【第15話】異世界には逃げ場がない!?
「ええっと……あなたは……」
「ふふふ……"私"エミリーって言うのぉ♪」
凄い人が来てしまった……
美しいドレスの袖から伸びる極太の腕。
お世辞にも似合っているとは言えない口紅。
(この人はヤバイ……てか危ない……)
本能が全力で危険信号を発している気がした。
蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かる。
(是非とも何とか帰ってもらいたい……)
「特技は料理なのよぉ」
「そ、そうですか……ちなみにここで働きたいと思った理由は?」
一言言葉を交わす度に変な汗が出てくる。
それほどに目の前の"男"は異質な存在なのだ。
「そうねぇ……新聞に載ってた"若き鍛冶屋"って子を気に入ったからかしらぁ?」
そう言うとエミリーは俺に向かってウインクをしてきた。
俺にはそれが死の宣告か何かのように感じた。
(こ、こんな恐ろしい人を雇ったら終わる……! 主に俺が……)
「あの! エミリーってあの"鬼神 エミリー"ですか!?」
レナが急にエミリーに言った。
というか何だ"鬼神"って。
奇人の間違いじゃないのか?
「やぁねぇ〜 昔の話よぉ〜」
「レナ、鬼神って?」
「ソウマさん知らないんですか!? かつて、戦争中に次々と敵地を制圧した事から、鬼神って呼ばれてるんですよ!」
このオッサン(?)が?
確かに強そうな見た目はしているが……この人を雇ったら間違いなくギルドを制圧される気がする。
そして俺の貞操も危ない気がする。
「じゃあこれからよろしくお願いします!」
「おい待て!」
いつの間にかレナとエミリーが硬い握手を交わしていた。
俺はレナの手を掴み、強引に引っ張って行く。
「わわっ!? ソウマさん!?」
「レナ、エミリーはやめた方が良い」
「ええっ!? 何でですか!? あの鬼神ですよ!」
どの鬼神かは知らないがどうしてもエミリーには帰ってもらう必要がある。
「レナ、よく聞け。あのエミリーって人をうちで雇ったらどうなると思う? そりゃあ大変な事になるぞ?」
エミリー達に聞こえないように耳打ちする。
「た、大変な事……!? 一体どんな!?」
「そりゃあもう大変だ。最近ようやく賑わって来たギルドが大変な事になる。本当に大変だ。」
「そ、そんなに大変な事に……」
(チョロイな。レナってもしかしたらアホの子なんじゃ……)
「でもこのギルドのオーナーって私ですよね」
「あっ」
「「……」」
レナがエミリーに向かって駆け出す。
「メルちゃーん! エミリーさーん! 2人とも採用でーす!」
「やった!」
「うふふふふふふ……」
メルが可愛らしく喜ぶ。
エミリーが怪しく微笑む。
「ついでに分からない事があればソウマさんに教えてもらってくださーい!」
「レ、レナアアアア!?」
こうして俺は武器屋兼新人教育係になった




