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異世界には「アレ」がない!?  作者: 和口
第1章 ベスティア王国編
23/37

【第23話】異世界には戸籍がない!?

「はあ……ひどい目に遭った……」


 朝からヨートーのせいであらぬ誤解を招かれた俺は、ギルドの酒場で朝食を食べている。


「朝から死にそうな顔してますけど……大丈夫ですか?」


 レナが隣の席に座りながら言った。


「死にそうな顔してるんじゃない。死にそうなんだ。何たって唯一の癒しキャラのメルに変な誤解をされたんだ……死にそうにもなるよ……」


「ゆ、唯一!? アタシじゃ癒されないって言うんですか!? 」


「うん」


 即答だった。


「ぐぬぬ! アタシだって癒す事ぐらい出来るんですからね!」


 まず声のボリュームを落として欲しい。

 朝っぱらから何でこんなに元気なのか不思議でしょうがない。


「朝から騒がしいわね。レナは少し声を抑えなさい。ソウマは朝から性欲を抑えなさい」


 メル……結局言ってしまったのか……


「何聞いたか知りませんが何もやましいことはしてませんから」


「どうだか。まさか自分で作った剣とヨロシクやっちゃうとはね〜♪ なかなかの鬼畜ね♪」


 ルナさんがニヤニヤしながら言う。

 いつものイジリだ。


「はぁ……そんな事する度胸が俺にあると思いますか? まず女性経験なんて殆ど無いですし」


「ふぅん……じゃあ私と女性経験してみる? 手取り足取りリードしてあげるわよぉ」


 いつの間にかエミリーが向かいの席に座っていた。


「エミリーは男だろ……朝からオッサンに求愛される俺の身にもなってくれ……」


「あら、でも私は登録上では"性別不明"になってるから」


「登録ってギルドの?」


「いえ、王国の住民登録の事よ。性別欄に"オカマ"って書いた時は受付の人に凄い顔されたわぁ〜」


 なるほど、戸籍みたいなものか。

 それにしても受付の人……かわいそうに……俺が受付だったら確実に追い出していたな。


「ていうか俺ってその"住民登録"ってしなくても大丈夫なのか?」


「「あっ」」


 ルナさんとレナが顔を見合わせる。


「ヤバ……完全に忘れてた……」


「それって登録しないとマズイのか?」


「結構マズイです……住民登録せずに、黙って滞在してると騎士団に捕まります……」


 それはかなりマズイ。

 ただでさえ法律などがよく分からないのに、前科者になんかなってしまったら生活に確実に支障が出る。


「でもどうしましょう? 移住って事にするにしても、ソウマって意外と有名人だから……」


 頭の中に新聞の1面を飾った出来事がよぎる。

 あの1件のせいで俺はちょっとした有名人になってしまっていたのだ。

 移住という事にしても、何故住民登録する前に武器屋なんてやってたのかと言われるだろう。


「ど、どうすれば良いですかね……?」


「ふふふ……私にいい考えがあるわよ〜♪」


 エミリーが怪しく微笑みながら提案する。



――――――――――――――――――――――



「ほ、本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だ。"俺"を信じろ」


 俺とエミリーは中央区の役所の前まで来た。


 しかし、エミリーはいつもとは少し違う姿をしていた。


 いつものドレスを脱ぎ捨て、ゴツイ鎧を着込み、口紅を落とし、金髪も後ろで1本に束ねている。


――その姿はまさに"鬼神"。


「じゃあ行くぞ。ソウマ」


 鬼神仕様のエミリーと一緒に役所に入る。

 住民登録の受付カウンターまで歩いて行く途中で何人かにチラチラと見られているように感じた。


「あの……ここで住民登録が出来ると聞いたのですが……」


「はい! 出来ますよ! こちらの申請用紙に各要項を記入してくだ……さい!?」


 受付の女性が、俺の後ろに居たエミリーを見て、目を丸くした。


 申請用紙を受け取り、カウンターから離れる。

 

「なあ……やっぱり鬼神エミリーってそんなに有名なのか?」


「どうでしょうねぇ……昔にちょっと暴れただけで鬼神なんて呼ばれちゃうなんてイヤねぇ……」


 エミリーが周りには聞こえないように普段の口調言う。

 最初は鬼神うんぬんの話はあまり信じていなかったが、この風貌を見れば、イヤでも信じざるを得なくなる。


「しかしなぁ……普段とのギャップがデカすぎるだろ……」


 申請用紙に書き込みながら鬼神仕様のエミリーを見る。


「ギャップ萌え?」


「寝言は寝て言ってくれ」


「私と寝るなら良いわよぉ」


 エミリーの戯言を無視し、申請用紙を書き上げる。

 書き上がった申請用紙を受付の女性に渡す。

 

「……はい! 確認しました! これであなたは正式にベスティア王国の住民です! こちらが身分証明書になりますので、無くさないように気を付けて下さい!」


「ありがとうございます」


 受付の女性に礼を言って、役所から出る。


「なぁ……凄いスムーズに終わったけどさ、エミリーついてくる必要あったか?」


「うーん……もし何か言われたら過去の戦果に免じて許してもらおうかしら〜って思って♪」


 エミリーが軽く言う。

 もしこれで本当に見逃して貰えたらエミリーは過去に相当な戦果を挙げていた事になる。




 恐るべし鬼神。

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