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世界征服なんて望んでません!

作者: あかめがね

 突然ですが、私異世界に来てしまったようです。とは言っても、いわゆる転生というやつで、気付けば私は黒髪黒目という典型的な日本人から金髪青目という容姿の地方地主の娘となっていた。しかし、死んだときの記憶は曖昧で、気付けば私は今の私だったのだ。それに、いつ記憶が戻ったかなどはわからない。ただ、私は前世の記憶を持っており、それを当たり前と思って生活していた。それがおかしいと気が付いたのはお隣さんの子供で、幼馴染のリンデとの会話の中。


「ねぇ、この白詰草で花冠を作りましょう!」

「白詰草・・・?これはクローバーだろ?」


そう、花の和名が通じなかったのだ。例えば、自動車や米など、花以外の日本語は伝わるのに、花だけは日本語の名称で呼ばれていなかったのだ。しかし、それだけのこと。私は特に気にせず生きてきた。リンデも男の子ということもあって、花に詳しくなく、そんな呼び方もあるのだろうと何も言わなかったのだ。


 しかし、リンデからその話を聞いたお父様は血相を変えて私の元へやってきた。その日は一日リンデと遊ぶ約束をしていたが、お父様のあまりの様子に今日はいいと家へ帰ってしまった。リンデが去ると、お父様は冷や汗を垂らしながら問いかけてきた。


「リンデ、花の名前が…分かるのかい?」

「ええ、白詰草といった、花の名前ですよね?」


そう答えると、お父様は口元をひきつらせた。何かまずい事でも言ったのかと不安になっていると、お父様は私の両肩に手を置いてまるで小さい子に諭すように話し始めたのだ。


「緑の魔女のおとぎ話は知っているね?」

「植物の声を聴き、操れる魔の女お話ですか。たしか、その力を使って人に悪さをしていたところを勇者に見つかり、倒されてしまうという……。」


『緑の魔女』というのは、この国に古くから伝わるおとぎ話だ。しかし、この世界には魔法なんてものは存在しないため、このお話は悪さをするとだめだという教訓を教えるものにすぎないと大半の人は考えている。


「そう…そうだ、その通りだ。そして…このお話は実話を元にしているんだよ。」

「えっ!?で、でも魔法なんて」

「そう、ないんだ。もう現存していないんだよ」


お父様の話では、大昔には魔法使いという者はいたらしい。そして、魔法も広く一般的に使われていた。だが、ある時生まれた緑の魔女はその膨大な魔力で他の魔法使い達を根絶しようとした。彼女は魔法を独占することでこの国を、世界を支配しようとしたそうだ。彼女の才能はそれまで天才と言われていた魔法使いも真っ青というほどの逸材で、魔法使いや魔法道具なども一掃されてしまった。それを討ったのがおとぎ話に出てくる勇者だったという。勇者も魔法使いであったが、優秀な3人の家臣と共に緑の魔女を見事に倒して荒地だったこの土地で生き残った魔法の使えない人々と国を建国した。それが、私たちの住んでいるトバニア王国なのだそうだ。勇者と家臣はみな魔法が使え、その魔法はその後代受け継がれていった。しかし、時を経ていくごとに血は薄まり、今や魔法を使えるものはいなくなってしまったのだという。


「それで、その話が何か……?私は確かに花の名前が分かりますが、それだけですよ?」

「緑の魔女の得意な魔法はね、その名の通り植物を操る魔法だった。そして、その魔法には花の真名が必要なんだよ。」


お父様の言葉に今度は私が顔をひきつらせた。もしかして、もしかすると、そういうことなのだろうか。


「わ、私は魔法なんて使えません!たとえ花の真名を知っていてもそれだけです!それに世界征服なんてそんなっ…私は、そんなことしたくないっ……」


感極まって泣き出した私に、お父様はゆっくりと両肩の手を背中へ回して私を抱きしめた。私の頭の中はパニックだった。花の名前を知っていたのは前世の記憶があったから、それだけだし、お父様の子供として一応いい子に育ってきたつもりだった。お父様はひとしきり泣いた私の顔を両手で包み込み、そしていつもの安心するような笑顔を見せてくれた。


「わかっているよ、大丈夫だ。しかし、これがもし王族に知れたら……ええい!考えていても仕方がない!とにかくこの事は他言無用だ。何か体に異変があったらすぐに知らせなさい。いいね?」


お父様の言葉に大きく頷き、私は屋敷の自分の部屋へと戻った。突然のことで今もうまく状況が飲み込めていないけれど、とにかく私はしばらくこの屋敷から出ない方がいいのだろう。そう思い、ベッドに腰掛けた。そしてふと、ベッドの近くにある窓から外を見ると、中庭の庭園が見えた。庭園では庭師のおじさんが未だ蕾の菜の花の手入れをしていた。


(魔法が使えたら…花を咲かせたりできるのかな)


ふとそんなことを考えてぶんぶんと頭を振る。そんなことで緑の魔女の子孫だとか、生まれ変わりだとか言われたらたまったものじゃない。しかし、一抹の好奇心が邪魔をする。さっきは怖くて泣いていたはずなのにいざ、魔法と言われると子供特有の憧れのようなものが出てきてしまったのだ。


「菜の花さん、お花を咲かせてくださーいな?……なんてね。」


そんなことをつぶやいてみるが菜の花にも、庭師の叔父さんにも特に変化はない。私はほっとして窓から目線を外した。だが次の瞬間、庭園から悲鳴が上がった。ぎょっとしてベッドから飛び降り窓を開けて外を見ると、それまで蕾だった菜の花が全て満開になっていたのだ。私はその光景を見てへなへなとその場に座り込んでしまった。すると、大きな足音がこの部屋に近づいてきて、勢いよく私の部屋の扉を開けた。


「っ!まさか!!」

「…はは、その、まさかみたい…」


顔を真っ青にする私とお父様は、まだ知らない。この出来事がきっかけとなり、緑の魔女の生まれ変わりだと王族に連行されたり、その王族の一人である王太子も実は魔法が使えて、その後ちらほらと魔法が使える人が出てき始めて大昔の魔法全盛期が再興するだなんて。そして、その真相には、大地の女神がもうそろそろ人間に魔法返そうと思ったという単なる思い付きがあったと知るのも、もっともっと、先のお話。


読んでくださってありがとうございました!

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