第十話 お話を聞き流してもクリアはできる
「あー、もしもし?平太?本部に着いたら、教会の奥の部屋にいるから、そこに来てくれ。その金落とすんじゃないぞ」
俺は用件だけを平太に電話し、早々に電話を切った。
教会の奥の狭い部屋に、櫻子に案内されて入ると、そこには目鼻立ちのいい一人の神父さんが座っていた。白い神父服を着ていて、頭を白く染めた、いいおじさまといった感じだ。
奥の部屋には、椅子が四つに大きいテーブルが一つあった。談話室として使われているのかもしれない。俺はその椅子の一つに、神父と向かいあって座っていた。
まるで、悩みを相談しに来た迷える子羊だな俺は。
部屋の隅では、勇子と櫻子が隣りあって立っている。勇子は櫻子を、何かおかしなことをしないか、注意深く監視しているようだ。
櫻子はニコニコと笑っているだけだが。これが本当に櫻子なんだろうか?普段の櫻子はこんなにオドオドしていないはずだ。
「電話は終わりましたかね? では、お話を始めるとしましょう。えー、改めて、ホワイトジャスティス教団へようこそ、私は教祖をやっています、白義 神一といいます。えー、一応櫻子のお父さんです。へへ」
「え!? お父さん!? 櫻子の!? 」
驚きを隠せない。クラスで学級委員を、やっている、あの優等生の櫻子が、新興宗教の教祖の娘なんて……。
「いやはや、そう驚かないでくださいよ。よく言われるんですよ、あんまり似てないって。いやぁ、うちの妻が別の男と作ったんじゃないかって疑われる始末で、へへ。とんでもない。櫻子はちゃんと私の娘ですよ」
「も、もう、お父さんったら……。ご、ゴメンなさい悠馬くん」
いや、驚いたのはそこじゃない。コレはツッコミを入れたほうが良いのだろうか……。い、いや、違う。早く要件を済ませよう。
そして、俺は深呼吸を一つして、本題に入った。
「俺が、ここに来た理由に、魔王子を助けに来たってのもあるんだが……それとは別に、先日、壺の中に入っていた盗聴器を見つけた時の口止め料を返しに来た」
「ほう、それはまたなんで?」
「あまりにも額がでかすぎる。どう考えてもただの地方の新興宗教じゃない。だから関わりを持ちたくないってことだ。もちろんこの事は誰にも他言しない。まさか、クラスメートの父親が教祖だとは思わなかったがな」
「あー、そういうことね。いやぁ、律儀だねー、わざわざ返しに来るとはねー。どう?櫻子とか嫁にいらない?」
「ちょっ!? へっ!? お父さん!?」
「ハッハッハ!! 冗談だよ!! お前はまだまだ、嫁にはやらんからなぁ!!ハッハッハ」
なんだこのホームドラマは、話が先に進まないんだが。
「と、とにかく!!いま、平太にお金を持ってきてもらうから、それまで待って……」
『プルルルルルルルルルルルル』
突如、俺のスマホがなった。表示を見ると、平太からかかってきたようだ。……嫌な予感がする。
「もしもし?平太か?どうし……」
『ゆーまぁ!!大変やぁ!!お金を盗まれたぁあ!!』
「……は?」
『ホンマにスマン!!お金を鞄に入れてたんやけど、駅の近くで横からバイクがきて、鞄をとっていったんや!!必死になって自転車で追いかけとったやけど!!見失ってしもうた!!』
「ぁ……ぇ……」
『とりあえずまだ近くにいるだろうから、探しまくる!! ホンマにスマン!!」
そう言って、電話は切れた。俺は平太に、何を言っていいか分からなかった。頭が真っ白だ。何の指示もできない。
「何やらお困りのようですね?悠馬くん?」
目の前で神一が問いかける。俺は何も答えなかったが神一は続けた。
「当ててあげましょうか? お金を盗まれたね? そうだろう。今、平太くんは駅の近くにいますね? ははっ!! そう驚かないでくださいよ」
「あ、あんたらが仕向けたのか?!」
「いやいや、まさか、そんなセコいことしないですよ!! たまたま、教団員が近くにいたので、情報として知ってたということです」
そう言って神一は、スマートフォンを俺に見せつけた。
「そうですね〜〜。もう危ない組織ってバレてるみたいだし……。言っちゃいましょうかね。…今回は大奮発初回サービスですよ?」
そう言って、指を鳴らし、黒服を呼ぶと、何やら耳打ちをした。黒服は一つ頷き、部屋から出て行った。
「お、おい!!今、何を……」
「まぁ、待ってて下さい。おっ、捕まったようですね。泥棒さん。中の三百万も無事なようです」
「は?」
「本来は問題解決は別料金なんだけど……まぁ、初回だからね」
そう言って見せてきたスマホの写真には、取り押さえられた泥棒の姿と、平太の鞄の中身が写っていた。
「どうしますか?この三百万?このまま、お返ししてもらってもいいですが……あげたものをそのまま返されるのも忍びない。何か買っていきませんかね?あっ、もちろん壺とかお守りじゃなくてね?その、情報なんていかがでしょうか?」
「情報?」
「私たち、ホワイトジャスティス教団は、表では、宗教団体だけど、裏では、情報屋をやっているんだよ。まぁ、この教団も、表って言えるほどクリーンじゃないけどね?三百万もあれば、結構いい情報買えますよ?」
俺はいきなりの意味が分からないセールストークに、ポカーンとするだけだった。
「あぁ、ゴメンね?いきなり言われても困るよね。ハハッ!!教祖なのに話し下手なんだよ。ハハッ!!櫻子、説明してあげなさい!!」
いきなりの振りに少し戸惑ったようだが、すぐに分かりやすい説明を始めてくれた。
「あ、うん。えっと、私たちがご利益のある壺やお守りを売っているのは知ってるよね?」
「あ、あぁ」
その壺にご利益がないことも知ってるが。
「それで、その壺やお守りにに仕掛けた盗聴器で、情報を集めているの。まぁ、これは情報集めの手段の一つに過ぎないけど。これ以上は企業秘密ね? 」
「な、なるほど」
「それでね? その壺やお守りを買った人にも幸せをプレゼントするんだ。例えば、彼氏が欲しい人には、彼氏を作らせるとか。もちろん、その彼氏も教団員だけど。そうしたら噂が広まって、もっと壺やお守りが売れて、もっと情報が集まるの。よくできてるでしょ?気付いた人には、百万ずつあげて、口止めするけどね」
「そ、そうだったのか。でも欲しい情報なんて…………あ」
「おや、何かあるのかい?悠馬くん?」
神一が興味深そうに聞いてくる。
「あ、いや、でも……口止め料を使うのはさすがに……」
「いいじゃないか。あれは君にあげたんだ。どう使おうが君の自由だ。口止め料なんて思わなくてもいい。ほら、言ってごらん?」
神一は身を乗り出して質問してくる。すまん、平太。その三百万使うことにする。
「じ、実は、そこの勇子の事なんだが」
「な!?私のこと!?」
勇子は、いきなり自分の名前がでてきたことに戸惑ったが、すぐに静かに話を聞く体制に入った。
「これから俺が言うことは本当だ。信じてくれ。ゆ、勇子は実は、この世界の人間じゃない。異世界から転生してきたらしい。だが、どうして転生したのか、自分でもよく分からないらしいんだ。その転生した理由と、帰る方法を教えてくれないか?」
神一は数秒の間固まっていた。
「……ぷっ……フハハッ……ハァッハッハッハッハッハッハッ!!」
神一は数秒固まった後、急に豪快に笑い出した。
「お、おい。本当なんだ信じてくれ!!」
「いやいや、長い間……フフッ……情報を扱ってきたけど、そんなユニークな依頼は初めてだ!!猫探しとか、彼女の下着の色なんてのもあったが、今日のが一番面白い!!やりがいがあるよ!!」
「え……それじゃあ受けてくれるのか!?」
この声は勇子である。やはり、勇子も転生した理由を知りたかったようだ。
「ああ、君達はこの状況で冗談を言うような人じゃないだろう?フフッ、ただ、この依頼はいくら私たちでも時間がかかるだろう。少し時間をもらおう。期待しててね?」
良かった。これで勇子の素性が明らかになるかもしれない。……そういえば平太を忘れていたけど……まだ泥棒を追っているんだろうか……。