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外れスキル『自然回復力アップ』を極めたら、肉弾戦で最強になったお話

作者: 笹 塔五郎

「お前のスキルで冒険者になれるわけねえだろ、バーカ!」


 ――そんな言葉を同年代の子から投げかけられても、俺は言い返すことができなかった。

 孤児院で育った俺は、幼い頃からいずれは冒険者になりたいと思っていた。

 ……幼い俺を助けてくれたのが、冒険者の人だったらしい。

 俺はその人を覚えていないけれど、どこかの国で騎士になるよりも、自由に誰かのために仕事ができる冒険者に憧れた。

 けれど、八歳になった俺が『スキル判定』を受けた時のことだ。

 俺のスキルは『自然回復力アップ』――戦闘向けでもなければ、サポート向けでもなかったのだ。

 スキルがなければ冒険者になれないのかと言われると、正直かなり難しいと聞く。

 たとえば突出した魔力があるとか、スキルに頼らなくても優れた剣術の才能があるとか……そういうのがあれば、冒険者になれる可能性はあるだろう。

 けれど、俺にはいずれも才能がなかった。

 努力をしても、才能のある人間には追い付くことができない。

 ――それても、俺は諦めることはしなかった。


「ふっ、ふっ!」


 毎日、木剣を握りしめて振るう。

 魔力が少ないから……魔法よりはまだ剣術の方がましだと考えた。

 朝から晩まで剣を握って修行に明け暮れることもある――唯一、俺のスキルにメリットを感じるのは、一日中剣を振るって手の皮が剥けてしまっても、翌日には治っているということ。

 だんだん治りが早くなっていることに気付いたのは、十歳になった頃だった。

 スキルは使えば使うほど強くなる――それは聞いたことがあるけれど、果たして俺のスキルに未来はあるのだろうか。

 迷ったけれど、もしもこのスキルを磨いたら……傷がすぐに治るなんてことにならないだろうか。

 そんな淡い希望を持った俺は、ある時から隠れて森に向かうことにした。

 そして、俺は魔物と戦って深手を負った。

 当たり前だけれど、俺がまだ魔物に勝てるはずもなく……身体中を傷だらけの状態で近くにたまたまいた冒険者に助けられた。

 治るのには最低でも一月以上はかかると言われたけれど、俺の傷は数日としないうちに完治した。

 みんな驚いていたけれど、俺はそれで理解する。

『自然回復力アップ』のスキルは、成長するととんでもない速さで回復できるようになるのだ、と。

 その日から、俺は魔物と進んで戦うようになった。

 剣の道ではなく、武器を持たない真っ向勝負の修行を始めたのだ。

 大怪我をすることはもちろんあったけれど、日に日に治る速度は上がっていく。

 ある時は大木や岩に向かって文字通り『拳が砕ける』まで打ち込みを繰り返す。

 これを繰り返すと、俺の身体が壊れる前にやがて大木はへし折れ、岩も砕けるようになった。

 高所から落下をすれば、初めの頃は大きな怪我をした。

 死ぬかもしれないとも思ったが……スキルのおかげで怪我をするとすぐに回復が始まる。

 目に見えてスキルが強くなっていっているのが理解できた。

 そんな生活を続けて五年――俺は孤児院を出て、冒険者になる時が来た。

 魔物とも戦いを続けたおかげか、剣で戦う技術にも磨きがかかり、俺は冒険者になる前にけじめをつけにいくことにする。

 ――それは、すぐ近くの森にいる魔物と戦うこと。

 その魔物の強さは、冒険者のランクで言えばCランクは必要だと言う。


「グゥル……」


 俺よりも大きな身体をした狼が、そこには立っていた。

 俺が初めて戦って、大怪我をした魔物だ。


「久しぶりだな。今日は勝たせてもらう――」

「グラァッ!」


 魔物に言葉など通じるはずもなく、狼の魔物は瞬時に距離を詰めて、俺の首元に食らいつく。

 だが、俺はそれを腕で防いだ。


「グッ……!?」

「お前の牙はまだ俺の皮膚を貫くか……だが、肉まで食いちぎるほどではなくなったようだな」


 ――鍛え上げた肉体は、狼の魔物の牙では引き裂けぬモノとなっていた。

 もう片方の拳を繰り出して、俺は狼の魔物を吹き飛ばす。


「――」


 一撃で、狼の魔物は動かなくなった。


「ずっと前から勝てる気はしていた……だが、これで確信したよ。俺はこれで冒険者になれる」


 狼の魔物に噛みつかれた腕を見ると、その傷はすでに完治している。

『自然回復力アップ』スキルを極めた結果だ。

 このスキルと、このスキルによって磨き上げた己の肉体のみで、俺は冒険者として――俺を救ってくれた人のように誰かのために働こう。


「よしっ、いくか!」


 拳を握りしめて、旅に出る。

 ――最強の『タンク職』と呼ばれるようになるのは、もう少し先のことだ。


外れスキル的な物語です。

自然回復力に身を任せて磨き上げた肉体は最強になるはず……!

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[一言] 頭おかしい鍛え方をして最強になった主人公は好き
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