第六話 絶望
今回は少し胸糞が悪く、グロ描写がこれまでの話の中で一番なので、予めご注意下さい。
意識が朦朧とする。すると、いきなり髪を乱暴に掴まれ膝上に置かれた水入りのバケツに、顔を突っ込まれた。
「……むぐ、が、……あぁ!んん!」
私は、息が出来ないが為に、必死に暴れる。
だが、そんな事には目もくれずにずっと私の顔を入れ続けた。
……何秒経っただろう?私の抵抗が無くなった時位に、髪を引っ張られ無理矢理顔を上げさせられた。
目の前にいるのは、私の意識を無理矢理覚醒させ、幾度となく拷問を繰り返してきた、仮面を被った男だ。
「寝てんなよ。へへ、まだ楽しもうぜ」
「……ぃ、イヤ……、もうゆるして……」
「駄目に決まってんだろ。それにまだ試したい事もあるしな」
「……おねがいです、もう、やめてください……」
「どうしようかなぁ~。そうだ!なら、ここは一つ勝負しようぜ」
「しょうぶ……、ですか?」
「そう、勝負だよ。今から、俺はお前に電流を流す。でだ、その電流に60秒耐えられたら、お前の勝ちだ。そん時は此処から逃がしてやるよ。だがな、負けたらどうなるか分かってるよな?」
男は、挑発したような口調で私に説明してきた。
私はその言葉を聞いた瞬間、目に輝きが戻りそして……
「その勝負、乗ります」
と、言葉に出していた。
私は、もう此処から逃げ出せるという事で頭がいっぱいになり、男のその言葉に易々と乗ってしまったのだ。
「へぇ、じゃあ早速始めようか」
男はそう言うと、予め用意していたのだろう電流装置を私の目の前に置き、導線を私の身体に巻き付けた。そして、男は下品な笑い声を出しながら、私に電流を流していった……。
「さてと、此処の教室は何だ?」
「ええと、此処は美術室みたいだね。出来れば今回も鍵が掛かってなければいいんだけど……」
蓮人はそう言うと、ゆっくりとドアを横に引いた。
「鍵は……、掛かってないみたいだな」
「良かった。鍵が掛かってると探索の幅が短くなって大変だもんね」
瑠璃子がそう言い、四人は中に入っていった。
中に入った時、まず四人の顔に浮かんだのは、驚きや不思議だという表情だった。
それは、いままでおんぼろな空屋の様に、何もかもがボロボロだったのだが、この教室だけはまるで最近建てた校舎の様に真新しかった。
「何だ、こりゃ……」
「此処だけ、異常な程、新しいね……」
「そ、そうね」
「おかしい。何でだ?」
「どうした蓮人。何か分かるのか?」
「うん。これも母さんから聞いたんだけど、破壊された校舎の中で被害が多く出た教室が職員室、生徒指導室、そして最後に此処、美術室なんだ」
「は?んだよそれ。嘘じゃねぇのか」
「いや、そんな筈はないよ。確かにあの時、美術室だって聞いた。だから最初にドアを開ける時に、どれだけ酷いのかを考えていたんだよ」
「じゃあ何でこんなんになってんだよ?」
「そんな事、僕に言われたって分からないよ」
「音楽室のピアノにこの美術室、ホントに意味が分からないわね」
「まぁ、今はそんな事はどうだっていい。そんなの後で考えれば良いからな。今やるべき事は燐音と楓を探す事だ」
「そうね。じゃあ美術室は広いから、二手に分かれて調べた方が良くない?」
「瑠璃子の言うとおりだね。だったら僕と柊子、争助と瑠璃子で分かれない?」
「そうだな。じゃ、さっさと調べちまおうぜ!」
争助がそう言うと、四人は二手に分かれ美術室を調べ始めた……
「なぁ瑠璃子。何でお前の友達の楓はよ、此処に来たんだ?」
「そ、それは……」
「ん?何かあったのか?」
「実は……、楓は、クラスで虐められてたの……」
「マジかよ……」
「最初は、無視されたり物を隠されてたらしいんだけど、それがエスカレートしていって、殴られたり男子から襲われそうになったりそうなの。それで、遂には此処に無理矢理連れてかれたらしいの。その後、楓は行方不明になって……」
「ちょっと待ってくれ。お前は楓が虐められてた事は知らなかったのか?」
「うん。あの子、私と一緒にいる時は、そんな事微塵も感じさせない程、普通だった。それで、行方不明になった後に虐められてた事を知ったの」
「そうだったのか……」
「私が、もっと早く気付いてあげられてたら、こんな事にならなかったのに……」
「お、おい!泣くなよ!大丈夫だ!絶対見つかるから!」
「ぐすッ……、あ、ありがと」
「ふぅ、うん?何だありゃ?」
不意に、教室の端にキラリと輝く物が見えた。
「どうしたの?」
「いや、何かあそこ光ってないか?」
「あ、ホントだ。何かな?」
「さぁ?でもちょっと行って確認してみようぜ」
「うん」
争助と瑠璃子は、端に落ちているそれにゆっくりと近づいた。
二人は目の前まで近づくと、その落ちていた物体を確認した。
「これは……、携帯?」
「そうだな。だけどよ、さっきまで光ってなかったよな?」
「うん。だけど多分、メッセージが届いたんじゃない?」
そう言いながら、瑠璃子は落ちていた携帯を拾い上げた。
「ほらやっぱり、メッセージが届いてる。ええと、何々……。君たちは、神を、信じるかい?」
「はぁ?」
「この携帯の持ち主は、宗教か何かにはいっていたのかなって言いたい所だけど、明らかにおかしいよこれ。このメッセージ、集団に聞いてる事前提の言い回しをしてるよ」
「確かに、俺達って書いてあるな……」
「それにこの携帯、圏外じゃない!何でメッセージが受信できてるの!」
「さっぱりだな……。まぁ、この件は集まってからで良いだろ」
「そうだよね。他に何かある?」
「うーん、特にこれと言った物はねぇな」
とその時、蓮人の方から呼ばれた。あちらも何か見つけられたのだろう。
「争助、瑠璃子。ちょっとこっちに来てくれる?」
「おう、何だ?」
そう言いながら、争助達二人は反対側にいた蓮人と柊子の元へ近づいた。
「どうしたの?」
「それがね、何かないか探してた時に一部の床だけ色が違うんだよ。ほら此処」
「ホントだ。それに此処だけ踏んだ時の感触が全く違ぇよ」
「ホントね。もしかしてこの床って外せる?」
「そう思って、そこの棚にあった彫刻刀で床と床の間に突っ込んで持ち上げようとしたんだけど、凄く硬くて……」
「おい、ちょっとお前ら離れてろ」
「えっ?何するつもり?」
「貴方、まさか……!?」
「ほら、さっさと離れてろ」
争助はそう言い、半ば強引に三人をそこから離れさせた後、片足を上げてそのまま踵を床に叩きつけた。
「ダンッ!」
そんな音と共に、床が大きくへこんだ。
「硬ッ!けど、もう一度だ!」
争助はもう一度足を上げ、踵を落とした。
「バキンッ!!!」
争助の踵落としを二発ももらった床は、相当大きな音を立て外れた。
「やっと壊れたぜ」
「貴方、何でいつも壊そうとするのかしら!バカじゃないの!」
「良いじゃねぇか、結局は壊れたんだし」
「そういう事を言ってるんじゃないの!もしあの化物が音に気付いて、此処に来たらどうするのかしら!?」
「分かった、分かった。逆に、お前の声で来そうだけどな……」
「何か言った!?」
「何も言ってないデスヨー」
「……やっぱりこの床の下に何かあった。三人とも此処を見てみて」
蓮人はそう言い、三人を呼んだ。
「何、これ?秘密通路?」
「そうみたいだな。道理で美術室だけ綺麗な訳だ」
「この通路、何処まであるのかしら?」
「分からないよ。でも、此処に燐音と楓がいるかもしれないから、行った方が良いでしょ?」
「そうよね、ここにいそうだしね。待ってて楓、必ず見つけてあげるから……」
「そんじゃ、さっさと見つけちまおうぜ!」
『うん!』
争助の声に揃って返事をすると、四人はゆっくりと下へ降りていった……
「うん…………?」
不意に燐音は目を覚ました。
(あれ、私、何してたんだっけ…………?)
そう考え、身体を動かそうとした瞬間、指に形容しがたい激痛が走った。
「痛ッ!」
情けない声が漏れた。
私は、顔をゆっくりと下へ向け、自分の手を確認した。
瞬間、私の思考が完全に停止した。
(私の、指が、無い……!?)
そう、両手の中指と小指の第二関節から先が無くなっていた。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!こんなの嘘よ!絶対に嘘!有り得ないわ!私の指があああああああああああああああああああああああああ!!!」
気付くと私は、突き付けられた現実を否定し、発狂していた。
――――それを遠くで見ていた男が満足そうに頷き、見ていたのだった……