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眠りの神と夢見る子守唄  作者: 銀河 凛乎
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第13章 すーぷー!!来い!!

授業が終わり、灯り点けも夕食も終えれば、先生の言い付け通り、医務室集合だ。

タナトスはベッドでゴロリと横になっている。

「さて…待たせたな」

先生はイスに座る私に薬品棚から小瓶を取り出して渡した。

「これは?」

「お守りだ。浄化の水。万が一、外で黒竜に魔法をかけられて困ったら飲みなさい」

「ありがとうございます」

…あれ?これ、渡すだけなら別にいつでも良くない?

「それで、すーぷーちゃん」

不思議に思えば、先生が改まって向かいに座った。

「はい?」

「すーぷーちゃんに聞きたいんだが…」

改めてられると緊張するな…

「なんでしょう?」

「すーぷーちゃんは…家族は?」

「……。いません。今は」

「ご両親を覚えてるか?」

両親…なんで?

「…なぜですか?」

「…おまえが自分に自信が持てないのには、そこにあるんじゃないかと思ったんだが…違うか?」

「……。さぁ?どうでしょうか?」


黒い目が泳ぎ、まるで他人事のように突き放す。

これは…アタリか。だが、その様子から、これはなかなか口を割らないかも知れない。

煌々と点いた白銀の明かりを指でなぞり、オレンジ色の光にしてみた。

「この光玉は長持ちするな」

それは作ってから未だにその役割を担っている。

「長持ち…そうですね。今度はより超寿命の光玉を目指してみましょうか?」

スレイプニルが、「それも良いなー」と呟き黒い目を輝かせた。

その素直な向上心と探究心に、教育者として嬉しくなる。

「…おまえには、こちらとしても学ぶ事が多い」

素直にそう言えば、スレイプニルはキョトンとした。

「…僕にですか?」

「そうだ。まず、この光玉も。今までならオレンジ色の光玉は不出来な象徴だった。でも、そうじゃなかった」

「……」

「既存の価値観を打ち破ってくれるのは、いつでもおまえのような自由な発想の若者だ」

「……それは…たまたまです」

それは謙遜でもなく、本当にそう思っているのだろう…その目にはなんの光も無い。

「…すーぷーちゃん…おまえが昨日、気力切れで倒れた時…言ったうわ言だけどな…」

「友達から聞きました。アレは弟の名前です」

サラリと先に答えるのは当たり障りのない方だ。

「…いや、その前に…」

ピクリと彼の肩が震えた。

不安そうに見てくる黒いその目は、傷付くのを恐れる子供の目だ。

「……聞きたく無いか?」

彼は大きく息を吐き、覚悟をして答えた。

「…それは…父の事でしょうか…?」

「…そうだ…でも、これは皆には聞こえていない。おまえのそばにいたのは、私とクストだけだったから」

黒い目がうつむき瞬いた。

「…父の事は…別に…。大した事じゃ無いんです」

ポツリと言うその表情は無表情で、そう自分に言い聞かせているようだった。

「…元々、父の記憶は母が亡くなってから、フラッと弟を連れて来た時からで…僕が3才か4才くらいだったかと…」

淡々と語る。

「それから3日毎くらいに家に帰って来てたので…何年もそれが当たり前のようだったんですが…ある日、急に弟が養子に出る事になったと言い出して…突然過ぎて驚きましたが、どうする事も出来ませんでした…。必ず戻って来るからと、弟は子供ながらに約束してくれました。でも、その日から…弟を連れて、父も帰って来なくなりました…」

帰って来ない?何があったんだ?

「…おまえは…どうやって生活して来たんだ?」

その時、何才だったか知れないが、子供だけでまともな生活ができるはずはない。

「僕には…生まれた時から師匠がついていてくれました。その人が親代わりで…」

「…師匠…」

「…はい…。まぁ…そんな訳で…父はフラッと現れ、フラッと消えた…そんな人です」

「何か…事故でもあったんじゃ無いか?帰れない理由が…」

「いえ。…僕も心配になって、師匠にそう言ったんですが、師匠は「それは無い。死んだら流石に連絡がある」と」

「…そうか…」

最低だな。子供を何だと思っているんだ。犬猫よりひどい。

「その人は…おまえに暴力を…?」

頭に触れられるのを嫌がるのは、殴られて育ったからか?

「いいえ。父は…むしろ、とても子煩悩なほうでした。香木の匂いがする人で…」

香木?まさか。そんなわけ無いだろ。香木の匂いを知っているのか?

「それは…間違い無いのか?」

「…昔から、何の匂いか気になってたんです。母のクローゼットからも同じ匂いがしていましたから…」

遠い昔のように話をするスレイプニルの言葉に耳をすます。

「先生が授業で教えてくれましたね。法術は遺伝…子供に受け継がれるって」

いでん?…まぁ、子に継承はそうだな。

「…。そうだ」

「だから、多分…両親か…どちらかに法術の資質があったんだろうと…」

「……父親に会いたいと思うか?」

「…どうでしょう…聞いてみたい事は無くは無いですけど…今更ですし。もう、いいんです」

スレイプニルはうつむき、小瓶を握りながら、そう言った。

「…もしかしたら、探せるかも知れないぞ?」

法術師であったなら、可能なはずだ。特に香木の匂いが付くほどの者ならば。

だが、その言葉にスレイプニルの黒い目は泳ぎ、ソワソワしだした。

「…先生…お気持ちは本当にありがたいのですが…僕の事は…その…そっとしておいてもらえませんか?」

「なぜ?…色々聞かれるのは嫌か?」

「…今更です。僕には終わった事なんで、間違っても調べたりしないで下さい」

「終わった事?…興味が無いのか?そんなわけないだろ。自分の親だぞ?今からでも…」

「いえ…その…今は良いんです。今、僕は…ただ、地味で、フツーに…平穏な日々を過ごしたいんです」

落ち着かない様子で願う少年に、それは無理だろう。と、言いかけてやめた。

これだけ才能がある奴が、地味で平凡な普通の学生でいられるわけがない。本人が望んだところで、嫌でもその光は人々を惹きつける。

とは言え、大人として本人の意思を尊重する事も大事だ。彼の生い立ちも少しだが知れた事だし。まだ聞けていない事もある。この様子では、無理に聞こうとしても答えないだろう。今は信頼を得るのが先だ。

「そうか…非常に惜しい事だが…いずれやりたい事が見つかるかも知れない。その時までゆっくり考えるのも大事だろう」

とりあえず、今はな。

「…先生…僕…先生には感謝してます…皆にも…。この気持ちは本当です」

叱られた後のような顔をして言うスレイプニル。

「そうか。すーぷーちゃんは…いつも謙虚だな」

苦笑して答えれば、オレンジ色の光を見つめて、彼はどこか不安そうにしていた。

『…僕に…僕に親切にしないで…』

横顔にその言葉が重なり、どうにも気になる。そっとしておいてくれ。と頼まれた矢先にこれだ。

なんだ?何がある?こいつが抱えている何かに…。

「先生…そろそろいいでしょうか?僕、アイティールにも呼ばれているんです」

「…ああ。そうか。では…くれぐれも気を付けて週末を過ごしなさい」

「はい。ありがとうございます」

彼はペコリと会釈して医務室の扉を開ける。と、ベッドで横になっていたタナトスも、くっ付いて出て行った。

…明日、教会を訪ねてみるか…。

スレイプニルが言っていた香木の匂いが気になった。



校内の時と違い、一人前の法術師は外出の際に教会から指定された白い法衣を着る。

それは人種に関わらず、法術師であるというわかりやすい身分の証明でもある。

この法衣自体も階級によって意匠が異なるのだが、ローゼフォンは普段、仰々しい法衣よりも、簡素で着慣れた白衣の方が気楽だった。

とは言え、大聖堂を訪れるに際して、簡易の白衣ではあまりにも無礼だ。

それ以前に、戒律でも法衣は法術師の正当な衣服として決められている。

ローゼフォンは法衣をまとい、久し振りの大聖堂を訪れた。

長い赤毛に緋色の目…スラリとした身長と化粧は目立つ。しかもそれが法衣をまとっているならなおさらだ。

ローゼフォンを初めて見た人は驚きと奇異の目で上から下まで見た上で、態度が分かれる。

言葉を交わさなくてもわかる雰囲気に多いものは、動揺。疑問と、戸惑い、そして勝手な想像による醜聞だ。得てして人々は自分のイメージだけで相手を決め付ける。自分が理解出来ない事態に、その者が納得出来る理由を作り上げて…見慣れないモノを嫌悪する。

だが、自分で続けてきたこの罰も、16年続ければ周囲が慣れてしまい形骸化していた。

教会ではすでに、役職を持つ者でローゼフォンを知らない者はいない。それは悪評では無く、ローゼフォンが法術師としてこなしてきた仕事の評価に対してだ。

大聖堂には参拝や治療を希望する一般とは異なる入り口があり、常に教会専属の騎士が守っている。

騎士達はローゼフォンの見た目から、すでに彼が何者であるかは瞬時にわかった。が、それでも確認をするのが彼らの仕事だ。

「図書を閲覧したい」

法術師としての登録票を見せ、申し出てしばし待てば、中から大聖堂に勤める法術師が現れる。

「先生!お待たせしました」

一人前の法術師として白い法衣をまとい、案内についたのは、まだ若い薄茶の髪と目をした青年…士官学校を卒業した白竜の元生徒、クロムだった。

「クロムか。元気そうだな」

「はい!先生も」

はにかみながら笑う青年は、嬉しそうに頷いた。

「学校は…いかがですか?」

大聖堂の内部、法術師専用の廊下を歩きながら青年、クロムがおずおずと聞いてくる。

教会は内部も荘厳だ。法術師がその神秘的な能力を誇れるように、純潔を失う事の無いように…神の御使の僕として。

「そうだな。今年はハートのキングが現れた」

穏やかに笑いながら答えると、青年クロムの目が輝いた。

「出たんですか!?そうですか!!…え、どんな人ですか?!」

興奮して話に食いついてくるのも無理は無い。滅多に出ないからな。

「どんな…まぁ…色々、凄いな」

しかし、スレイプニルをどんな人物かと聞かれると…何から説明したものか悩ましい。

「凄いんですか…やっぱり…!!」

クロムは想像を膨らませている。

「あとは…まぁ…意外性もある…」

小柄で未成熟の少年の見た目とは裏腹に、入学初日から復活の奇跡を起こし、光玉3桁の錬成や、見たこともないアレンジ光玉の連発は、すでに規格外だ。これからどう育っていくのか。

「意外性ですか…それって、すごく…強そうな人ですか…?」

クロムは興味津々だった。

「…おそらく、お前が想像する人物像とは全く違うだろうな」

ローゼフォンは、青年の想像には、おそらく、かすりもしない少年の姿を思い出して、笑った。



アイティールと迎えの馬車に乗り込むと、ロビーに見えたローズ先生がいつもと違う装いのようで、目を凝らした。

「…どうした?」

アイティールが聞いてきた。

「いや…先生が、いつもと雰囲気が違ったから」

その言葉に、アイティールはチラリと目を向けると、馬車の席に座る。

「…白竜の顧問は法術師だ。外に出るならば法衣を着る」

「…へぇー」

いつも羽織っていた白衣は簡易的なものだったのか…。

とは言え、私もアイティールも学校を出る今は制服では無い。アイティールはジャケットを。私は学校に着てきた時の従者の装いだ。

「…ニルも、白竜のまま卒業したら、法術師として登録されるだろう」

アイティールのその言葉に、私は気が重くなった。

「……そ…そうだね…」

それは無いだろう。

どんなにアイティールが身元を偽装してくれていたとしても、性別や人種を偽ったままは無理だ。いつか露見する。しかも、おそらくそんなに遠くないうちに。

…マズイ…これはそろそろ本気で退路を考えておかないと…。

今日の王弟への挨拶もそうだ。架空のニルという存在がどんどん大きくなってきてしまっている。

馬車は御者の合図で進む。

その揺れが、自分の希望ではない未来へ連れて行く気がして、落ち着かない。

「…ニル…大丈夫か?」

「え。な、何?」

弾かれたように反応すれば、アイティールは心配そうに見ていた。

「顔色が悪い…」

「え。そ、そう…?」

「具合が悪いのか?」

具合は相当悪いです。が、それは体調という意味でなく。

「う、うーん…疲れかなぁ…?」

曖昧に笑って答えれば、アイティールは「…そうか…」と言って

「家についたら休んでいてくれ。夕方まではすることもない」と続けた。

「……あの…アイティール…今日の予定時間なんだけど…聞いても良い?」

おそるおそる、確認する。

「そうだな。おおよそだが、父上は夕方にはお見えになるだろう」

「う、うん。夕方ね…」

「それから招待客とのパーティーが…」

パーティー?!う、うわぁ!

「あの!アイティール?僕、大事な話があるんだけども!!」

ヤバイヤバイ!ムーンボウに行けないじゃないか!

私はつい、アイティールの言葉の途中で声をあげた。アイティールは驚いて瞬いている。

「…どうした?」

「う、うん。ごめん。…あの…僕、実は…パーティーには出れないんだ…」

「なぜ?」

「あの…これ…本当に申し訳ないんだけど…僕、その…白竜じゃない?」

アイティールの青い目が「それで?」と訴えている。

「それでいて…僕、今、黒竜に結構本気でお誘いをされてるみたいで…」

アイティールは「つまり?」と私を見ている。

「その…女性が多い所には行くなって先生が…」

そこで、ようやくアイティールは「…ああ…」と瞬いた。

「…なるほど…」

アイティールは自分の顎を触った。

いや、私としては女性にいくら言い寄られようが、構わないのよ?言い寄られないだろうけども、だ。

でも、ここはその理由を使わせてもらおう。

「しかし、ニルは黒竜に行きたくは無いんだろう?」

「う、うん。でも…そういう問題でもないらしいんだよね…クスト先輩の時は、いつの間にか魅惑の魔法をかけられて、大変だったっていうから…」

その言葉にアイティールは感心して言った。

「…そうなのか…そんな魔法もあるんだな…」

「う、うん。だから僕はアイティールのお父さんにご挨拶したら、席を外すね」

私の言葉にアイティールは、考えていたがやがて

「…そうか…仕方ない…」

と、残念そうに了承した。

ああ。ホッとした。これで抜け出せる時間は確保したぞ!あとはアイティールのお父さんと会うのがシンドイだけだ!

その私の安堵を、アイティールはそのままパーティーでの緊張と思ったようで苦笑した。

はぁー…もうこれ以上、このニルの姿や存在を誰かに披露しておきたくない…。

始めは身を守るための些細な嘘が…いつの間にか大きくなり過ぎていて、私は恐ろしくなった。

馬車はカタカタと揺れながらアイティールのお屋敷へと進む。

私の中の重たい罪悪感も乗せて。


「あ。スレイプ」

お屋敷に到着して、馬車から降りればジャックが白い馬。スレイプを連れて待っていた。

「おかえりなさいませ。殿下」

口々に出迎えて挨拶する使用人達にアイティールは簡単に、「ああ」と応えていた。

そんな中、やる事のない私はスレイプとジャックに近付くと、スレイプは大きく尻尾を振って前足を軽く跳ねた。

「おっと…ご機嫌だな」

ジャックが手綱を押さえて苦笑した。

スレイプは近付いた私に鼻面を押し当ててゴシゴシとこすってくる。

そっとそれに応えて首や頬を撫でると、鼻息荒く、その手をハムハムと唇で甘噛みしてきた。

「元気にしてたんだね。僕は君の名前を借りて…変なあだ名まで付けられたよ」

「へぇ?どんな?…おっと…どのような?」

ジャックがそう言い直すのが堅苦しいけど…馴れ馴れし過ぎるとジャックの立場が悪くなる。

「それがね…」

言いかけて、アイティールがやってきた。

スレイプはアイティールにも鼻面を押し付けて甘えていた。筋肉質の馬の体は触れればとても温かい。

「スレイプは懐っこいね」

大きいけど、慣れればとてもかわいい。

私の言葉に、ジャックは「とんでもない。この数日の厩舎の苦労をご存知無い」と、ため息をついた。

士官学校にいる間…スレイプは柵を2本破壊して、厩務員の人達を度々、蹴ったらしい。

幸い、骨が折れる事は無かったが、油断していたら危なかった…と、ジャックは教えてくれた。

「スレイプ…ダメじゃん…」

呟いてチラッと見ると、スレイプの耳は後ろの方に向けられ涼しい顔をしている。

あぁ、これが馬耳東風ってやつ?

「慣れるまではスレイプも大変だな」

アイティールの言葉に、私はそっち?!と思った。

「(本当に大変なのは、お世話する人達じゃ無かろうか…)」

チラリとジャックを見れば、遠い目をして微笑んでいた。


アイティールは私と違い、屋敷に戻ってもなかなか忙しいようだった。

何しろアイティールのお父さんが来るわけだし、使用人達の動きも活発で些細な所まで余念が無い。

ロキさん周りなんて、人が途切れないし指示する空気に緊張感がある。

私としてはこれ幸い。邪魔にならないように、自室待機として部屋に引っ込んだ。

…というのは名目ですがね。

扉を閉めて早々に、私は窓を開けてスルリと外に出た。仕法があれば2階だろうが屋根の上だろうが造作無い。

久し振りに風をまとい、大きく跳躍すれば月面にいるような浮遊感だ。

窓からピョーンと飛び越え、アイティールの敷地を示す壁を超えるとふと、アイティールの家の前で不審な人物が敷地を覗いていた。

…あれは…?

まだ若い青年だ。

何となく…根暗そうな…あの雰囲気は見た事があるぞ…。

…もしかして…あれ…黒竜の人…?

いや、まさか。ううむ…しかし…。

私は気付かれないように、さらに民家の屋根に乗り、屋根伝いに移動した。

このままなるべく道に降りないで移動しよ…。

久々の仕法は調子がいい。以前より、余力を感じるのは久し振りだからかな…。



王都の大聖堂にある図書には、引退した者も全て含まれた法術師の登録名簿がある。

しかも大聖堂の名簿は原本の為、出身から功績、人種、ランクまで事細かく記されている。

ローゼフォンはその分厚い本を丁寧にめくっていく。

息子がいるのだから引退した法術師から目を通す。

身元が確認出来ている者は、子供の数や住まい、年齢、伴侶の情報なども記されていたが…どうにも、明確に、この人物だという特定にはいたらない。

…そもそも…香木に触れるくらいの高位の法術師か…。

教会で扱う香木は祈りの儀礼で使用されるが、香木自体がとても希少で高価だ。

…いや、高位であればその子供の出自は隠されるかも知れない…引退者かと思ったが…まさか今も現役じゃないよな…?

とうに法術を失っていても、それを隠し地位を守ろうとする者も…いなくは無い。

過去には密かに妻帯して子供まで設けて役職を続けていた強者(ツワモノ)もいた。厚顔極まりないが、高位であれば弟子が付くので、法術を使わなくても過ごせてしまう。

そもそも混血だし、認知していない婚外子と言う可能性があるな…いや、その可能性は高い…教会の記録の方が調べやすいと思ったが…戸籍の方から調べるか?

分厚い登録者名簿を前に、ローゼフォンは考えた。

しかし、それだと、実際に出生地を訪ねる事になる…。確認に時間も手間もかかるんだが…個人で勤めながらでは難しいな…。母親の事も聞いておけば良かったな…今度、聞いて…長期休暇の時にでも…。

そこまで考えて、改めた。

いや、そもそも、放っておいてくれ。調べないでくれ。と言われている今、これ以上、興味本位でかき回すのも…。残念だが、ここまでか。

ふと、そう思っていると貸し切りの図書室をノックし、今度は別の法師が現れた。

それは…金の髪と青い目の男…若きオケアノス人…彼は確か…

「ローゼフォン殿。アダム・ロンディウスです。すみませんが…聖下がお呼びです」

ああ。そうだ。飛び級で神学校を出た神童アダム・ロンディウス…彼は間違いなく出世頭だ。

しかし、これからのスレイプニルならば…どこまで彼と張り合えるだろうか。

その彼と、特に会話も無く向かったのは身の引き締まる感じのする場所…

「聖下。お連れしました」

そう告げて、身を引き部屋の端で待機するアダム。

大聖堂の教皇の間には大きな窓ガラスを背に重厚な机に向かい、書類を眺めているその人がいた。



近いようでちょっと遠い。それがアイティール邸とムーンボウの距離だ。

ちなみに屋根伝いのほぼ直線コースでそうなのだから、きちんと道を通るとかなり離れている。

まさかの学校の川向こうだから、学校から向かった方が超近いんだけど…ムーンボウの事はアイティールには言ってないからな…。

よもや、ムーンボウであんなに即刻アルカティア人とバレるとは思わなかったから…正体を知る人達の事を伝えるわけにもいかないし。

大きな布張りのテントを潜ると、すぐに声がかかった。

「あ!ニル!来たー!」

「本当だ!来た来た!」

「ちゃんと来て偉いじゃん!」

あの小柄な三つ子の姉妹だ。改めて近くで見れば髪だけでなく、目も少し黒っぽい。

「こ、こんにちは…」

彼女達の声に、続々とムーンボウのメンバー達の視線が集まる。

「よう!!ニル!!よく来たな!!」

身軽に走って来たのはギルだ。

「う、うん。約束したし」

そう答えれば、ギルは嬉しそうに笑った。

「ああ。来たね。早めに来てくれて助かるよ」

バーディーも来て、そう褒めてくれたけど…

「あの…すみません。でも、ずっといれなくて…昼頃には一度、戻らなきゃならないんです」

私の申し出に、バーディーは少し考えて聞く。

「…夜にはまた来れるんだろ?」

「は、はい。都合をつけてきました…」

「それならいいさ。じゃあ、さっさと始めよう。ハメルン」

バーディーに呼ばれるまでもなく、ギター弾きのハメルンは私のすぐ近くに来ていた。

バーディーは私の背を軽く押しながら奥の席へ招き入れた。

「今夜はお披露目だから、歌はあの1曲だけでいい。あと、今夜は私の…知人と、出資者(スポンサー)候補も呼んである。今夜はどうしても成功させたいんだ。だから頼んだよ」

「…あの…あんまり…大げさにはして欲しく無いんですけど…」

戸惑いながらお願いすれば、バーディーは私を見下ろしてその黒に近い褐色の目でじっと見つめた。

「……?…あの…」

「そうだね。あんたは受け入れるってのは家族と同意義だ。なぁ、あんたの話を聞かせてくれないかい?」

「え?」

「もちろん。私達もあんたに話をするよ。どうして私達が今、こうしているのかを」

バーディーは静かにそう言ってイスを勧めた。

「…さて…詳しく話したい所だけど、時間はあっという間だからね。まずは…1番インパクトのあるグレアはどうかね?」

バーディーはそう言って、2メートルはあるかという一つ目の巨人を呼んだ。

ゆっくり近付いてくるだけでも迫力があって…怖い…。

その大きな身体は全ての部分が丸太のように太い上に、なにせ目が一つだ。

「彼はグレア。こんなナリしてるけど、怖がりでね。可愛いものと小さいものが好きなオーガさ」

「…オーガ…?」

「そう。鬼の末裔だよ。人々を恐怖に震えさせた怪物。…でも、グレアはそうじゃない。目も一つで生まれて…優しくて繊細な性格だったから仲間のオーガに見切られてしまってね…かと言って、人間も怖がって彼を殺そうとする。居場所の無い彼に出会ってムーンボウがスカウトしたのさ」

グレアというその巨人は、大きくて太い指をモジモジとさせている。

「ちなみにグレアの趣味は園芸だ。花や野菜を作ってくれてる」

「?!」

や、優しい…!!

「こんにちは。よろしくお願いします」

席を立って手を差し出せば、彼は戸惑いながらもしばらくしてそっと手に触れてくれた。

「グレアは言葉はうまくないから。勘弁してやって」

「いや、そんな。気にしません…」

「じゃあ、次はウォルター。彼は獣人と人間の混血。手先が器用で趣味は料理」

名を呼ばれ、現れたのは全身獣毛に覆われた男性だ。

「なんか、俺の紹介、雑じゃないか?」

バーディーに文句を言いながらも指先でナイフを回している。

「時間が無いんでね。後は自分で自己紹介してくれ」

バーディーは「ほら、早くしな」と急かす。

彼はもて遊んでいたナイフを素早く収納すると頭を掻きながら自己紹介した。

「あー…と…俺はウォルターだ。先に言っておくが、俺は綺麗好きだからノミはいない」

そう言って、大げさに両手を広げるユーモアな姿が面白い。

「ナイフの扱いがとても上手ですね」

「ああ。料理人になりたかったんだが…毛が抜けるからって門前払いさ」

「ねーねー!あたし達は?」

ウォルターの前に出て来たのは、あの小柄な三姉妹だ。

「ああ、あんた達もね」

割り込まれたウォルターは「お前ら!もうちょっと待ってろよ!」と不満気だったが口では3姉妹に敵わないようだ。

「私、スクル!」

「ルウル」

「ベルよ」

見た目はそっくりだが、やはりちょっとずつ性格は違うようだ。

「よろしくお願いします」

会釈すれば、面白そうに私を見る三姉妹。

「あははー!なんか変な感じ。ギルがお上品になったみたい!」

そう言って笑うスクルに、ギルが「うるせー」と言い返す。

「彼女達は精霊になれなかった者だよ」

「…精霊…?」

「私達、魔法で生まれたの」

サラリと言ったのはルウルだ。

「そう。もとは一つだったの」

これはべル。

「え?…どういう事…ですか?」

魔法で人が生まれる?

「私達も詳しくわからないんだけど…魔法実験で精霊を生み出そうとして…精霊になれず捨てられたってわけ」

ベルが付け足した。

「そんな事が…まだ小さいのに…」

それって…とてもダメな実験じゃないの?!

「私達これでも、もう立派な大人よ」

「そうね。もう30年ぐらい前の事だし?」

え?!

「さ、30年前ですか?!」

「そうそう。若く見えるでしょ?」

…若くと言うよりも…腰までの身長…見た目は完全に…子供だ…。

「…スゴイ…」

呟くと、三姉妹は得意げに笑った。

「若いっていうより…ねぇ?」

そう言ってきたのはちょっとキツそうな顔をしたレムリア人の女性だ。

「なによー!失礼ね!」

三姉妹が口を尖らせるが、その女性は自分の肩に乗った羽の生えた猫のような生き物を撫でている。

「私は、サラ。弟の敵討ちを果たす途中。こっちのはウサネコのミュウ」

「よ、よろしく願いします…。う、ウサネコ?」

クリーム色の毛の生き物の事か?

「ウサネコは、ある島にしかいない生き物なの。と、いっても…普通の無害な生き物よ」

は。はぁ…。いや、そんな事よりも…

「あの…敵討ちって…」

「まぁ、それは私の個人的な事だから構わないでいいわ」

そう言って一方的に打ち切り、彼女は手を振って練習に戻った。

バーディーはため息を吐いて苦笑した。

「あの子はいつもああだから。さて、あとは…ああ、トカゲ男のギオだ。ギオ!」

バーディーが声をかけると、鱗皮膚の男は離れたその場で手をあげただけだった。

「…ギオは人見知りでね。慣れれば良い奴だよ。日差しが好きで、嫌いなのは寒さ」

…爬虫類っぽいなぁ…。

「ハメルンは音楽に取り憑かれたようなもんだね。話をするより弦を弾く方が多いくらいさ。あと、今ここにはいないけど…ランスは昔、友人のために罪を犯した」

バーディーが不意にそう言った。

「私は親に売られて、ある人の人形になった。でも、それが嫌でこのムーンボウを作った」

バーディーは淡々と語る。

「このムーンボウにいる人間は皆、心やスネに傷を持った者さ」

「俺は違うぞ!」

ギルが反論した。

「そうだね。はいはい」

バーディーは面倒くさそうにあしらった。

「まぁ、生きてりゃ辛い事、理不尽な事なんて誰でも嫌でもつきまとう。…でも、この世の中には、努力ではどうしようもなく生きにくい者も、確かにいるのさ。見た目や生まれが違うってだけでね」

「…………」

「それで?あんたも結構ワケありだろ?責めたりしないよ。ここには誰も他人を責められるほど、生きる苦労を知らない奴はいないからね」

バーディーは飾らず、そのままの態度で聞いた。

「……僕は…師匠を…石にしてしまったんです…」

「石?…へぇ…それは…治せるのかい…?」

静かに問うバーディー。ギルも三姉妹もハメルンも黙って聞いてる。

「…わかりません…でも、普通のやり方じゃ治せない。僕の…魔法の失敗で、僕の身代わりに石になったから…でも、治す方法を何としても見つけたい!そして師匠に謝りたいんです!」

「…うん。そうだろうね…」

バーディーは頷く。他のみんなも。

「この王都に来たのは、その方法を探るためです。縁があって…オケアノス人の友人が出来て…彼の助けで、魔法に詳しい人が集まる学校に行く事になって…」

「……あんた…まさか、その格好で…?」

バーディーは瞬いた。私が頷くと、バーディーは自分の頬に手を当てて呻いた。

「おやまぁ…大したもんだ…そいつはまた…」

「…魔法の事を調べたら、即刻辞めるつもりなんです…でも、なかなか調べがつかなくて…」

「……その、友人ってのはあんたの事、どれだけ知っているんだい?」

バーディーは親身に聞いてくる。

「…多分何も…。このムーンボウだけです。即刻バレたの…」

そう言えばギルが苦笑した。

「まぁ…俺も最初、わかんなかったしなぁ。バーディーの先見の力が無けりゃ、女だってのもアルカティア人だってのも気付いてないだろ」

「……とは言え、それもそんなに長くは続けられないよ…。あんたがニルでいられるのも今ぐらいだろうさ」

バーディーは深刻に言って腕を組んだ。

「…私もそう思います…だから、早くヒントを見つけたいんです」

「…なるほどねぇ…。じゃあ、あんた…今、学生って事か?」

「…はい…。この場所の川向こうの…」

「え。近ッ!!」

ギルが驚いて声をあげた。

「…だよね。僕も驚いた」

バーディーは腕を組んで考えていたが、頷いて口を開いた。

「……そういう事か…。わかった。協力するよ。って言っても、出来る事は限られるけど…話してくれたんだ。知ったからには力になる」

「え…でも…」

見知ったばかりなのに。

「…って、言うと聞こえが良いか。正直に言うとね、あんたの手伝いをする代わりに、あんたにはこのムーンボウを気に入ってもらいたいのさ」

そう言ってバーディーは笑った。

「…どういう事ですか?」

「あんたは気付いてないのかも知れないけど…あんたのその純血のアルカティア人の見た目と歌は、すごく価値があるって事さ。あたしらも、生きていくには稼がなきゃならない。だから、そうだね…あんたが困った時は力になる。だから、あんたもここであたしらの力になってもらいたい」

「……ずっとじゃなくてもいいですか?」

「もちろん構わない」

「…それなら…」

頷くのを待って、ギルが声をあげた。

「よっしゃ!!仲間が増えたぜー!!」

「話はもういいか?…通しで曲を合わせたい」

今まで沈黙していたハメルンが、待ちきれないように割り込んだ。

「そうだったね。待たせたねハメルン。今夜は勝負の1回だ!気合い入れてやっとくれ」

バーディーは笑って立ち上がった。



「お久しぶりです。聖下」

ローゼフォンが拝礼すれば、その人…パンタソスは人懐っこい笑顔で迎えた。

「おお!相変わらず麗しいなー!ローゼフォン!」

その人が笑うと空気が緩む。

「聖下は…お疲れのようですが…」

ローゼフォンはパンタソスの顔に珍しく疲れを感じた。

珍しい…今までならどんなに多忙でもケロッとしていた人だ。

「まぁ…ちょっと探しものをな…」

パンタソスは机に積み上がった書類を見て顔を曇らせた。

「それよりも、ローズ!私に会いに来たんじゃ無いのか?真っ先に図書詮索とは、何か気になる事でもあるのか?」

そう言って、パンタソスはローゼフォンに近寄りその肩に触れた。

ふっと香木の優しく品の良い香りがローゼフォンの鼻をくすぐる。

…そう…この人もまた、香木の香りのする人だ…だが…。ありえない…。彼は法術師としても頂点だ。

「ご挨拶せずに申し訳ありません。お忙しいと思っておりましたので…今回は、個人的な興味です。お呼びと聞きましたが、何なりと」

ローゼフォンの言葉に、パンタソスは自ら向かいのソファーに座るようローゼフォンに勧めた。

「そう堅苦しくなるな。厄介な仕事が増えて怒っているのか?」

パンタソスのその言葉に、ローゼフォンは一瞬、考えた。そして思い当たる。タナトスの事だ。

「ああ。彼の事でしたら…おおむねうまくやっています」

「…意外だな。魔法は封じさせたが、アイツは気難しいからさぞ手に余ると思った…」

パンタソスは目を丸くしながらもケロリと言った。

「いえ。むしろ…こう言う言い方も何ですが…いい番犬になってくれています」

ローゼフォンの言葉に、パンタソスは何の事だ?と動きを止めた。ローゼフォンが説明する。

「今年、うちにハートのキングが出ました」

「ほう!それは楽しみだな!」

パンタソスも喜んだ。

「今年はキングが多いですが…そのハートのキングをタナトスが黒竜から守っています」

ローゼフォンの言葉に、パンタソスが、まさか。と苦笑した。

「事実です。タナトスも、どうもそのハートのキングがいると、うたた寝が出来ると…キングを枕のようにして寝ていましたから」

その言葉にパンタソスの顔が、嘘だろ…?と驚愕したが、しかし、思い直して頷いた。

「…いや…信じられんが…そうか…そんな友を得たならば…本当に良かった…」

パンタソスは、まだにわかには信じられないようだったが、ふと微笑した。

「そうか…懐かしいな。ハートのキングか。…どんな男だ?」

「…まだ、入学したばかりですが…驚く事ばかりです」

ローゼフォンは説明に苦慮した。本当の事を言っても、信じられるわけもない。ローゼフォンも、他人から聞いただけでは、とても信じられないだろう。

「ほう。それではアダムも、うかうかしてられないな!」

少年のような笑顔で自分の従者をからかうパンタソス。アダムは動じる事なく無言で頷くだけだ。

「ただ…彼は、間違いなく才能と実力を有しているにも関わらず、惜しいかな野心が皆無です」

「ほう…。というと?」

「彼は、自分は目立たず地味で平凡な学生でいたい。と…。しかし、授業初日で光玉のアレンジを作り、翌日には黒竜の教室で、失敗したと3桁の数の光玉を溢れさせる…これで地味でいたいなど、無理な話です」

ローゼフォンのぼやきに、パンタソスは目を丸くしていた。

「そいつは…また…ずいぶんと…抜きん出ているな…」

「彼は明るく素直ですが…どこか不安気で…常に謙虚です。ですが、それは実力以上に、過剰な自己否定で…おそらく、それは彼の生い立ちや両親に関係しているのかと思いまして…」

ローゼフォンはハートのキングが両親に恵まれず捨てられ、ほぼ孤児で育ったであろうと説明した。

「…なるほど…それで図書室か…」

パンタソスは難しい顔で頷いた。

「私は、彼にはこのまま無事に、一人前の法術師に育ってもらいたいと思います。彼は光玉1つとっても、とても斬新な発想を持ち合わせていて…またそれを実行する力があるんです」

「…ずいぶん惚れ込んでるな」

パンタソスがニヤリと笑う。

ローゼフォンは自分の法衣の中から光玉を取り出した。

「…それは?」

パンタソスが首を傾ける。

「これは、彼が入学間もなく作った光玉です」

それは光が微弱で今にも消えそうな光玉だった。未熟なオレンジ色の光は、その光玉がそろそろ尽きる前兆を示している。

ローゼフォンはその光玉を指で撫でる。すると、光玉は命を吹き返したように徐々に強いオレンジ色へ、そして最後は白銀へと輝いた。

「………これは……」

パンタソスは驚いた。こんな仕掛け見たことも無い。そして光玉でこんな物が出来るなんて想像もしていなかった。

ローゼフォンからその光玉を受け取り、自らも試してみる。撫でる毎に色や明度を変える光玉は人間の感情のようだ。

「…これを…その者が一人で…?」

呻くように聞けば、ローゼフォンは答えた。

「彼がオレンジ色の光玉ばかり意図的に作るので、なぜかと聞いたら、オレンジ色の光は優しい気持ちになるからだ。と。確かに、その光には不思議な心地よさがあります。それで…私も作ってみようとしたら…これが難しいのです。しかも、そんなに段階的に色が変わるなんて…どう作るのか。彼に聞きました」

「それで?」

パンタソスは話に引き込まれている。光玉を手にローゼフォンに先を促す。

「そして、彼が…私の光玉に干渉して、共に練成したのがそれです」

「合作か?!…面白い」

パンタソスは感心して光玉を眺めた。

「しかもそれは3日前に作った物です」

光玉の寿命は主に半日から1日だ。意図的に作ればまだしも、学生でこのアレンジ…しかもここまで気を使って作るもので3日保つとは…何から何まで感心してしまう。

再び指で明度を変えてみながら、パンタソスは手にした光玉を置き、自らも真似て錬成してみた。

手のひらで光が収束していく。まばゆい強い光はやがて徐々にオレンジ色に変わり…コロリと出来上がったそれは、見本の光玉に瓜二つの出来栄えだ。

「…どれ…?」

パンタソスは自分で作った光玉を指で撫でる。と、それも見事に再現出来ていた。

「なるほどなるほど。こういうことか。うんうん。面白い」

パンタソスは即、習得出来たようだ。

「さすが、聖下。…恥ずかしながら私はオレンジ色の光玉を作るのにすら難航しました」

ローゼフォンが言えば、パンタソスは苦笑した。

「より強い光を目指して修練している今の法術の考えとは、逆行しているからな」

ローゼフォンが光玉を見ていたので、渡そうとすれば「聖下。恐れ多いのでそちらをお返し願えますか」と自分が持ってきたものを求めた。

それを受け取り懐に戻しながら、ローゼフォンが妙な事を言う。

「聖下…聖下がもし…いち法術師として、光玉を求められたとして…明る過ぎず暗過ぎない、熱くてヒンヤリするもの…と求められましたら、どうなさいますか?」

その言葉にパンタソスは瞬いた。

「…さて…困るな。相反する要求に同時に答える事は出来ない」

「はい。ですが…彼は…それを作りました。彼のイメージで。しかも、それは我々の常識を打ち破る光玉でした」

その言葉にパンタソスは真顔になった後、少年のように目を輝かせて問う。

「それは…どのようなものだ?持って来ているのか?!」

「いいえ。彼曰く、それは出現と共にすぐ消える事で成り立つから保存は出来ない。と」

「ほおおおー!それで?どんなモノだった?見たんだろ?」

パンタソスは身を乗り出して問う。

「…信じて頂けないかもしれませんが…それは…青白い色で炎の形をしていました」

「…青白い…」

パンタソスは呟いた。

ローゼフォンは頷く。そして、キューと鳴いて消えるとは言えなかった。それを言ったらまず間違いなく冗談を言っていると思われるからだ。

「…聖下も、お会いになれば彼の可能性に何かを感じられると思います」

「…なるほど。確かに。面白い…。しかし、どこから現れた逸材だ?」

真剣で頷いて同調するパンタソスに、ローゼフォンはスレイプニルの入学申請書を思い出す。

「出身は…モーリアス島とありました。が、混血ですので両親の記載はありませんでした」

「混血…そうか」

パンタソスは何かに引っかかった。そういう書類ばかり見ていたからかもしれない。

「その者の目の色は?」

何気なく聞いた。

それにローゼフォンは少年の仔犬のような目を思い出す。

「ああ、彼は珍しい漆黒の黒い目をしています」

ローゼフォンの答えに、パンタソスは急に立ち上がった。



「ニル?どうした?」

通しのリハーサルを終えひと息ついた時、ニルがあらぬ方向を見て動かない事に、ギルが声をかけた。

「う、うん。もうそろそろお昼…過ぎた頃だよね…?」

「ああ。そうか、昼飯だな」

「いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけど…あの、僕…そろそろ友人の家に戻らないと…」

黒髪の神秘的な少女が、「僕」という一人称を用いる事が不釣り合いだがニル曰く、混同するから僕のままがいいという。

まぁ、確かに歌う以外は特に話をする予定もないから、本人が望むならば強制する意味も無い。

「もうかい?」

バーディーが手応えに興奮しながらそう言うと、ニルは困ったように答えた。

「僕、今は彼の屋敷で休んでる事にしてるから…昼の食事を聞かれて、いないのがバレると探されちゃうんです」

「…なるほどねー。仕方ない。いいよ。戻っておいで。ただし、居場所は教えて欲しい。なんかあった時の連絡が出来ないからね」

「…はい」

「あと…そうだね。名前を変えようか」

「名前?」

「そう。ニルはあんたが男の時の名前だろ?本名は…伏せたいよね?」

コクコクと頷くニル。

「それじゃ…何がいいかねぇ…?」

うーん…と考えるバーディー。

「本名が?ニルヴィーナ?だったっけ?…じゃあビーナ?」

「あ。それ、愛称で、すでに呼ばれてましたので…ヴィナですけど」

「うーん…じゃあ…ニーナ」

簡単だなぁ…。

「あんた、今、安直だって思ったね?」

「え?そ、そうですかねぇ…?!」

笑って目をそらすニル。

「いいんじゃね?ニーナ。呼びやすいし。長い名前は覚えにくいもん」

ギルは頷いていた。

「はぁ。まぁ…じゃあ、それで」

もう、好きにして。と頷いた。


着替えて再びニルの姿に戻れば、帰宅の途中で屋根から街に降りた。足早に街の中を抜ける。

「(もし、外出がバレていた時用に、保険でチキンサンドを買って行こう)」

対アイティール用には効果があるはずだ!…ロキさんには全く効かないだろうけど。

私は身震いしながら街を急いだ。

チキンサンドは新しいお店でなく、最初に買ったお店にした。

また人違いされたら困るし…。

まさかあそこで、急に袋詰めにされてさらわれるとは思ってもみなかった。まぁ、それで再びギルやムーンボウとの出会いに繋がったわけだけど。

猿ぐつわされたら仕法も使えないし…あれは危なかったなぁ…反省点を踏まえて…ナイフ…は、危ないしなぁ…小さなハサミ?でも持ち歩く?

そうこう考えながら、お店でチキンサンドを3つ買った。

…ロキさんの分も…ね、念のため…?

効かないだろうけども!効かないだろうけども!…万が一だ。

出来立ての温かい包みからは、香ばしい良い匂いがする。

「(あー…お腹すいてきたー。早く帰ろ…)」

石橋の上で包みを抱え直して顔を上げれば、そこには複数の若い青年が数人で立ちふさがっていた。

「……え?…」

「探したぞ。…スレイプニル。一緒に来てもらおう」

そう言うのは年上っぽいレムリア人の青年だ。

「…あの…どこかでお会いしましたっけ?」

どちら様でしょう?

「…私が誰でも構わない。いずれ知ることになるんだ。今は一緒に来てもらう」

「…いや、あの…そういうわけには…僕、ちょっとこれから用事がありまして…」

急いでいるんです。すみません。

脇を抜けようとした所で、急に体が重くなった。

「…え?」

足の方から徐々に痺れてくる。このあきらかに変な感覚は…

「…あれ…これ…まさか…」

魔法なんじゃ…?

そう思った時、青年の顔がニヤリと笑った。

「こ!黒竜の方ですか?!」

そう言えば、そう言えば!タナトスとお誘い受けた時にいたよ!この人!黒いローブじゃ無いから気付かなかった!

「こ、困ります!僕、これから大事な用事がありまして!」

王弟にご挨拶だよ?!これ、すっぽかす勇気が君たちにあるかい?!

「私達も君に大事な用事があるんでね」

いやいやいや!絶対、個人的な事だよね?!それ!!マズイ…どうしよう…そうだ!先生からもらったお守り!…けど、そのあとどうしよう!飲んでからどれくらいまで効くかな?!

黒竜の前で仕法を使えば、ますます狙われそうだし、逃げ切るにはどうしたら…

紙袋を抱えたまま麻痺は膝まできている。目まぐるしく視線を泳がすも、浄化して走って抜けたとしても別の人に魔法をかけられたらそれまでだ。だけど、麻痺はスーっと腰まで登って来ている。

…うわわわ…!これ、迷ってる場合じゃなく無い?!

私は片手でポケットに入っていた小瓶を取り出し、素早く飲み干した。

…これは…!!甘苦い!!

けど、即刻効いた。体の痺れは一気に消える。すかさず、石橋の欄干にヒョイ!と乗り走り出した。

「なっ!!」

黒竜の人達は、思いがけない逃走経路に出遅れた。

「すーぷー!!」

ふと、どこからか見知った声とその呼び名が聞こえた。

反射的に目を向ければ、石橋の下…川の流れに沿って下る船の上にいたのはクスト先輩だ。

「先輩?!川下りですか?!」

驚きつつも、黒竜の掴む手を欄干上でかわした。

「すーぷー!!来い!!」

石橋の下をくぐりかける船。その船上で両手を伸ばして言う先輩に、私は一瞬で察した。

「あ。はい!」

返事と共に躊躇なく欄干からダイブする。

「飛ん…落ちた?!」

黒竜の生徒は慌てて欄干に身を乗り出すが、私はすでに落下している。

そして、私は船上に…クスト先輩の上に落ちた。

「おわっ!!」

クスト先輩は、慌てて私を受け止めて尻餅をついた。

「…先輩、どうしてここに?…あ。良かった。潰れて無いや」

クスト先輩を下敷きにしながら、私は冷静に、抱えていた紙袋が潰れていない事を確認して安堵した。

「……。お前…もうちょっと、遠慮とかないのか…?」

下敷きになったまま、クスト先輩が呻いた。

遠慮…いや、仕法を使えば落下速度はある程度、変えられますんでね?先輩の方こそ、こっちは避けたのに、わざわざ落下位置に来るんだもん。

「そんなに衝撃はなかったかと思いますが…」

むしろ退いてくれたら良かったのに。

倒れたのは、不安定な船上で先輩が動揺したせいではなかろうか?

通り過ぎた石橋の上では黒竜の生徒が遠くなっていく。

私は先輩から退くと、その場に座り、起き上がったクスト先輩を見た。

「…それで…先輩、なぜここに?」

「なぜって…お前…今日は週末だぞ?」

「…?…ええ、そうですね」

頷き答える。それを見てクスト先輩は渋面だ。

「お前なー…まぁ、いいわ。んで?お前はこれからどこに行くつもりだったんだ?」

「僕ですか?僕は、今はアイティールの家にお世話になってるので、そこに戻る所です」

「……あいつ…今日、親父来るんじゃ無いか?」

「わぁ。先輩、よくご存知ですね!」

すごい情報通だな。先輩。

「…お前…まさか…パーティーに…」

嫌な予感とばかりにクスト先輩が言いかければ、私は手を振って否定した。

「出ませんよ。先生から女性のいる場所はダメだと言われてますので。部屋で待機です」

「……。出来れば今日は屋敷内にいない方が良い。鍵かけても危ないからな」

クスト先輩は苦渋の顔でそう言った。

「僕としてもそうしたいんですが…アイティールがお父さんに紹介したいと言うので…」

困りながら答えれば、クスト先輩は「…ああ…そうか…」と私をみて呟いた。

「僕としては…とてもお会い出来る身では無いので、お断りしたかったんですが…」

今でも気が重い…。先生は、アイティールが私を友達として誇らしいからだと言ってくれたけど…それならなおさら気が重い…。

「なんでだよ。あのアイティールの親父だぞ?…あんまりベッタリはダメだが、一度、会っとくくらいなら損は無いだろ?」

「…いえ…僕には過分です。僕は地味でいたい。僕に…そんな価値はない…うぐ!」

ボグっ!と帽子の上から先輩にチョップされた。

「またか。お前の悪いクセだ」

先輩は眉を寄せている。

「…先輩。先輩は卒業したら法術師になるんですよね…?」

自分の頭をさすって聞いてみた。

「そうだ」

「…ずっと法術師でいるんですか?」

「…まぁ…当分はな。お前は嫌なのか?」

「いいえ。僕は早く法術を覚えたいです。ああ、そうですね。明日でもいいです」

図々しい話だが、学べるものは学んでおきたい。

「…お前が言うとマジで出来そうで俺、末恐ろしいわ…」

ゆるやかな川下り。気持ちのいい風が抜ける。

「…時間が無いんです…」

「なに…?」

クスト先輩が訝しんで聞くので、ハッとして手元の紙袋を引き寄せた。

「は…早く帰らないと、アイティールの侍従長にめっちゃ叱られるんです!」


「ここでいいのか?」

クスト先輩はアイティール邸の裏門まで送ってくれた。

「はい。ありがとうございました」

「お前…ウロウロするんじゃないぞ?地味でいたいなら目立つな」

クスト先輩は真面目に叱ってくれた。

「…はい。あ。先輩、コレ。どうぞ」

それはロキさん用に買ったチキンサンドだ。あのお店は丁寧で、1つずつ小分けになっていたから良かった。

「…お前…なんでこんなの持ってるんだ?」

戸惑いながら受け取る先輩。

「僕もアイティールもチキンサンド、好きなんです。お礼に一つどうぞ」

「そ、そうか…」

「では、ありがとうございました」

ペコリと頭を下げて、私はアイティールの屋敷に戻った。


クストは週末が気が気で無かった。

黒竜に目を付けられた後輩が、始めて過ごす週末だ。幸い、あのスペードのキング…王弟の息子が側にいれば、黒竜も強引な手は出せないだろう。

だが、そのアイティール邸で王弟を招いたパーティーがある事をクストは実家経由で知った。

後輩の普段のつるみっぷりを見ればあいつも招待されるだろうとは思っていたが…あいつ、王弟の息子の家に寝泊まりしてんのかよ…。

今日、学校を出てからクストは密かに黒竜を見張った。それは、アイティールの側にいるハートのキングに張り付くよりも、動向がわかりやすいからだ。

街の要所に張り込んだ奴らは案の定、ハートのキングを見つけ、動いたわけだが。

「(…あとは夕刻だな…)」

クストは黒竜に見つからないように、その場を離れる。

物陰に隠れる私服の黒竜に、思い出される過去。クストはもうあんな思いはしたく無かった。

橋の欄干で捕まえようと伸びる手から逃げ惑う後輩を見た時、ヒナを狙う蛇を見たようで肌が粟だった。河岸に係留されていた小舟に飛び乗って、係留していたロープを外した。

…しかし…来いと言って…迷わず落ちるってどうなんだ?落ちるにしても、迷わず飛び込んでくるもんか?落ちた割には船も揺れ無かったが。

『僕にその価値は無い…時間が無いんです…』

そう呟いた後輩にモヤモヤした。

価値が無いとか、時間が無いとか、あんなに実力と自信が釣り合わない奴もいない。

帰り道、後輩が突然差し出してきたチキンサンドを頬張れば足が止まった。

「え。…うっま…」

思いのほか、美味かった。


部屋をノックする音がして、使用人だろうと適当に応じれば、ひょっこりと顔を出したのはニルだ。

「アイティール…今、いい?」

「ニル…どうした?」

ペンを置き、机で彼を迎えれば、彼は近付いて紙袋を差し出す。

「…これは…?」

「チキンサンド。買ってきたんだけど…いる?」

そう言って誘う友の言葉に今は外出を咎めるよりもホッと気持ちが楽になる。

「ああ。…庭に出るか?」

そう言ってアイティールは笑った。


「誰かに買いに行かせようとしたんだが、どこの店だか思い出せなかった」

庭が見えるテラスでアイティールはそう言った。

「そうなの?ああ…まぁ、包みにも何も書いて無いしね。他のお店のも食べてみたらいいのに」

使用人に入れてもらったお茶を飲み、一息した私はそう答える。

「そうだな。…でも、まだこれが良い。味も食べ方も衝撃的だったから」

お気に入りの物であるかのように、アイティールは包みをめくる。

「そうなんだ…まぁ、気に入ってくれて良かったよ」

今日もいい天気だ。恐れていたロキさんのカミナリも、忙しすぎて私の事は完全スルーみたいだし。

「…思いのほか…気が張っていたみたいだ」

アイティールは静かにそう言った。

「そうなの?」

意外に思った。

いくら王弟とは言え、アイティールにしてみたら実のお父さんな訳だし。

「…ああ。それに今日は母やアレも来る」

「…アレ?」

何ですか?

「…妹だ」

おお!アイティール妹!?へぇ!へぇー!!

「そうなの?へぇー。カワイイんだろうなー!」

私の言葉に、アイティールの目は珍しく、しかめられた。

「…ニル…まさかと思うが…妹は…」

え?!やっだ!殿下!そんな下心なんてあるわけないじゃん!!純粋によ?

「やだなー。僕は純粋にそう思っただけだよ?」

苦笑する私に、アイティールはため息を吐く。

「いや…そうでは無くて…妹に期待するのはやめておいた方がいい。アレは無い」

「…ええ?…ど、どんな感じなのか怖いな…」

まさかのゴツイ感じ…?

「…まぁ…遠目で見ていればわかる…」

アイティールはすごく面倒くさそうに言った。

「…あ、う、うん。…でも、そんなに緊張するの?」

「……今日は家族の他にもゲストが来る…」

「ああ…うん。そうだね」

晩餐パーティーってやつだもんね。

「……私の…婚約者も来るから…」

サラリと言った言葉にちょうど口に含んでいたお茶をむせた。

「ゲホッ!ゲホゴホ!!」

「ニル、大丈夫か?」

心配するアイティールに手を振って答えた。なんとか落ち着かせて聞いた。

「あ、アイティール。…もう婚約者がいるんだね…」

まぁ、そうだよね。殿下ですもんね。婚約者の1人や2人…いや、まさか1ダースくらいはいます?

「…まぁ…決められた花だ」

どこか不自由そうに言うアイティール。

「ほー…え。ねぇ、どんなひと?お姫様的な?!」

私の興味に、アイティールは無言だ。

「…………」

「…え。なんで無言?…なんか気に障った?」

「いや。そう言われれば…説明に悩むな…どういう女性かと少し、考えてみる」

「は、はぁ…」

アイティールはテーブルに肘を付き考えた。

「………」

「………」

長くない?

「………」

「………」

え?そんなに色々、考えるほど?何から言ったらいいかの付き合いの長さ?

「…金髪の…女性だ」

「う、うん。そうだろうね」

そりゃ、オケアノス人だろうな。

「…目は…青い…」

「でしょうね…」

殿下。もうちょっと…人柄とかさ。雰囲気よ。聞いてるのは。

「…まぁ…そんな人だ」

えぇぇぇぇぇ?!終わりですか?!全然、わかんない!!わかったのはオケアノス人って事だけです!!

「…アイティールは…その人にあんまり会ってない…のかな…?」

私の言葉にアイティールは自然に答える。

「…まぁ…そうそう頻繁に会う事は無いな…」

あ。そう…。じゃあ、まだこれからの間柄だね。そりゃね。緊張しますよね…。

「そうなんだ…。僕は部屋で大人しくしてるから、家族やその人と親睦を深めてね」

「ニル…本当に出ないのか?」

アイティールはつまらなそうに言った。

「うん。僕、そういうの苦手だし…それに、チキンサンド買いに出た時にやっぱり黒竜の人がいてさ」

アイティールは目を丸くした。

「いたのか?…それで?」

「うん。捕まりそうになったんだけど、丁度通りかかったクスト先輩が助けてくれたんだ」

「…そうなのか…」

アイティールは何事かを考えている。

「その、クスト先輩とは…ダイヤのクィーンのクスト・ラケルか?」

「え。うん。そうだよ」

「彼ならば今夜、こちらに来る」

「え?なんで?」

「彼の家は豪商だ。招待状を送って、応じるとあった」

「え?えー。そうなの?…え?でも、先輩、大丈夫なのかな…?」

なるほど。だから今日、アイティールの家に王弟が来るって知ってたのか。

「普段のこういう場には、彼の父親だけが来るが…今回は息子本人も来るようだ」

それってどうなんだろう?先輩だって白竜なんだし…でも、何がしかの対策はしてるのかな?黒竜に狙われて無事だった経験もあるしな。さっきも助けてくれたし。

「へぇー。まぁ、僕は自室待機だし。先輩も鍵かけとけ。って言ってた」

「…そうか」

まぁ、出掛けちゃうから…実際は留守ですけどね。


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