鐘の音
一年後
とある山のとある寺院。墓石が並んだ場所の一角に響歌と昌也は来ていた。
「もう一年かぁ」
香炉に和菓子を供えながら、響歌が感慨深そうに呟く。
「昨日まで一緒にいた気がするよ」
昌也が響歌の言葉を引き継ぐようにして呟く。
「うん。ほんと。……まさか、ミルちゃん自殺しちゃうなんて。……それに力也も……」
「ほんと、どうして気付かなかったんだろうな。もし、俺たちが二人の悩みに気付いていたら、こんなことにはならなかったのかもしれないのに……」
響歌と昌也。二人の目尻に涙が滲む。
ミルはもちろん自殺とされたが、力也はミルが死んだショックから、殺人を犯してしまったとされている。だが、二人はそれを信じていなかった。もちろん、力也が殺人を犯してしまったのは事実なのかもしれないが、そこには何か理由があったのではないか、とそう思っているのだ。
昌也は水を溜めた水鉢に、菊の花を立てる。二人が菊を選んだ理由は、駅の花屋の店員が菊を勧めてくれたからだ。店員によると、一年ほど前から、お供えを買いに来た人には菊を勧めることにしたらしい。なぜかは知らないが、その店員のどこか満足気な顔が、昌也の脳によく残っている。
響歌と昌也は並んでしゃがみこみ、二人同時に合掌する。
二人の脳裏を過ぎるのは、力也とミルが死んだ日――机の上に残されていた紙のことだ。
――幸せだったよ。ありがとう。
二人は、それに対しての返答を書いていた。
――力也とミルがいて、私たちも幸せだったよ。ありがとう。
その手紙は、例えどんな風に吹かれようと流されてしまわぬよう、香炉の下に丁寧に挟まれていた。
冬の穏やかな風に吹かれて、どこからか鐘の音が響く。
その鐘の音に共鳴して、墓石が震えたように見えたのは、おそらく気のせいだろう。そして、その光景がどこかうれしそうに見えたのも、幸せそうに見えたのも気のせいに違いないのだ。
とある山のとある寺院。墓石が並んだ場所の一角――富良家の墓と書かれた墓には、二人の人が眠っている。
富良力也、和束ミル
この二人はこれから、永遠に離れ離れになることはないだろう。
無事、完結しました。読了していただき、ありがとうございました<m(__)m>




