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Peace World  作者: 黒糖パン
16/30

出逢い

 太陽の明かりが力也の目を刺激した。

「ん……――はっ」

 力也は飛び起きる。アナログ時計は、午前七時を示していた。

 力也の身体には、毛布がかけられていた。昌也がかけてくれたのだろう。

 キッチンからいい匂いが漂ってきていた。見ると、響歌が朝食のトーストを焼いているところだった。

「あっ、力也おはよう」

 エプロン姿の響歌は、包丁で何かを切っていた手を止め、力也に目を向ける。フライパンでは、何かを焼いているようだった。音から察するに、目玉焼きだろうか。

 力也は寝ぼけ眼を軽くこすってから、両手を上で組んで伸びをする。

「おはよう」

 響歌は、それを聴くと、口笛でも口ずさみそうなほど陽気な態度で料理に戻る。

 と、そこで力也は大事なことを思い出す。

(ミル……起きてるかな……?)

 力也は、リビングを出て、二階に上がって自室をノックする。

「ミル……入るよ……」

 返事はなかった。

 扉が重い。心臓がばくばくと高鳴っていた。

 大きく深呼吸をして、扉を開く。

 電気が勝手に点く。自動点灯機能が設定されているのだ。戻したのだろうか? いや、そんなことはどうでもいい。電気が点いたということはつまり、電気が点いていなかったということだ。

 ベッドにミルの姿は見えないし、部屋には誰の気配もなかった。

 ふと、力也の目が机に向く。

 机の上には、昨日あったはずのバッグがなかった。

(まさか――)

 力也は階段を駆け下り、再びリビングへ。

「母さんッ。ミルは?」

 扉を開くと同時に、張り上げた声を出す。

 響歌はびくっと肩を震わせていたが、力也の顔を見るなり、きょとんとした顔を見せる。

「どうしたの? そんなに焦って?」

「焦ってないよッ。……で、ミルは?」

 今は、自分のことなんてどうでもよかった。それよりも、早く答えてほしかった。

 響歌は、力也の態度に首を傾げていたが、すぐに返答してくれる。

「ミルちゃんなら、さっき学校に行ったわよ。服のまま寝ちゃったらしいから、アイロンをかけてあげて、ほんの十五分くらい前に。今日は、登校時間が特別に早いんですって」

 それを聴いた途端、力也の身体は勝手に動いていた。二階に駆け上がり、自室に入って、自分でも驚くほどの速さで制服に着替え、バッグを掴み取って家を飛び出る。

「ちょっと力也、朝ご飯は?」

  響歌が玄関が閉じる直前にそう言っていた気がしたが、気にしていられなかった。靴をちゃんと履いて、道路に出る。

 曇っているが、雪は降っていない。ラッキーだった。

何度も足を取られそうになりながらも、必死に雪の上を走る。いつも歩いているはずの停留所までの距離が途方もなく長く感じた。

 登校時間が特別に早いなんて嘘だ。力也もミルが通っている中学校に通っていたが、そんな日はなかった。ミルは、力也と顔を合わせたくなかったのだろう。全部自分が悪いのだが、力也はくやしかった。ミルに避けられていることが、どうしようもなくくやしかった。

 そして、力也は二十メートルくらい先に女性の後ろ姿を見つける。

「ミルッ」

 だが、女性との距離が十メートルを切ったところで、その女性がミルではないことに気付く。よく見れば、制服を着ていないし、スカートも履いていない。力也の目はどうかしていた。

 そうして、やっとの思いで停留所に到着する。普通ならば、走ってなら数分で着くのだろうが、力也には、到底そんな短い時間に感じられなかった。

 停留所には、バスが止まっていた。数人の人がバスに乗っていく。車内は、まだ人が少なかった。

 バスに乗り、車内を見回すが、ミルの姿は見えなかった。

(一つ前のバスに、乗っちゃったか……)

 ミルがいないとわかった途端、力也の身体を、どっと疲れが襲った。

 一番前の席に座った途端、力也の背中に悪寒が走った。

 力也の脳内で、時間が巻き戻る。

 車内を見回した時、一番後ろの席に座っていたのは、誰だったか……。周りは、スーツを着た社会人ばかりだ。だが、一番後ろにいたのは……。

 力也は慎重に後ろの席に目を向ける。

――ッ

 一番後ろの席に座っていたのは、同じクラスの男子だった。確か、吹奏楽部だ。吹奏楽部は、こんなに早くから朝練をしているらしい。

 力也の手には、冷や汗が滲んでいた。

 さっきまでミルのことばかり考えていたのが嘘みたいに、今は自分のことしか頭になかった。

(――今日もまた、無視されるのだろう。

 このまま明るくしていても、傷つくだけだ。だったら、もう一度、人とかかわらない性格に戻ればいい。そうすれば、何もかもが無関心になれる。無視なんて、どうでもよくなる。

――そうだ。そうしよう。

 ミルのことも、もうあきらめよう。このまま、ミルに嫌われたままでいい。どうせ、僕が悪いんだ。後悔することも、謝ることもできないのなら、いっそ、あきらめてしまったほうが、気が楽だ)

 ふっと、力也の身体は軽くなっていた。今までは、荷物でも背負っていたようだった。

 バスが信号で急ブレーキをかけ、車内が大きく揺れる。

 その揺れによって、力也の心が大きく揺らがされていた。




――でも、やっぱり力也は、過去には戻れなかった。だってもう、力也はミルに出逢ってしまったのだから。

 そして、力也はそのことを大いに知らされることとなる。


……こんばんわ

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