表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

すっごくグリーンなスムージー

作者: 木下秋

「何これ」


 目の前に置かれたコップには、何やらどろどろとした緑色の液体がいっぱいに入っていた。


「グリーンスムージー」


 彼女は投げやりに言った。腕を組み、タバコを吸った。


 何も言わず、僕はそのグリーンスムージーを見ていた。青くさい、妙な臭いがしている。喉越しも悪そうだ。


「……何で?」


 絞り出すように僕は言った。


「何でグリーンスムージー?」


 彼女は「何か飲む?」と僕に聞いたんだ。だから僕は「うん」と答えた。僕はてっきりコーヒーか紅茶が出てくるもんだと思い込んでいた。まさか、グリーンスムージーが出てくるとは。


「……体にいいから」


 見ると、そっぽを向いている彼女の顔が少し赤い。いつもクールで感情を表に出さない彼女が……。


 僕は意を決してコップを手に取った。そのグリーンスムージーの水面、びっくりするくらい波立たない。波紋の一つも見えない。個体なんじゃないかと思うくらいに。


 コップを傾けて、口を付ける。ドロリとしたものが、少し遅れて流れてくる。


 濃厚で、苦悩を煮詰めたような味がするそれを、僕はやっとの思いで飲み込んだ。


 口の中がベタベタする。水が飲みたい。


「何が入ってるんですか、コレは」


「ほうれん草、セロリ、ピーマン、春菊……」


 クセの強めの野菜が多い。


「シソ、大根の葉、タンポポ」


「タンポポ?」


「ダンデライオン」


 え、何でかっこよく言い直したの?


「アロエ、バッタ……」


「バッタ?」


 バッタ。


「虫入れちゃったの?」


 僕のあまりに驚いた顔に、彼女は少し狼狽えた。


「で、でも足だけ」


 足だけ……。なら大丈夫だね、とはならない。


「他には?」


「……フライトジャケット」


「フライトジャケット?」


 去年の冬、彼女は好んで着ていた。


「MAー1?」


「そう」


ALPHA(アルファ) INDUSTRIES(インダストリーズ)の?」


「うん」


 彼女はバツの悪そうな顔をした。


「……だって……」


 短くなったタバコの先を、灰皿に押し付けた。


「だって、緑色だから!」


「……そうだね」


 そうだね。僕はそれしか言えなかった。


 今にも泣き出しそうな彼女の顔を見て、僕は胸が締め付けられるような気持ちになった。


「お気に入りのMAー1を僕のために切って、繊維ほぐして入れてくれたんだね」


「……うん」


「ありがとう」


 料理なんて一切しない彼女が、彼女なりに考えて僕のためにグリーンスムージーを作ってくれたんだ。その気持ちを何より大切にしてあげたい。僕はそう思った。


「他には何を入れたの?」


「エメラルドの粉末」


 それは高価な……どうやって粉末にしたの?


「あと……」


 あと?


「四葉のクローバー」


 野に咲き乱れるクローバーの中で、隠れるように紛れている四葉のクローバー。幸福の象徴が、僕の脳裏に浮かんだ。


「隠し味に……探してきたの」


 僕はコップを手に取ると、それを一気に飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ダンデライオンで笑って、MA-1でひきつけになりました。 ピッコロ大魔王とか入ってなくて良かったw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ