティは泣き出した。


「うん…うん…ミディアお姉ちゃまが助けてくれたぁ……ひぃぐ……うわわんっ!」


その言葉を聞いて気が付いた。ミディアはどうした?彼女なら絶対にこんな状態のパシオリティの傍を離れる訳はない。


「ミディアは?」


俺が叔母上を見ると叔母上はハンカチで目元を拭きながらキョトンとして、周りのメイドに顔を向けた。


「ミディちゃんはさっきまで……居たわよね?」


すると周りのメイドも頷いている。


「お部屋に戻られているのでしょうか?」


と、年嵩のメイドがそう答えたので俺はミディアの部屋へ向かった。ミディアに礼を言いたい。俺だけでなくパシオリティまで救ってくれるとは…


「ミディア?入るよ?」


部屋に入ると…ミディアはいなかった。あれ?図書室かな?俺の知っているミディアの行動範囲は自室か図書室のどちらかしかない。


ミディアは読書好きだからな…と思い図書室に行ったが、ここにもミディアはいない。こんな大騒ぎの中どこへ行ったんだ?俺は調理場、使用人の控室…裏庭、温室…声をかけながらミディアを捜した。俺が捜していると、他のメイド達も捜し始めてくれた。


「おかしいですね、ミディア様はお年の割にとてもしっかりされた方ですし、誰に断りも入れずにどこかに行くなんて考えられませんよ?」


ミディア付きのムナッセが首を捻っている。


「ムナッセは先程までのミディアを見ているんだな?」


ムナッセはパシオリティがアリフェンナに部屋に連れ込まれた…と聞いたのは遅掛けの朝食を調理場の隅で取っている時だったそうだ。


ヤユーデ侍従長とミディアが声を張り上げてパシオリティの名を呼んでいることで、パシオリティの姿が見えないということが分かったのだ。


そこで、手隙の若い侍従の2人にヤユーデ侍従長と一緒に捜して差し上げてとお願いした後に、あの事件が起こったのだと説明した。


「確かにその時は、ミディア様がパシオリティ様を抱き抱えておられて…すぐにお越しになられたアンナクランツェ様にそのまま坊ちゃまを抱き渡しておられました。その後は騒ぎになって…どうしましょう、その後ミディア様がどうされていたのか気が付きませんでした」


「屋敷中が泣き叫ぶアリフェンナ様と旦那様の怒号と…そればかりに注視していて…」


そう言った乳母のラシニアの言葉に皆が頷いている。


確かに分かる。大人達…使用人達は事件の当事者である被害者と加害者のパシオリティとアンナ叔母上…そしてアリフェンナにのみ、皆が注視していただろう。ミディアへの注目が薄れていてもおかしくはない。


「それで父上はどうされているんだ?」


兄上が聞くと、ヤユーデ侍従長がハッとしたように顔を上げた。


「いけません、つい失念しておりました。旦那様はアリフェンナ様との離縁を速やかに申し出ると共に、トレイモア元伯爵夫人の罪を国に併せて訴え出てから、アリフェンナ様がお持ちの伯爵位の権限と伯爵家の領地権など全てをミディア様に譲渡出来ないかと考えておいでです。まだ今日の段階で正式な手続きは出来ませんが…警邏に拘束され今日にもアリフェンナ様は罪人として拘留されると思われます」


兄上はそうか…と言って唸った。


「うん、父上も怒ってて冷静さを欠いているかと思ったけど案外やるな…その方がいい。ミディアの実父はすでに鬼籍に入られているが歴としたトレイモア伯爵だ、彼女が正式に継承するのが望ましい。実際の領地経営などは婚姻した夫が行えばいいしな」


婚姻…兄上の言葉で心の中が乱れる。ミディアと婚姻するのはミディアの夫はこの俺だっ!そうだ、父上にお願いしてミディアとの婚姻の確約を取っておかなきゃ!


俺は父上の書斎に駆け込むと、何か書きつけている父上の前に立った。


「父上っ只今戻りました!」


「ん?おお…エリデランティ、ミルデランティも一緒か?聞いたか?実はアリフェンナが…」


「はい、由々しき事態ですね。許す事の出来ない醜悪な事件です。是非厳罰に処されるように嘆願して下さい。それには父上にも責任の一旦はありますよね?あんな女を招き入れたのは父上ですし。ですがそれと同時にミディアを我が家に連れて来てくれたのも父上ですので、そこは不問に致します。それで父上…今、父上が代理で管理されている伯爵領の領地運営と伯爵位の財産の全てをミディアに譲渡するおつもりだとか?」


俺の早口な言葉に父上は若干仰け反りながらも


「あ、ああ…ミディアには伯爵位の権利を全てを受け継ぐ義務と権利がある。一時でもあんな女に全権を委ねる訳はいかないので、ミディアが成人するまでの間は私が後見人として管理し、ゆくゆくはミディアの夫に引き継いで…」


と、俺と後から室内に入って来た兄上とパシオリティをチラチラ見ながら答えた。


「そのミディアの夫に関してですが、そこは当然この僕に権利がありますよね?」


父上はポカンとした後、また兄上や更に後から入ってきたアンナ叔母上をチラチラと見ている。


「あ~父上面倒くさいから、許可しておいた方がいいと思うよ。その方が後々エリィが味方についてくれるからさ」


兄上が溜め息と共にそう言った。父上はまだポカンとしているようだが、頷いてくれた。


「言質を取りましたよ、これで僕はミディアの夫ですね」


「まだだ、馬鹿っ!お前が軍で一人前になるまで婚姻は認めないぞ。まだ12才のくせに!せめて16才になってから言え!」


俺は兄上を睨みつけたが、そんな兄上よりアンナ叔母上の方がもっと怖い顔をしていた。


「ちょっとさっきからエリィは勝手に話を進めているようだけど、ミディちゃんと話はしているの?まさかミディちゃんの了承も得ずに婚姻だ、伯爵位だなんて言ってないでしょうね?」


いつもおっとりしているのに、やけに鋭い叔母上だ。するととんでもない所から横やりが入ってきた。


「お姉ちゃまは僕のお嫁さんだよ~?ねぇお母様!」


「なっ!?パシ…オリティ?何を言って…」


パシオリティは子供らしい純粋で綺麗な瞳で俺を見てきた。


「だってお母様がそれはいいわね~って褒めてくれたよ?」


叔母上を睨みつけるも、叔母上は俺を見ないで天井を見ている。パシオリティに何を吹き込むんだぁ!


俺はパシオリティの目線の高さまで腰を落として、目を見開いてパシィの目をこれでもかっという具合に覗き込みながらねっとりと囁いた。


「残念だったね~パシィ~ミディアは生まれた時からエリィお兄様のお嫁さんなんだよぉ~」


「ふ…ふぇ……」


「こらっ!ちびっ子のくせにちびっ子を脅すな!兎に角、ミディアを連れて来い、話はそれからだ!」


兄上にそう言われ…叔母上にも部屋を叩き出されたので、ミディアの捜索を開始した。


しかしどれだけ捜しても屋敷内にはいない…流石にこれはおかしい。俺はメイドや侍従を広間に集めると


「今しがたのアリフェンナ元夫人の騒ぎより後に、ミディアの姿を見た者はいないか?」


と、聞いてみた。皆は首を傾げたり隣にいる同僚と確認し合って首を捻っている。そんな中…顔色を悪くしている若いメイドが2人居た。1人はアンナクランツェ叔母上付きのメイド。もう1人は最近メイドになったばかりの俺と同い年だという少女だった。


「あの顔色を変えているメイドを別室に連れて行け」


俺の指示でそのメイドは別室に連れて行かれた。俺もその別室に入ると、すでに兄上と父上が来ていた。父上がこれまた怖い顔で俺を見ている。


「エリデランティ…落ち着いて聞いてくれ」


「何ですか?」


「そこのメイド2人が先程の騒ぎの中、ミディアを捕まえて外に放り出したと言っている」


俺は驚愕して、俯いてブルブル震えているメイド2人を見た。


「ほら言えよ」


兄上が『誘導魔法』を使った。つまり自白を促す魔法だ。叔母上のメイドが淡々と話し出した。


「アバズレ女の子供なのに、いつまでもこのままにしておいては公爵家の皆様のご迷惑になるとすぐに外へ排除しました」


「!」


「子供のくせに生意気にも私に注意をしてくるガキだったので、いい機会だからと摘まみだして外へ放り投げました」


「……嘘だろう?」


魔法で自白をしてしまった2人のメイドは自分の発言を聞いて泣きながら首を振っているが、もう遅い。


「つまりこの2人は、母親のアリフェンナが追い出されたのを見て、ミディアも追い出してやろうと暴走した訳なのだ。そしてミディアはさして抵抗しなかったと見ている。現に誰一人としてミディアが追い出されたのを知らない。騒ぎにもなっていないところを見ると、ミディアは粛々と外へ出されてそのまま…どこかに行ったと…」


「父上!?何を吞気に…兄上!すぐに捜索をっ!ミディアの捜索をお願いします!」


俺は兄上に縋り付いて叫んでいた。



兄弟視点の話の時はエリデランティとミルデランティの兄弟コントをお楽しみ下さい

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― 新着の感想 ―
[一言] 何故アバズレビッチの母親が嫁ぎ先の伯爵位に着いていて、更に再婚して公爵夫人と言う意味の解らない状況になるのか???? 普通なら伯爵家の親族に譲渡するか、母親はそのまま伯爵家にいて娘の後見人…
[良い点] たくましいミディアちゃんがかっこいい!けど、追い出した義父最低 と思っていたのに、まさかの勘違い。 みんなに愛されていたとわかってほっとしました。 [一言] これから勘違いのままのすれ違…
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