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第九十話

「長老。ナターシャの階級上昇をしてくれて本当にありがとうございました」


「ありがとうございます」


 ステータスの確認を終えた俺とナターシャが長老に礼を言うと、長老は首をわずかに横にふると小さく頭を下げた。


「いや、礼を言うのはブラックオーク達を退治してもらった儂らの方じゃ。それに今回の件で儂らはお主との縁ができたからのう」


「縁、ですか?」


「うむ。この隠れ里は魔物の階級上昇を行うことでその魔物の庇護を得ておる。そして今日の階級上昇の儀式によって儂らは、お主という複数の魔女を従える魔物使いと知り合うことができ、里に何かがあればお主とお主が従える魔女の助力を願えるようになった。これはとても大きなことなのじゃよ」


 ……なるほどね。確かにこの隠れ里のことを知っている魔物達は、自分達が強くなれる機会が失われるのを防ぐために隠れ里に何かの危険があれば手助けをしようとするだろう。そしてそれは俺も同じで、ナターシャを初めとする俺に従ってくれる魔女達を強くするために、隠れ里の危機には協力を惜しまないつもりだ。


 そんなことを考えていると長老はいつの間にか部屋に来ていたイレーナを自分の横に立たせて口を開いた。


「……じゃが、もし感謝の気持ちを感じてくれているのなら、もう一つ頼みを聞いてもらえんじゃろうか? このイレーナをお主が率いる集団、確かパーティーと言ったか? それに加えてもらえんじゃろうか?」


「はいっ!?」


 長老の予想だにしなかった頼みに思わず大声を出してしまった俺。隣ではナターシャも口を押さえて驚いている。


「え? どうしてイレーナを俺達のパーティーに?」


「それがイレーナからの強い願いなのじゃよ」


 長老の言葉を聞いてイレーナの方を見ると、彼女は俺の視線を正面から受け止めて小さく頷く。


「この隠れ里は外界との交流を絶っているが、住民全てが外界に興味がないというわけでもない。特にイレーナは里の中で最も外への好奇心が強くてな。昔、お主の師であるノーマン・イスターがここに滞在しておった時など、こやつときたら後ろについて回って一日中外界の話を聞いて……」


「父う……いえ、長老! その話はいいでしょう!?」


 長老の言葉を頬を赤くしたイレーナが大声で遮る。


 そういえばイレーナって、ナターシャ達からも王都の話を聞いていたな。それを聞いて外への興味が押さえきれなくなって長老に頼んだってことか。……でも、


「でもいいんですか? イレーナが外に出たら色々と問題が起きるのでは……?」


 俺が聞くと長老は少し困った表情となって頷く。


「そうじゃな。確かに隠れ里の防人であるイレーナが離れるというのは少々困るが、それでも百年くらいしたら戻るとイレーナも言っておる。それくらいじゃったらこの隠れ里と契約をしておる魔物達の力を借りれば何とかなるじゃろう」


 百年くらいって……。エルフが長命なのは知っていたが、そんな何でもないように言われるとすこし面食らうな。


「いえ、そうじゃなくて。エルフのイレーナが人間の世界を出歩いたら何かの問題に巻き込まれるんじゃないですか?」


 エルフというのは滅多に人里に現れない幻の種族というのが世間一般の認識だ。しかもエルフは不老長寿な上に総じて美形揃いだから、何処かの国にエルフを捕らえて奴隷にしようと考えている貴族がいるという話も聞くし、エルフの肉は不老長寿の薬になるというホラ話だって聞いたことがある。


 もしイレーナが人間の世界に出てその正体が知られたら高い確率で面倒ごとに巻き込まれるだろう。イレーナはもうすでに俺達の知り合いだ。知人が危険にさらされるような目にはあってほしくない。


「だからそれをお主達に頼んでおるのじゃよ。それに正体を隠す術ならこちらで用意しておる。……イレーナ」


「はい」


 イレーナは短く返事をすると胸に下げていたペンダントに右手を当てて小さくなにかを呟く。すると彼女の耳、エルフの最大の特徴ともいえる細長くて先が尖った耳が人間と同じ形にとなっていく。……そうか、あのペンダントとは外見を人間にするマジックアイテムか。


「どうじゃ?」


「ああ、はい。確かにこれなら人間の女性として通用すると思います。でもまだ問題があります。……ステータス。こればかりは誤魔化すことができません」


 人間の姿となったイレーナを見せて聞いてくる長老に俺は最大の問題点を口にする。


 ステータス。呼び出した当人の名前や能力値に技能、そして種族を正確に表示する光の板。王都や大きな街では入る前に必ずステータスのチェックがされ、イレーナのステータスを見せたらすぐに彼女がエルフであると分かるだろう。


「大丈夫じゃ。その点に関しても抜かりはない。イレーナよ、お主のステータスを見せてやれ」


「はい。……ステータス」


 ブゥン。


 イレーナの声に応えて空中に彼女のステータスが現れた。



【名前】 イレーナ

【種族】 エルフ

【性別】 女

【戦種】 なし

【才能】 0/34

【生命】 81/81

【魔力】 62/62

【筋力】 8

【敏捷】 35

【器用】 31

【精神】 29

【幸運】 10

【装備】 エルフの長弓、魔物の爪のナイフ、魔物の皮の鎧、エルフの服(緑)、射手のマント(緑)

【技能】 限定身体能力倍化(森)、周囲警戒、隠密行動、奇襲攻撃、精密射撃、ステータス情報改変



 これがイレーナのステータスか。種族の所を見てみるとやはりそこにはエルフと記されているが……ん? この【技能】の所にある「ステータス情報改変」って何だ?


「あの、長老? このステータス情報改変って、何ですか?」


「おお、そこに気づいたか? それは実際に見せた方が早いじゃろうな」


「……」


 俺の質問に長老がそう答えると、横に立つイレーナが一旦ステータスを消してから何かの呪文を唱え、再びステータスを出現させた。



【名前】 イレーナ

【種族】 ヒューマン

【性別】 女

【戦種】 なし

【才能】 0/34

【生命】 81/81

【魔力】 62/62

【筋力】 8

【敏捷】 35

【器用】 31

【精神】 29

【幸運】 10

【装備】 エルフの長弓、魔物の爪のナイフ、魔物の皮の鎧、エルフの服(緑)、射手のマント(緑)

【技能】 限定身体能力倍化(森)、周囲警戒、隠密行動、奇襲攻撃、精密射撃



 ……………………………………………え?


 ど、どういうことだ? 【技能】からステータス情報改変の文字が消えて、【種族】もエルフからヒューマンに変わっている?


「驚いたようじゃな? これは儂らエルフが長い時をかけて開発した技能でな。人里から必要な物資を調達する時に使用しているのじゃよ」


 驚いた顔でイレーナのステータスを見ている俺に満足したのか、長老が悪戯が成功した子供のような顔を浮かべて種明かしをしてくれた。こ、これはかなり驚いた……。


「……ステータス情報を改変する技能ですか。なるほど、確かにこれと変身のマジックアイテムを使えば、イレーナがエルフだと知られることはないでしょうね」


「では連れていってくれるのか!?」


 俺の言葉にイレーナは期待する表情を見せてきた。本当に外の世界に行きたいんだな、彼女。


「まあ、その返事は他の仲間達の意見を聞いてからだな」


 ……とは言っても「アイツ」はまず間違いなく賛成するに決まっているだろうがな。

【限定身体能力倍化(森)】

レアリティ:☆☆☆☆☆☆★★★★

修得条件 :???

「限定された場所で戦う時のみ身体能力を倍化させる異能。この技能の持ち主は森で戦う時のみ【生命】と【魔力】を除く全てのステータスが倍となる」


 上記の技能はエルフなら生まれつき持っている技能です。イレーナ達、隠れ里のエルフはこの技能を持っているお陰で身体強化をせずに里を守れたわけです。

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