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異世界余生は10年お試しで。  作者: 碧海てーか
3/5

挨拶と友達 その1

ジュリ視点

 今日は、近所の子達に挨拶しに行く日。異世界の格好のままじゃ良くないから、とリーカさんに渡された紺色のワンピースを着る。

 緊張、するなぁ......。ジュノに頼りっぱなしじゃダメだからね。私も頑張らないと......!


「お待たせしました」


 リーカさんとジュノに声をかけると、リーカさんがふわっと微笑んだ。


「よく似合ってるよ。さすがあたしの見立て!」


 誇らしげに笑うリーカさんが面白くて、思わずクスッと笑うと、ジュノが安心したように笑った。

 ジュノに心配させているのは分かっているけど......。


「姉ちゃん、準備できたし、行こうか」

「うん!」



 リーカさんに連れられ、初めて外に出る。


「あ......雪!」


 ぱらぱらと雪が舞っている。地面に落ちた雪はじゅわぁっと溶けて消えた。

 積もらないし、あんまり寒くないね。過ごしやすそうで何より。

 それよりも、だ。


「え、ここ......リーカさんの敷地ですか!?」


 見渡す限り、全て庭。所々に東屋らしきものが見える。冬だからか、あんまり花は咲いていない。


「そうだよ。んー......豪商とか、お貴族様のお屋敷の庭はもっと広いみたいだよ? だから、そこまで広いわけじゃないかな」

「え!? これでも結構広いと思いますけど」


 ジュノが目を輝かせて走り出す。こういうところは身体年齢に引きずられるのかも。


「今から行くのは貴女達と同い年の子達の家ね。あたしのお客さんだよ。優しい子達だから仲良くなれると思うよー」

「リーカさんのお客さん......ですか?」

「そうそう。言ってなかったか。あたしね、薬師なんだよー」

「え......その子達はリーカさんの患者さん......?」


 リーカさんが薬師だったなんて! こんな広い家をこの若さで構えられるのも納得できる。


「ううん、違うよ。その子達のお母さんが患者さんなの。ちょっと困ったお母さんなんだけどー、いい人だから安心してねっ」


 ジュノをのんびり追いかけながら、リーカさんと話す。快活なリーカさんと一緒にいると、明るい気持ちになれる。いい人に拾ってもらえたな、なんて思ったりする。



「......わぁぁ!」


 リーカさんの家を出ると、広い道が広がっていた。周りの家も、みんな柵がある奥にお屋敷があるような広い家で、結構いい場所に住んでいることが分かった。

 人通りは少ないね。でも馬車がたくさんいるから、ある程度大きい街なのかな?


「こっからすぐだからねー」


 麻袋を抱えたリーカさんがガイドするように手を振る。高級住宅街っぽい区画の近くなんだから、いいとこの子達なんだろう。

 話が合うような子達だといいなぁ......。



 10分ぐらい歩くと、マンションみたいな建物が多く立ち並ぶ区画にたどり着いた。リーカさんは迷いのない足取りで、建物の間を歩いていく。あまりの複雑さに、ジュノも私も頭がこんがらがってきた。


「ここだよ。あたしがまず挨拶するからね」


 とある建物の2階。コンコンッと軽いノックの音が響く。


「はぁい」


 甲高い少女の声が聞こえてくる。この子が友達になるかもしれない子だろうか?


「リーカですー」

「リーカさん! こんにちは」


 飛び出してきたのは、銀髪ポニテの女の子。黄色と緑のオッドアイが異世界感満載。面倒見がよさそうな子で、一安心。

 可愛い子だぁ。ふふっ。


「兄ちゃんはいるー?」

「んー......呼んできますねっ」


 パタパタと女の子が部屋の中に消えていく。リーカさんになついているみたいで、微笑ましい。


「こんにちはー......ふわぁぁあ」


 あくびをしながら現れたのは、大人びた男の子。声変わり前の高い声がよく通る。


「今日はね、貴方達に紹介したい子がいてね。......ほら、おいで?」


 リーカさんに手招きされて、恐る恐る前に出る。

 ......ちゃんと挨拶できますように。


「はじめまして。私、ジュリって言います。よろしくお願いします」


 ふっと前を見ると、男の子の目がわずかに輝いていた。

 んー......受け入れられたならいいんだけど。


「俺はジュノ。よろしくなっ」


 人懐っこいジュノがにへっと笑う。ちょっと空気がなごんだ気がする。


「オレはキセラ。......よろしく」


 キセラの顔は大人びていて、さっきわずかに輝いていたのが嘘みたいな感じだった。

 あう......嫌われてない、よね?


「ちょっと兄ぃ、そんなんじゃ怖がらせちゃうよー? わたしはフューサ。よろしくね?」


 友好的な笑みを浮かべたフューサがポニーテールを揺らして笑う。なんとなく大人びた笑顔は、キセラと似ている。


「キセラくんは、ジュリちゃんとおんなじ、10歳。フューサちゃんはジュノくんとおんなじ、8歳だよ」


 リーカさんが年が近くて良かった、と朗らかに笑う。


「リーカさん、ちょっと聞いていいですか?」


 フューサがおずおずと尋ねる。リーカさんはふわ、と微笑む。


「えっと......ジュリちゃんとジュノくん......黒髪ですよね? 珍しいですね」


 言外にどこの子だ、と聞かれている気がして、肩が強ばる。

 ......異世界人だなんて、言えないよね。どうしよう......。


「ん......孤児、なの。ちょっとわけありなんだけど。2人なら仲良くしてくれるって信じてるよ」


 リーカさんは嘘を吐いてない。リーカさんの答えに納得したのか、2人は頷いた。

 ハァ......。良かった。


「分かりましたー。ジュリちゃん、ジュノくん、よろしくねっ!」

「......リーカさん、友達っていうなら、リノ紹介したら? オレ達と仲いいから、家まで案内できるよ」


 キセラがニコッと控えめに微笑む。裏表のない子供らしい笑顔。


「リノちゃんかー。分かった。連れてってくれる?」

「はーい。フューサは......どうする?」


 キセラが振り向いて尋ねると、フューサは残念そうに首を振った。


「わたしは......家の手伝いがあるから。ごめんね」

「大丈夫ー。また遊ぼうぜっ」


 ジュノが笑うと、フューサは安心したように笑った。可愛い。

 わ、私も何か言わないと......。


「......また今度、この辺のこと......教えてね」

「うん! そんなん、オレが毎日でも案内するよ」


 フューサに言ったつもりだったのに、何故かキセラが返事した。毎日でも案内するって言われたのは嬉しいけど。

 早くここに馴染みたいな。


「じゃ、行こうか。ついてきて」


 次の子とも友達になれたらいいな。

 リーカさんがふふっと笑った。

読んでいただき、ありがとうございました。

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