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異世界には「アレ」がない!?  作者: 和口
第1章 ベスティア王国編
26/37

【第26話】異世界には練習がない!?

「「お……おはよう……」」


「お前大丈夫か……? 目の下のクマが凄いぞ……」


「そ、そういうお主こそ今にも死にそうな顔をしておるではないか……」


 結局、あの後も全く寝れず、気がついたら朝になっていた。

 何故か知らんが、ヨートーも寝不足らしく、今度からは大人しく鞘で寝る事にしたらしい。


「とりあえず朝食でも食いに行くか……」


 よく考えたら昨日は検問に時間を取られた結果、夕食を摂っていなかった。


 (酒場はまだ開いてないしな…… たまには自分で作ってみるか……)


 そんな事を思っていると、不意に自室のドアが開いた。


「ソウマさん。なんかエミリーさんが呼んでま……し……た…………?」


 ドアを開けたのはメルだった。

 メルは俺を……正確には俺とヨートーを見て固まっていた。


「そ、そうですよね……ソウマさんも……男の人ですもんね……」


 前にも同じような事があったような気がする。


「ま、まて……メル……誤解だ……」


「い、いえ! 私は何も見てませんから! し、失礼しました!」


 メルが顔を赤くしながら走り去る。


「ま、待ってくれ……違うんだ……」


 追いかけて誤解を解こうとするも、睡眠不足のせいで体が思うように動かなかった。


 メルには逃げられ、ヨートーは二度寝していた。


 散々な朝だった。



――――――――――――――――――――――



「はぁ……またヒドイ目に遭った……」


 結局、誤解は解けず、俺は酒場に来ていた。

 朝食を適当に済ませ、もう一眠りしようと自室に戻ろうとした時……


「ちょっと? どこに行くのかしら〜♪」


――殺気を孕んだ声が背後から聞こえる。

 恐る恐る後ろを向くと、そこには"鬼神"エミリーがいた。

 蛇に睨まれたカエルの気持ちがよく分かる。

 

「エ、エミリーさん……その、顔が怖いですよ……」


「あらぁ……呼び出したのに優雅に朝食を摂っていたのはどこの誰かしらねぇ……」


 そういえばメルがそんな事を言っていた気がする。

眠かった上に、変な誤解をされたせいで、完全に忘れていた。


「まあいいわ。それで? ヨートーちゃんはどこにいるの?」


「え? ヨートーなら寝てますが……」


 俺がそう言うと、エミリーの鬼神顔がさらに険しくなる。


「叩き起してきなさい! あと、ソウマも動きやすい服に着替えてくること!」


「ひっ……了解しました!」


 軍隊顔負けの返事をすると、二度寝したヨートーを叩き起こしに行く。



――――――――――――――――――――――



「むう……眠い……」


 俺とヨートーは、鬼神仕様のエミリーに連れられ、ギルドの裏にある空き地に来ていた。

 ちなみにヨートーはエミリーの指示で剣の姿になっている。


「さて、ソウマは剣は使ったことはあるかしら?」


「うーん……無いですね……」


何故か鬼神仕様のエミリー相手だと自然に敬語になってしまう。


「そう……じゃあ基本から……と行きたいけど面倒臭いわね……」


 そう言いながらエミリーが訓練用の木刀のようなものを構える。


――次の瞬間、すぐ目の前にエミリーの顔があった。


「っ!?」


 エミリーの一撃を鞘で防御し、一旦距離を置く。

 ジンジンと手が痺れる程、強力な一撃だった。


「エミリー!? 急に何するんだ!?」


「ほら、スラッグに言われたじゃない? "戦闘慣れしてくれ"って。だから早速訓練よ。ヨートーちゃんを抜いてかかってきなさい」


「ええ!? そういうのって基本の素振りとかからやるんじゃないのか!? いきなり実戦は無いだ……っ!」


 言い終わらぬうちにエミリーが突きを繰り出してくる。

 それを紙一重で回避し、ヨートーを鞘から抜く。


「クソッ! やるしかないか!」


 距離をジリジリ詰めてくるエミリーを見据えながらヨートーを構え、反撃を……


「ば、馬鹿! 何故片手で使おうとするのじゃ! 普通刀といえば両手じゃろう!」


「うお!? 急に叫ぶなよ……ビビるだろ……」


 そんな事を言いながら、ヨートーを両手でしっかりと握り、反撃を……


「あ、阿呆か! なんじゃその構えは! それじゃ力が入らんぞ!」


「うるせー! しょうがないだろ! こちとら刀なんて使ったこと無いんだよ! 包丁の使い方しか知らんわ!」


「あら? 戦闘中にお喋りなんて余裕ね〜♪」


 少し目を離した隙にエミリーがすぐそばまで来ていた。


――木刀が左脇腹にめり込み、骨が軋む。


「っ!」


 そのまま思い切り吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられる。


「くっ! もう見ちゃおれん! ソウマ! ちょっと"矯正"するぞ!」


 そう言うと、柄の部分に巻いた紐が伸び始め、袖から進入する。

 本来なら少しむず痒いかも知れないが、脇腹の痛みでそれどころでは無かった。

 間もなく、全身に紐が張り巡らされる。


「ヨートー……? これは……?」


「これでお主の体の動きを矯正するのじゃ! 本来体運びはじっくりと練習する物なのじゃが……荒療治みたいな物じゃ! とにかくこのまま戦え!」


 ヨートーにそう言われ、こちらに悠然と歩いてくるエミリーを迎撃すべく、立ち上がり、体制を整える。


「さて? 作戦会議は終わったかしら?」


 そう言うと、エミリーが攻撃態勢に入る。

 木刀が眼前に迫るが、後方に少し跳び、それを回避する。

 木刀は空を切り、エミリーの右脇腹が空く。

 そこに突きを繰り出してみたが、寸での所で回避された。


 (これは……何となく動き方が分かるぞ! ヨートーもたまには役に立つんだな……)


 そんな事を考えていた俺にエミリーの蹴りが炸裂する。

 うかつだった。

 木刀ばかりを気にしていて、他の攻撃が頭に無かった。


「私が戦争に参加していた頃にね、真っ先に死んでいったのは誰だと思う?」


 蹴りでよろめいた俺に木刀での追撃が決まる。


「それはね、"余計な事を考えている奴よ"」


 体制を立て直す暇もなく、連撃を体中に受ける。


「いい? 戦闘中は目の前の敵を倒す事だけを考えなさい。じゃないと真っ先に死ぬ事になるわよ」


 極めつけに、大きく振りかぶった強打をモロに受け、思い切り吹っ飛ぶ。


「ソウマ、これが戦いなのよ」


 俺の顔を覗き込む鬼神を見据えながら、俺は意識を手放した。

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