崩壊
突如、力也の右肩から血が飛び散る。
直後、力也は激痛に襲われていた。
顔を歪めながら左手で右肩を押さえながら、力也は衝撃を受けた方向に目を向ける。
そこには、三人の若い男がいた。手に持っているのは、鉄パイプ、果物ナイフ、スパナとばらばらだが、共通して言えるのは、三人とも目の焦点が定まっておらず、口からよだれを流していることだった。
(ドラッグッ)
その言葉が力也の頭に去来する。
おそらく、この男たちは脱法ドラッグ中毒者だ。覚醒剤、麻薬などは、「ACC」の対象となるため、所持した時点で爆死となるが、脱法ドラッグは違う。今でも条例違反に留まっているため、「ACC」の対象にならないのだ。そのため、スラムではよく売買されているのだという。スラムの人々は、生活への現実逃避や、ストレス発散などで手を出してしまい、抜け出せなくなるのだろう。
そう思考した直後、力也の目の前で鉄パイプを持った男が一瞬硬直。そして、男の破片が壁に飛び散り、黒ずんだ赤い液体が力也と二人の男にかかり、白い雪を紅く染める。
力也は吐き気に襲われ、肩の痛みも忘れて口を手で押さえていた。
だが、男たちは吐き気に襲われるどころか、息を荒げていた。どうやら、血を見て、興奮状態に陥ってしまったらしい。
このまま対峙していれば、力也とミルの生命が危なかった。
力也はミルをかばうように立ち、徐々に後退していく。このまま、一定の距離を取ってから、走って逃げるつもりなのだ。
だが、力也は横目で驚愕のものを見る。
――ミルだ。
ミルが力也の横をすり抜け、男たちに向かって走っていく。
「ばっ……」
力也はそこで痛みを思い出し、肩の痛みによって声を出せなくなってしまう。骨折しているかもしれなかった。
しかし、驚愕するべきはそこからだった。
ミルは地面に落ちていた鉄パイプを拾い上げると、走った速度を落とさぬまま、果物ナイフを持っている男の頭を鉄パイプで殴りつける。男は、衝撃で壁に頭をぶつけ、血を流して事切れる。その後、ミルはパイプを投げ捨てて、空中に舞った果物ナイフの柄を掴み取り、間髪入れずにスパナを持った男に襲いかかる。男は、スパナを不規則に振り回していたが、ミルはそれを難とせず、スパナの攻撃を全て果物ナイフで弾き返すと、最後は男の首を掻き切る。直後、男は首から血を噴き出して絶命する。
時間にして、五秒ほどだった。
力也は絶句してその光景を見つめていた。
だが、すぐに我に返っていた。なぜなら――
「ミ……ミルッ」
力也の身体は動かなかった。声だけがかろうじて絞り出される。
ミルは、返り血を浴びた顔でにこやかに微笑んでいた。
「私は、私を守ってくれた力也に恩返しできたかな? 最期に力也を守れたことを誇っていいのかな?」
(ああ……駄目だ……駄目だ、ミル。……いっちゃいやだ……)
力也の言葉は、言葉になりきれず、思考に留まってしまう。
力也は懸命に左手を伸ばすが、ミルは遠すぎた。届きそうにない。
ミルを抱きしめたいと願っても、もう叶わなかった。
「……ありがと、力也。――――幸せだったよ」
ミルは、満面の笑みを讃えながら涙を流した。
そうして――
ミルちゃーん!




