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第五・五話 雑魚キャラには一分もいらない

 《少し時間は巻き戻り……》


 朝、俺は布団の中にいた。


「う……ん……んあ……?うおっ……!?」


 横に寝返りをうつと、すやすやと寝ている勇子の姿があった。


仰向けに、目を閉じて緩んだ表情と、柔らかな呼吸が、幼さを際立たせている。


肌にまとわりついている赤いワンピースは、成長期の少女特有の、細やかだが、肉付きのいいボディラインを浮き立たせている。


「う……ん……」


 おもむろに勇子は、こちらに寝返りをうってきた。幼い寝息が、俺の首筋にそよぎ、少しくすぐったい。


 俺の手には、勇子の細い腕が触れる。その食感はプニプニとしていて、触り心地が非常に良い。


 下を向くと、成長途上にあるモチモチとした白い足が、しなやかに伸びていた。足の先をピンとはり、寝ながらウズウズさせる仕草はとても愛らしい。


 勇子も中々可愛いもんだ。つい、頭を撫でたくなってしまう。なでたくなってしまう……うん、撫でよう。


 俺は頭を撫でてみた。


 うん、中々いい。癒される。うん。


 髪のサラサラ感がいい。滑らかな髪質は少女特有のソレだな。うん。


「ん……んん……ううん?」


 突如、勇子が目を覚ました。当然のことながら、俺と目があう。そしてこれも当然だが、俺は勇子の頭に手を置いたままだ。


「な……な……なぁああ……!!」


 あ、やば……。この流れ前にあったな……。


「あぁああああああああああああああああ」


 勇子の右ストレートが俺の顔面に炸裂した。


「がうッ……うう……」


 不幸中の幸いは、まだ朝が早かったので、気絶しても学校には間に合うということだ。


 かくして俺は、二十分ほどの二度寝きぜつに入ることとなった。


 ______________________________________


 《二十分後》


「ん……んぅ……」


 気絶という名の二度寝から目を覚ました俺は、何やらいい匂いがする事に気付いた。


「おぉ、おはよう!!ゆーま!!今、朝ごはんを作ってるからな!!そこで待ってろ!!」


 どうやら勇子は、俺が二度寝きぜつしている間、ご飯を作ってくれていたらしい。勇子が、どんな料理を作ってくれるのか、いろんな意味で楽しみだ。


「できたぞ、ゆーまぁ!!おいしそぉだろ!!」


 でてきたのは、鶏肉を野菜と一緒に、フライパン炒めたものの様だ。簡単なものだが、シンプルで、朝でも重すぎないだろう。


「おー、美味しそうじゃないか!!」


「あぁ!!一生懸命!!食材と悪戦苦闘して作ったからな!!」


 そこまで苦労して作ってくれるなんて嬉しいなぁ……って……あれ?よく考えたら、鶏肉なんて買ってあったっけか?野菜も……なんの野菜だコレ……?


「な、なぁ……勇子?この料理……どうやって作った?」


 勇子は、どうしてそんな当たり前のことを聞くのかといった風に、首をかしげた。


「どうやってって……その辺に飛んでいたカラスに石を投げて、撃ち落としてだなぁ……」


「え!?」


「その辺の草をむしって、カラスを洗ってさばいて……どうした?」


 ええ……!!やベーよ……!!聞いてねぇよ……!悪戦苦闘ってそういう意味かよ……!!なんで朝から野生のカラスと雑草を食べなきゃいけねーんだよ……!!


「ゆ、勇子!!じ、じ、実は俺……カラスが苦手で……」


「そ、そうなのか!?……す、すまん」


 勇子は、あからさまにガッカリした顔になってしまった。小さい子が落ち込んでいる姿は、俺の中の罪悪感を駆り立てる。


「……うぅ……せっかく……ゆーまが喜ぶと思って……作ったのに……」


 くうっ!!堪えろ俺の理性!!今回ばかりは堪えろぉ!!カラスだぞ!!雑草だぞ!!さすがに食えねぇだろぉよ!!


「ゆーまがぁ……喜ぶと思って……作ったのにぃ……」


「ごめん。嘘ついた。俺めッちゃカラス好きだったわ!!」


 俺のバカァァアアアアアアアア!!


 ______________________________________


 朝 通学路にて


「うぅ……カラスなんて初めて食べた……でも意外と……いやでも、やっぱり気分的には……」


 学校への道で、俺は今日の朝食を正当化しようと、自らの心と格闘していた。


「ねー、ユウくーん?何独り言つぶやいてるのー?」


「あ、いや、何でもない」


 隣で、俺の幼稚園の頃からの幼馴染である藤崎ふじさき 愛姫まなひめが聞いてくる。


 コイツとは昔から仲が良く、あっちからは『ユウくん』、俺からは『ヒメ』と呼び合う仲だ。


 小学生の頃から毎朝、ヒメは俺の家を経由して、俺を呼び出して、一緒に登校している。習慣というものは中々抜けないんだとか。


 高校になり、地元から離れた為、さすがにこの習慣も終わるのかなと思っていたが、ヒメも偶然東京に住むことになり、しかも近所に住むことになったため、学校は違うが、こうして今も一緒に登校している。


「いやー、最近さ、俺の周りで色々起きすぎてて……まー、話しても信じてもらえないだろうが……」


 いつもと変わらない顔。ポニテのよく似合う、タレ目の優しそうな顔が、俺の目を覗き込む。


「んー?そうかなー?私は信じると思うけどなー?だってユウくんさー、嘘つくとすーぐ顔に出るんだもんね。困ってることがあったらー、何でも言っていいよー?」


 ヒメはどこかポワポワした性格だが、世話焼きな一面もある。実際、小さな頃からずっとお世話になっていて、料理も掃除も洗濯もすべてヒメから教わった。


「あー、もしかしたら、いつかは何か頼むかもなぁ……。」


「ふふっ、何でも言っていいからねー!」


「……例えば今日、カラスを食べてきたって言ったら、ヒメは信じる?」


「ふふっ。ユウくんにしてはー、面白い冗談だねー」


 ……信じてないじゃん。


 まぁ、ヒメと一緒の登校が俺を落ち着かせたのは事実だ……。この非日常続きの中で、こうしたいつも通りはありがたい。


 このまま学校でも、何も起きなければいいが……。


 ______________________________________











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