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Peace World  作者: 黒糖パン
12/30

二人

リニアに乗って、一つ向こうの駅――今日の昼に使った駅で降りる。

ミルは、不思議そうな顔をしていたので、どうやら忘れてしまっているようだった。いらないのだろうか?

 力也がロッカーから取り出したものを見て、ミルは思わず、「あっ」という声を上げていた。

(誰のだと思ってるんだよ、まったく……)

 力也のそんな呆れも、ミルのたった一言でどこかへ行ってしまう。

「ありがと」

 それで許してしまうほど、自分は単純な男なのだとわかっていても、ミルには勝てそうになかった。

 家の最寄り駅に着く少し前に響歌にメールをしていたので、ちょうど駅を出たところで響歌の運転する車がロータリーに入ってくるところだった。

「いっぱい買ったねー」

 開口一番に響歌が言った言葉がそれだった。まったく、その通りだと思う。力也は、荷物を車の中に置いた後、地味な痛みを起こしている手をぱたぱたと振って痛みを和らげる。

「買い過ぎだよ」

 車に乗り込み、皮肉っぽく力也が言うと、ミルは頬を膨らませる。

「だって、力也がかわいいっていったから……」

「あら、じゃあ力也が悪いわねぇ」

「なんでだよっ」

 力也がツッコむと、二人はくすくすと笑う。

(はあ……)

 力也は心の中で溜め息を吐いていた。

(疲れた……)

 その言葉には、いろいろな意味が含まれていた。

 十分ほどで家に着き、荷物を二階の自室まで運んで、力也は風呂に入る。

 汗と共に疲れも流し、リフレッシュする。

 時刻は午後九時を回ったところだった。テレビも特に見るものがないので、そのまま二階に上がり、自室に入る。

「……」

 力也は、自分の部屋の光景に思わず目を疑っていた。

「あっ、おかえり」

 ミルは悪びれた様子もなく、そう言い、袋から服を取り出す。……いや、気付いていないのか。

「……」

 部屋には、今日買った服が散乱していた。ベッドも服でほとんど埋まってしまっている。

 湧き出てきた怒りを必死に堪え、力也は平静を装う。

「うん、ミル。とりあえず、お風呂入ってきて」

 力也がそう言うと、ミルは、「はーい」と返事して、ぴょんぴょんと器用に服を踏まずに扉まで来る。

「いってくるねー」

 ミルが一階に下りるのを見送った後、力也は寛大に溜め息を吐いていた。

「整頓しようよ……」

 力也は、すぐに行動を開始していた。コートなど生地が分厚いものは、クローゼットへ。カーディガンなどは、ハンガーラックへ。バッグはその横のバッグハンガーへ。靴は一階に下りて、玄関の靴箱へ。自室に戻ってきた力也は、綺麗になった部屋を見て、満足する。ちなみに、収納グッズは響歌から拝借したものだ。

 力也はベッドに仰向けに寝転ぶ。それから、三十分ほどうたた寝していたが、扉を勢いよく開ける音に、力也の目は強制的に覚醒させられ、上半身は跳ねるように起き上がる。

「決めた! 私、明日からお弁当作る!」

 扉の勢いに負けないほど勢いのある声で見るはそう宣言する。

 一瞬、力也は夢でも見ているのかと思った。でも、頬をつねっても、目は醒めない。やはり、現実のようだ。

「べ、弁当? 急にどうしたの?」

「響歌さんが、『ミルちゃんが作った料理なら、力也は喜んで食べると思うから、明日から、一緒にお弁当作らない? 私の作った料理は全然食べてくれないの』って泣いてたから」

「……」

(いや……普通に食べてるけど?)

 響歌が一体何をしたいのか、力也には理解できなかった。

「だから明日からは私が作るねー」

 でも、そんな嘘もミルは信じているようだった。

 ……まさかとは思うが、響歌は、ミルに花嫁修業でもさせようというつもりなのだろうか?

「ミル、料理したことは?」

「二、三回」

「……大丈夫?」

「大丈夫!」

 ミルは、満面の笑みを見せる。その自信は、一体どこから来るのだろうか……。

 力也は再び、寛大な溜め息を吐いて、上半身を倒して、ベッドに寝転がる。

「あっ、部屋が魔法にかかったように綺麗になってるー」

「魔法じゃないよッ」

 力也が即答でツッコむとミルはくすくすと笑う。なんだか、こんなことばっかりだ。こうなるごとに、力也は自分が恥ずかしくなっていた。

 もうツッコむのはやめようかと、本気で思った時だった。力也の背中に悪寒のようなものが走る。

 その直後――

「どっかーん」

 自分で効果音を言いながら、ミルは力也に飛びかかる。

「痛いッ」

 力也は呻き声を上げていた。

 だが、力也のそんな様子を気にすることなく、ミルは両手で力也の胴体にぎゅっと抱き付き、足をからめて、落ち着く。

「ミル、暑いって。離れて」

 力也の心臓はばくばくと鼓動していた。破裂してしまいそうだ。だから、今の言葉はそれを少しでも誤魔化すためのものだった。……いや、まあ実際暑――熱かったのだけれど。……頭が沸騰しそうなほど……。

「駄目。今日はこうやって寝るの」

 ミルは力也の背中に顔をうずめながら答える。

「……寝れないから」

「私は寝れる。落ち着くもん」

「僕が寝れないのッ」

「ふーんだ」

 何が、「ふーんだ」なのかはまったくわからなかったが、頭がどうにかなりそうだったので、とりあえず早く離れてほしかった。

 力也は仕方なく、無理矢理ミルを自分から引き剥がす。

 すると、ミルは、むぅと頬を膨らませる。だが、力也は疲れていたので、もうかかわる気になれず、そのまま眠りに落ちた。

 だが、もちろんミルがそれだけで諦めるわけもなかった。

なので、朝、力也が目を醒ました時にミルがへばりついていたことは言うまでもない。


なんも言えねえ

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