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やっぱり野宿

宜しくお願いします

誤字修正をしています

「じゃあ12才になったら買取してくれるんですね?」


「はい…え?」


私は、抱っこしてくれていたお兄さんに「降ります」と告げて、その腕の中から飛び降りた。


「嬢ちゃんは、幾つだ?」


「9才です」


私を見下ろしている、抱き上げてくれたお兄さんは苦笑をしながら私の頭を撫でてくれた。


「ちょっと早ぇな?もう少し大きくなったら親御さんとおいで」


「……はい」


一瞬、どう答えようかと返答に詰まったけど、これは12才まで耐え忍ぶしかないのか?


「嬢ちゃん、俺が親…と言った時に体が強張ったな?もしかして親はいないのか?」


私の周りのハンターのお兄さん達がざわついた。「親、いないのか?」「着ているドレス…ちょっとボロいけど良い仕立てじゃねぇか?」…等々聞こえてくるけど、どうやってかわそうか…と思案している間に、抱っこしてくれたお兄さんがしゃがんで私と目線を同じ高さにしてくれた。


「魔獣を狩って、報酬を得たいのか?」


私は頷いた。お兄さんは焦げ茶色の瞳を柔らかく細めた。


「よし…分かった。お前の狩った魔獣は俺が代わりに買取に出してやるよ。報酬はお前に満額を渡す、どうだ?」


「ちょっちょっと待って下さいっキーザさん!それは…」


「違法じゃねぇだろう?俺が報酬を独り占めしていたら違法だろうけど、満額を渡すなら…代行しているだけだ」


受付のお兄さんは暫く迷っていたけれど、支部長に聞いてきます…と言って、部屋の奥に駆け込んで行った。


どうしよう…大事になっちゃったのかな…


「あ、あのお兄さん、私は今すぐじゃなくてもいいのよ。暫くは川で魚釣ったり、野草を食べたりして問題無く過ごせると思うから…」


「ええぇ!?」


私のアウトドアな生活はハンターのお兄様達にまたも衝撃を与えてしまったようだ。


「嬢ちゃん…今は魚獲ったり、野草食べてるのか!?」


キーザさん…というお兄さんが私の顔を覗き込んできたが、私は頷いた。


「はい、元々釣りは得意でしたし、釣った川魚を市場に売りに行ったりして僅かながらもお金を入手出来ていたのです。ただ野宿が流石にきつくなってきたので…」


「のっ野宿!?」


今度はキーザさん以外のお兄さん達も悲鳴?をあげていた。自然と私とキーザさんの周りにハンターのお兄さん達が集まって来た。


「嬢ちゃん、マジで親はどうしたんだ?まさか強盗とかに殺されたのか!?」


「え~と…」


「おいっもしかして…どっかから攫われてきたのか!?」


「あぁ…いえ…う~んと」


矢継ぎ早にお兄さん達から親に対する質問をされて、答えを用意していなかった私は狼狽えた。


そしてその時閃いた!嘘の中に真実を紛れ込ませるっ!これしかない!


「未亡人になった母がそこそこ良いお家に私を連れて後妻に入ったのですが、不貞を働いて屋敷を追い出されたのです。兎に角、ろくでもない実母だったので…捕まればとんでもない所で働かされる危険がありましたので私ひとりで生活しようと母から逃げてきたのです」


狩猟協会の事務所?の中は静まり返っている。これは…言い方を間違えたか?


するとキーザさんが大きな溜め息をついてから、私の頭をぐりぐりと撫でてくれた。


「うん…確かに嬢ちゃんは偉い。こんなちびっコなのにとんでもなく冷静で先を見ている。だけどな?この世界には孤児院というものがあってだな?そこに行って保護されれば、少なくとも成人するまで…後3年か?取り敢えずの衣食住の面倒は見てもらえる」


孤児院…うん、分かっている。でもキーザさん、私まだ9才と8ヶ月の見た目だけど中身はアラサー×二回の人生分を生きてるんだ。だから当然、孤児院の情報は得ている。だけど真っ先にそこは衣食住を求める安寧の住処候補から外したんだ。


何故なら…


「このラバツコンテ公爵領の孤児院はよその領の孤児院より、待遇が良いって聞くぜ」


そうこれだ!


孤児院は個人経営の院もあるのだが、そういう所は待遇が酷く下手をすれば人身売買の組織に売られたり、如何わしいお店の接待の仕事をさせられたり…ということもあるらしい。


その点、公爵家の出資する孤児院なら安心安全だからだ。分かってる!分かってるんだけどぉ!私の場合はその公爵家の孤児院に行ったら元義父に見つかり確実に追い出されてしまうのだ。


一番安全なのは……野宿。とんでもないけどこれが一番だ。


「いえ、孤児院の生活はどうも水が合わないようで……出来れば自活の道を選びたいのです」


またもハンターのお兄さん達は静まり返ってしまった。またおかしな発言をしてしまったようだ。


そして何やら何度も頷いているキーザさんに頭を撫でられた。


「そうだよな~こんな嬢ちゃんじゃ孤児院では肩身が狭くなるはずだ、うんうん」


「小さい女の子がハンターになりたいって?」


と、そこへ受付のお兄さんと一緒に、熊みたいな大きなオジサンがカウンターの奥から足早に歩いて来た。


多分このオジサンが狩猟協会の責任者だ…訝しげに私の方を見ている目を見て元剣士の勘が囁く。


こいつはヤバイ!今は退け!私は、一気に駆け出した。


「あっ!?」


「嬢っ…」


人混みに紛れながら身を低く…いや屈まなくても私は十分低いが、素早く移動しながら出来るだけ商店街から離れて路地裏の木箱の後ろに隠れた。


尾行はされていないようだ。しかし油断は禁物だ…不審な子供が山で野宿をしている、という大人の興味を引くワードを不用心にも狩猟協会で喋り過ぎた。


悪い解釈をされて、山狩りでもされてしまったら元も子もない。


今、ベースキャンプにしている開けた川岸から急いで移動しなくては…


再び山に戻り、いつもの川岸に到着すると焚き火の跡と煮炊き用に作ったプチ竈を崩して壊したおいた。


火の後の痕跡を消してから、少し移動した岩場の一枚だけ色の違う岩を動かして、隠しておいた登山グッズと乾燥させた食料を風呂敷(作った)に包み込む。背中に背負うと山頂を見上げた。


「もう少し上に移動しよう」


いざと言う時の、逃走用の道を断たれる可能性があるから上に向かって登るのは危険だが、もしかすると山の中腹に開けた草原などがあるかもしれない。水場は暗黙の了解で、野生動物達の休憩スペース等で害獣から襲われるなどの身の危険が少ないので出来れば水辺が良いのだが、ハンターのお兄さん達の中には先程のやり取りで私の正体に勘付く人がいるかもしれない。


そのハンターに公爵家へ密告でもされたら、怒りに任せた元義父の追手が私を殺しにやって来るという可能性も無い…とは言えない。


元義父は悪い方じゃないとは思うのだけど、あのババアの被害に遭っていたのは義父が一番可愛がっている甥だったものね、確かにパックンは可愛い。またミル義兄様やエリちゃん達を思い出してしまった。そうだ、この騒ぎにエリちゃんも自分のおぞましい過去を暴露しているかもしれない。


黙っていろ…と言ってしまった私はまるで実母を庇っているように思われないだろうか?いや…そう取られてしまう可能性が高い。八方塞がりだ…


「くぅぅ…暫くまた野宿かぁ…せめてミルお義兄様でもいてくれれば怖さ半減なのになぁ」


そう…元美少年…今は若干おっさんになりつつある17才のミルデランティお義兄様は、軍属なのだが剣術も魔術もすごくてとても強いらしい。たまにしかお屋敷に帰って来なかったけれど、会えばいつも「ミディア~ミディア~」と私を可愛がってくれていて町へ遊びに連れて行ってくれたし、デート?と称して珍しい場所へも誘ってくれたりしていた、義妹思いの優しい人だった。


お義兄様達は…私とババアが追い出されてどう思っただろうか?きっと実害のあったエリちゃんは、やっといなくなったと安堵しただろう。


でも少しぐらいは私に同情してくれただろうか…


「くううぅぅ!泣けるぜっ…これでもアラサーなのにさぁぁ、ヤッホーー!やけくそだぁぁぁ」


私は泣きながら山を登って行った。


そんなアラサー女の私の願いが通じたのか…開けた平地が山の中腹に存在した。周りが良く見渡せる…左の斜面の辺りに横穴の洞窟が見えた。蝙蝠や夜行性の魔獣の巣穴の可能性があるので、一晩様子を見て使えそうなら洞窟の中を根城にしてしまおう。


先ずはベースキャンプを作って…それから山菜摘みに出かけよう。


「よしっ…!」


小さく声を出して気合いを入れ直すと、煮炊き用の窯を作ることにした。


夕刻が来た。暗いなぁ…と思っていると私の掌から光の玉が飛び出した。


「ああ、光魔法か…」


この世界には魔力がある。そして元剣士をしていた世界にも、実は働くアラサーの事務員のおねーさんの世界でも魔力は存在していた。


元剣士の時に魔力の使い方を覚えていたので、アラサーのおねーさんの時でも人目が無い所では魔法を使っていた。結構便利なんだけど…今は子供だからだろうか、魔力の出力が安定しなくて魔法が使える時と使えない時がある。


安定して使えないと困るよねぇ…これも訓練しなくちゃいけないよね。


しかし光魔法が発動していて明るさは確保しているといっても山は山だ。夜行性の獣の鳴き声は聞こえるし、洞窟から魔獣が出てくるかもしれないとお金を貯めて買った唯一の武器、小型ナイフを手に握り締めて緊張しながら洞窟の入口を睨む。


むぅ?洞窟の奥の方から獣の匂いが漂って来る…気配を殺して息を潜めた。


「……グゥ……ゲッ……」


結構大きな丸々としたボディの四足歩行の哺乳類…と思わしき生き物だ。獣臭い…だったら狙うは首元の頸動脈だ。獣との間合いを計る……今だ!


山に獣の断末魔が響いた。血飛沫が上がったし、獣の血の匂いが辺りに飛び散ろうとしていた…が、今日は魔力の出力が安定していた為に『消臭』『洗浄』の二つの魔法が使えて獣臭の拡散を防ぐことが出来た。


ドオゥゥ……と音をたてて横倒しに倒れた獣を見詰める。うん、我ながら一撃だ。腕は鈍っていない。


これ…市場で買い取ってくれるかな…あ、そうだ倒れた獣に魔法かけておこう。今日は使えるみたいだし…急いで『防腐』『魔物理防御』を獣の体にかけた。


完璧!本当は食べてみたいけど調理方法が分からないし、もしこの獣が売れたらお料理の本と獣図鑑を買ってみようかな~


という訳で、朝まで洞窟の入口を見ていたがそれ以降は新たな獣が出てくることはなかった。


そして朝になった。しかし困った…夜のうちに獣にかけていた魔法はまだ効いている。防御魔法も使ったので…野鳥に突かれたり、他の獣に食べられたりの危険は今は無いと思う…今は。


「何で今日は魔法が使えないんだよぉ!こんな大きな猪みたいな獣、私じゃ魔法無しでは運べないよぉ」


暫く思案したけど、諦めた。何か言われたり詮索されるのも腹を括った。


私は獣の上に大きな葉っぱをかけて取り敢えずカモフラージュをすると、走って下山して昨日訪れた狩猟協会の事務所に飛び込んだ。部屋の中を捜し回ってキーザお兄さんを見つけた。


「おにーさん!」


キーザさんは、ああっ!と声を上げると私の方に屈みながら近づいて来てくれた。


「昨日どうしたんだよ?あ、支部長がごつくて怖くなったんだろう?支部長昨日さ、逃げ出した嬢ちゃんを捜し回ってたんだぜ?見付からないからって、心配してたんだぜ」


「ごめんなさいっあのね、それでね…昨日、山で大きな獣を倒したんだけど1人で運べないからおにーさんに助けて欲しくて…」


キーザさんはポカンとしていた。


「倒した…?」


「うん、大きくて丸いの…あれ?え?え?」


私の体がグイィィ…と天井に引き上げられた。気が付くと誰かに肩車をされていた。肩車をしているのは、昨日しぶちょーと呼ばれていたごついオジサンだった。


「よっしゃ!じゃキーザ!ちょっと嬢ちゃんの腕前を確認してみようか!」


キーザさんとしぶちょーのオジサンに肩車されたままの私は、その恰好のまま山へ向かったのだった。


暫くサバイバルな生活が続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かなり好きです!ミディアちゃん頑張ってー! [気になる点] 作者様の技量で稀に見る気持ち悪さになっていたショタコンくそばばあがどうなったのか気になる。顔面偏差値はかなりの高数値のようなので…
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