挨拶と友達 その1
ジュリ視点
今日は、近所の子達に挨拶しに行く日。異世界の格好のままじゃ良くないから、とリーカさんに渡された紺色のワンピースを着る。
緊張、するなぁ......。ジュノに頼りっぱなしじゃダメだからね。私も頑張らないと......!
「お待たせしました」
リーカさんとジュノに声をかけると、リーカさんがふわっと微笑んだ。
「よく似合ってるよ。さすがあたしの見立て!」
誇らしげに笑うリーカさんが面白くて、思わずクスッと笑うと、ジュノが安心したように笑った。
ジュノに心配させているのは分かっているけど......。
「姉ちゃん、準備できたし、行こうか」
「うん!」
リーカさんに連れられ、初めて外に出る。
「あ......雪!」
ぱらぱらと雪が舞っている。地面に落ちた雪はじゅわぁっと溶けて消えた。
積もらないし、あんまり寒くないね。過ごしやすそうで何より。
それよりも、だ。
「え、ここ......リーカさんの敷地ですか!?」
見渡す限り、全て庭。所々に東屋らしきものが見える。冬だからか、あんまり花は咲いていない。
「そうだよ。んー......豪商とか、お貴族様のお屋敷の庭はもっと広いみたいだよ? だから、そこまで広いわけじゃないかな」
「え!? これでも結構広いと思いますけど」
ジュノが目を輝かせて走り出す。こういうところは身体年齢に引きずられるのかも。
「今から行くのは貴女達と同い年の子達の家ね。あたしのお客さんだよ。優しい子達だから仲良くなれると思うよー」
「リーカさんのお客さん......ですか?」
「そうそう。言ってなかったか。あたしね、薬師なんだよー」
「え......その子達はリーカさんの患者さん......?」
リーカさんが薬師だったなんて! こんな広い家をこの若さで構えられるのも納得できる。
「ううん、違うよ。その子達のお母さんが患者さんなの。ちょっと困ったお母さんなんだけどー、いい人だから安心してねっ」
ジュノをのんびり追いかけながら、リーカさんと話す。快活なリーカさんと一緒にいると、明るい気持ちになれる。いい人に拾ってもらえたな、なんて思ったりする。
「......わぁぁ!」
リーカさんの家を出ると、広い道が広がっていた。周りの家も、みんな柵がある奥にお屋敷があるような広い家で、結構いい場所に住んでいることが分かった。
人通りは少ないね。でも馬車がたくさんいるから、ある程度大きい街なのかな?
「こっからすぐだからねー」
麻袋を抱えたリーカさんがガイドするように手を振る。高級住宅街っぽい区画の近くなんだから、いいとこの子達なんだろう。
話が合うような子達だといいなぁ......。
10分ぐらい歩くと、マンションみたいな建物が多く立ち並ぶ区画にたどり着いた。リーカさんは迷いのない足取りで、建物の間を歩いていく。あまりの複雑さに、ジュノも私も頭がこんがらがってきた。
「ここだよ。あたしがまず挨拶するからね」
とある建物の2階。コンコンッと軽いノックの音が響く。
「はぁい」
甲高い少女の声が聞こえてくる。この子が友達になるかもしれない子だろうか?
「リーカですー」
「リーカさん! こんにちは」
飛び出してきたのは、銀髪ポニテの女の子。黄色と緑のオッドアイが異世界感満載。面倒見がよさそうな子で、一安心。
可愛い子だぁ。ふふっ。
「兄ちゃんはいるー?」
「んー......呼んできますねっ」
パタパタと女の子が部屋の中に消えていく。リーカさんになついているみたいで、微笑ましい。
「こんにちはー......ふわぁぁあ」
あくびをしながら現れたのは、大人びた男の子。声変わり前の高い声がよく通る。
「今日はね、貴方達に紹介したい子がいてね。......ほら、おいで?」
リーカさんに手招きされて、恐る恐る前に出る。
......ちゃんと挨拶できますように。
「はじめまして。私、ジュリって言います。よろしくお願いします」
ふっと前を見ると、男の子の目がわずかに輝いていた。
んー......受け入れられたならいいんだけど。
「俺はジュノ。よろしくなっ」
人懐っこいジュノがにへっと笑う。ちょっと空気がなごんだ気がする。
「オレはキセラ。......よろしく」
キセラの顔は大人びていて、さっきわずかに輝いていたのが嘘みたいな感じだった。
あう......嫌われてない、よね?
「ちょっと兄ぃ、そんなんじゃ怖がらせちゃうよー? わたしはフューサ。よろしくね?」
友好的な笑みを浮かべたフューサがポニーテールを揺らして笑う。なんとなく大人びた笑顔は、キセラと似ている。
「キセラくんは、ジュリちゃんとおんなじ、10歳。フューサちゃんはジュノくんとおんなじ、8歳だよ」
リーカさんが年が近くて良かった、と朗らかに笑う。
「リーカさん、ちょっと聞いていいですか?」
フューサがおずおずと尋ねる。リーカさんはふわ、と微笑む。
「えっと......ジュリちゃんとジュノくん......黒髪ですよね? 珍しいですね」
言外にどこの子だ、と聞かれている気がして、肩が強ばる。
......異世界人だなんて、言えないよね。どうしよう......。
「ん......孤児、なの。ちょっとわけありなんだけど。2人なら仲良くしてくれるって信じてるよ」
リーカさんは嘘を吐いてない。リーカさんの答えに納得したのか、2人は頷いた。
ハァ......。良かった。
「分かりましたー。ジュリちゃん、ジュノくん、よろしくねっ!」
「......リーカさん、友達っていうなら、リノ紹介したら? オレ達と仲いいから、家まで案内できるよ」
キセラがニコッと控えめに微笑む。裏表のない子供らしい笑顔。
「リノちゃんかー。分かった。連れてってくれる?」
「はーい。フューサは......どうする?」
キセラが振り向いて尋ねると、フューサは残念そうに首を振った。
「わたしは......家の手伝いがあるから。ごめんね」
「大丈夫ー。また遊ぼうぜっ」
ジュノが笑うと、フューサは安心したように笑った。可愛い。
わ、私も何か言わないと......。
「......また今度、この辺のこと......教えてね」
「うん! そんなん、オレが毎日でも案内するよ」
フューサに言ったつもりだったのに、何故かキセラが返事した。毎日でも案内するって言われたのは嬉しいけど。
早くここに馴染みたいな。
「じゃ、行こうか。ついてきて」
次の子とも友達になれたらいいな。
リーカさんがふふっと笑った。
読んでいただき、ありがとうございました。