第四話 教会では蘇生が行えます
「わいの幸運がぁ!!どっかに行ってまうぅ!!」
平太は割れた壺を、必死に組み合わせようとしている。ジグソーパズルでもあるまいし、そんなことで直るはずもない。
「クッソォ!!勇子ちゃん!!どうしてくれんねんコレェ!!高かったんやぞぉ!!……んあ?なんやこれ?」
平太は、壺の破片の下から、何やら見慣れない、黒い物体を見つけた。
「うん?……なんかアンテナみたいなもの付いてるで?……リモコン?……ではないやろなぁ?」
「おい……。まさかそれって……盗聴機じゃあねぇのか……?」
俺と平太の間に無言の間がしばらく流れた。
「い、いやいやいや。そ、そんな馬鹿な事あるかい!!コレは幸福を運ぶ壺やぞ?」
「そ、そうだよなぁ!!まさか、盗聴器なんて物騒なモノ、こんな所にある訳ないよなぁ!!もしそうだったらこの会話も聞かれて……」
「おい!!ゆーま!!なんか、家の前にきたぞ!!」
窓の外を見ていた勇子が叫んだ。
「う、嘘やろ?」
窓の外を見ると、黒塗りの、たぶん高級であろう車が、平太の家の前にとまっている。そこから、黒いスーツを着て、サングラスをつけた男が三人降りてきた。
『ピーンポーン』
インターホンが鳴る。さっきの黒服達が押したものに違いは無いが、さて、どうするべきだろうか。
勇子は既に臨戦態勢に入っている。
「ど、ど、ど、どないしよぉ!!わ、わいらを消しに来たんちゃうかあ!!」
「お、落ち着け平太、扉には鍵をかけているだろ?最悪、警察を呼べばいい。だが、その機械はきっと盗聴機だ。何らかの始末を付けに来たのは間違いないだろう。取り敢えずインターホンにでて、交渉するんだ」
「わい、インターホンなんか出たことないから分からへん!!」
そうだった。こいつはインターホンを鳴らす前に、ドアを開けるような男だった。
「あーもう。分かったよ。俺が出てみる」
俺はインターホンにでた。平太も隣で聞いている。黒服は、俺が何も言うことなしに、用件を伝えた。
『どうも、我々は、ホワイトジャスティス教団の者です。盗聴器兼GPSを見つけましたね?安心してください。危害を加えるつもりはありません。我々は口止め料をお支払いに来ました』
ホワイトジャスティス……白い正義?胡散臭すぎる……。黒服を着てる男が名乗る名前じゃねぇだろ……。てかあれGPSだったのか。どうりで場所が……。
俺が考えを巡らすうちに、黒服は話を続けた。
『まあ、信用できないでしょうね。では、口止め料は郵便受けに入れさせてもらいます。その盗聴器兼GPSは、壊すなりしてもらって構いません。それでは』
そう言って、黒服の男達は車に乗って去って行った。
「ふぅ……」
緊張したぁ。てか、結局俺は何も喋らなかったな。
「おい、ゆーま!!今の男たちは誰だ!!魔王の手先か!!」
「い、いや。魔王の手下じゃない。だから絶ッッッ対手を出すなよ!!」
今みたいな連中に喧嘩をふっかけられたら、たまったもんじゃない。
取り敢えず、さっきの盗聴器兼GPSを踏み潰すか。
「おいおい、ゆーま。それじゃあフラグにしか聞こえへんでぇーー?まぁ、とりあえず口止め料ってのをもらいに行こうや!!」
いつの間にか落ち着きを取り戻した平太が、ノリノリで声をあげた。この陽気なエセ関西人は金をもらえたことが、単純に嬉しいらしい。
「え、えぇ……。あんまり気乗りがしないんだが……。もしかしたら爆薬とか入ってる可能性も……」
「なぁにを言うとるんやぁ。こんな住宅地で爆発したら、ご近所さんに有名になってまうやろ?そんな事はいくら何でも避けたいはずやん?」
「ま、まぁ……」
「さぁーて、いくら入ってるんやろぉなあ!」
そう言って、平太はスキップをしながら意気揚々と、郵便受けまで口止め料を取りに行った。
「壺は十万もしたからのぉ!最低でも、十五……いや、二十万は入っとらんとな……あ……?…………あぁ!?」
俺と勇子も郵便受けに行ってみると、平太が分厚い封筒を握っているのが見えた。平太の体は、心なしか震えているように見える。
「ゆ、ゆーまぁ……さ、札束が三つ入っとる」
コレは普通に震え声だな。札束が三つか……。てことは現金で三百万円……。さんびゃくまんえん……??三百万円!!??
「お、おい……まじか!?マジかぁ!?こ、コレはヤバいんじゃないのか!?け、警察に伝えた方が!!」
「アホ!!口止め料やぞ!?受け取ってしもうてんねんぞ!?これに加えて警察にチクッてみぃ!!わいら死ぬぞ!!」
「そ…それもそうか!!ど、どうすれば……!!こ、ここにいたらまずいんじゃ……」
「ゆーま!!へーた!!落ち着け!!」
あまりのことにテンパってしまっている俺達に、勇子が一喝した。瞬間、夜の静寂が二人を包み込む。
「何があったかよく分からんが、取り敢えず落ち着け!!私がついてる。私はお前達の味方だ。お前達に攻撃する奴は、私が蹴散らしてやる。だから安心しろ」
勇子が仁王立ちで言い放つ姿は、とても頼もしく思えた。勇子の本当の事について知らない平太でも、その言葉で落ち着きを取り戻した。
「ゆ、勇子ちゃん……。せ、せやなぁ!!わいらには勇子ちゃんがついとるもんなぁ!!せやせや、受け取れへんねやったら、返しにいけばええんや!!せやろ?ゆーま」
「か、返しにいくって、三百万をか?そんな簡単に…」
「だいじょーぶ。だいじょーぶ。絶対に他言しないって約束すりゃーええねん。悪いようには、せーへんやろ」
こういう時、平太の陽気さには助けられる。根拠は無いが、どうにかなるって思いにさせてくれる。その楽観的な思考はある意味大切だろう。
「そ、そうだな。分かった。じゃあ返しに行くのは二日後だ」
「二日後?なんや、明日じゃダメなんか?」
「あぁ、こういうのは計画をじっくり練ったほうがいい。何しろ相手は得体の知れない組織だ。完全に安全な状況で行かなきゃダメだ。計画は俺が立てるから心配するな」
「わ、分かった。よろしく頼むで」
「おい!!ゆーま!!」
勇子がいきなり俺の服を引っ張った。まさか、何か異常が……?
「眠い……!!」
勇子は、服を掴んでいない方の手で、目をこすった。どうやら今日一日で、かなり疲れた様子だ。そういえば俺もかなり疲れている。
「………………じゃ、じゃあ、取り敢えず俺たちは帰るわ」
「お、おう、気をつけてな」
先程までの危機感はなんだったんだろうか……。