すっごくグリーンなスムージー
「何これ」
目の前に置かれたコップには、何やらどろどろとした緑色の液体がいっぱいに入っていた。
「グリーンスムージー」
彼女は投げやりに言った。腕を組み、タバコを吸った。
何も言わず、僕はそのグリーンスムージーを見ていた。青くさい、妙な臭いがしている。喉越しも悪そうだ。
「……何で?」
絞り出すように僕は言った。
「何でグリーンスムージー?」
彼女は「何か飲む?」と僕に聞いたんだ。だから僕は「うん」と答えた。僕はてっきりコーヒーか紅茶が出てくるもんだと思い込んでいた。まさか、グリーンスムージーが出てくるとは。
「……体にいいから」
見ると、そっぽを向いている彼女の顔が少し赤い。いつもクールで感情を表に出さない彼女が……。
僕は意を決してコップを手に取った。そのグリーンスムージーの水面、びっくりするくらい波立たない。波紋の一つも見えない。個体なんじゃないかと思うくらいに。
コップを傾けて、口を付ける。ドロリとしたものが、少し遅れて流れてくる。
濃厚で、苦悩を煮詰めたような味がするそれを、僕はやっとの思いで飲み込んだ。
口の中がベタベタする。水が飲みたい。
「何が入ってるんですか、コレは」
「ほうれん草、セロリ、ピーマン、春菊……」
クセの強めの野菜が多い。
「シソ、大根の葉、タンポポ」
「タンポポ?」
「ダンデライオン」
え、何でかっこよく言い直したの?
「アロエ、バッタ……」
「バッタ?」
バッタ。
「虫入れちゃったの?」
僕のあまりに驚いた顔に、彼女は少し狼狽えた。
「で、でも足だけ」
足だけ……。なら大丈夫だね、とはならない。
「他には?」
「……フライトジャケット」
「フライトジャケット?」
去年の冬、彼女は好んで着ていた。
「MAー1?」
「そう」
「ALPHA INDUSTRIESの?」
「うん」
彼女はバツの悪そうな顔をした。
「……だって……」
短くなったタバコの先を、灰皿に押し付けた。
「だって、緑色だから!」
「……そうだね」
そうだね。僕はそれしか言えなかった。
今にも泣き出しそうな彼女の顔を見て、僕は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「お気に入りのMAー1を僕のために切って、繊維ほぐして入れてくれたんだね」
「……うん」
「ありがとう」
料理なんて一切しない彼女が、彼女なりに考えて僕のためにグリーンスムージーを作ってくれたんだ。その気持ちを何より大切にしてあげたい。僕はそう思った。
「他には何を入れたの?」
「エメラルドの粉末」
それは高価な……どうやって粉末にしたの?
「あと……」
あと?
「四葉のクローバー」
野に咲き乱れるクローバーの中で、隠れるように紛れている四葉のクローバー。幸福の象徴が、僕の脳裏に浮かんだ。
「隠し味に……探してきたの」
僕はコップを手に取ると、それを一気に飲んだ。