第九十三話
「…………………………え? 師匠、今この国から旅に出るって言った気がするッスけど……本気ッスか?」
俺の「旅に出る」という発言に仲間全員が固まり、最初に復活したダンがおずおずと手を挙げて聞いてきた。
「勿論本気だ。これは前から考えていたことで、ノーマンさんともすでに話している。それで今日この話をしたのは、これから皆がどうするのかを聞きたかったからだ。特にダン」
「えっ!? 俺ッスか?」
「ああ、お前は一応俺の『弟子』だからな。一緒についてくるならそれでもいいし、王都に残るのならノーマンさんにお前の面倒を頼んで、この屋敷に住めるようにするつもりだ」
異世界からこの世界にやって来たダンを最初に見つけて、この冒険者の生き方を教えたのはこの俺だ。だから俺がダンの今後について考えるのは当然の筋だと言えるだろう。
「あ~、そういうことだったら俺は師匠についていくッスよ?」
「私ハダン様二ツイテイクダケデス」
特に悩む様子もなくあっさりと答えを出したダンとアルナ。いや、ダンの従魔のアルナはともかく、ダンはもうちょっと考えた方がよくないか?
「ダン、いいのか?」
「はいッス。師匠と一緒の方が色々と楽しいッスし、何かと安全っぽいッスからね」
「私もお前に同行しよう」
ダンに続いてイレーナも俺に同行を申し出た。
「私は一応、お前の『監視』という名目で里から出てきたからな。だからお前が旅に出るというのなら、それについていかんわけにはいかないだろう? それに私も他の国に行ってみたいしな」
そういえばイレーナって、俺が隠れ里のことを人間にバラさないか近くで見張る、ていう名目で俺達についてきていたんだっけ? まあ、それはとにかくこれでダン、アルナ、イレーナの三人は俺の旅に同行するってことだな。
「ナターシャ、ルピー、ローラ、ステラ、テレサ。お前達も勿論ついてきてくれるよな?」
『……』
俺に従う魔女五人に訪ねると彼女達は全員、当然という表情で頷いてくれた。五人の返事は予想していたのだが、実際に返事をもらうと嬉しいものがあるな。
さて、残るはギリアード、アラン、ルークの三人か。
「それでギリアード達はどうする? やっぱり王都に残るのか?」
「何を言っているんだい、ゴーマン? 勿論キミについていくに決まっているじゃないか?」
「そうやで。今更遠慮を言うのはナシにしてや?」
「うむ。異国に渡って記憶の手がかりを探すと言うのなら拙僧達も微力ながらも力を貸そう」
あれ? これは少し意外だった。エルフのイレーナがいるからギリアードはともかく、アランとルークまで俺の旅に同行してくれるとは思わなかった。
……というか、怪しい。性根が別の意味で腐りきったコイツらに、友人(一応)の俺が心配だから旅に同行する、なんて殊勝な心がけがあるとは到底思えない。何か裏があるに違いない。
「………………お前ら、俺の旅に同行する目的は何だ?」
「イレーナさんと一緒に旅をして、それと同時に新たなエルフ天国を探すためさ」
「新たなちびっこ達との出会いを求めてに決まっとるやろ」
「拙僧の心の聖地であるドワーフの国へ行くためである」
俺が質問すると三人とも正直に旅に同行する目的を話してくれた。……ああ、そんなことだろうと思っていたよ。この変態共が。
つまりは結局、パーティーの全員が旅に参加するのかよ。
「それでゴーマン様? 旅にはいつ頃出るおつもりなのですか?」
「いや、それはまだ決めていない。他国を旅するのは国内のとは違うらしいからそれなりの準備をしないといけないし、とりあえず明日ノーマンさんに報告をしにいくつもりだ。詳しい旅の計画や準備はその後だな」
ナターシャの質問に最後にして俺達は話を終わりにした。




