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第八十四話

「……っ!? 待て!」


 俺達が目に殺気を宿らせたギリアードとダンの漫才のようなやり取り(本人達は真面目らしいのだが)を眺めていると、呆れ顔でギリアードとダンを見ていたイレーナが不意に真剣な表情となって声をあげた。


「どうしたイレーナ?」


「気をつけろ……囲まれている」


 ガサガサッ!


 イレーナが周囲を睨み付けるように見ながら俺に答えると、それと同時に周囲の茂みが揺れて複数の黒い影が現れる。俺が影の群れの姿を確認すると、そいつらは大人の男より一回りか二回りほど体が大きく、人間の胴体に豚の頭という外見をしており、体毛と肌の色は乾いて変色した血のような濁った黒だった。外見の特徴から俺達が退治する予定だったブラックオークの集団だと考えて間違いないだろう。


「こいつらが例のブラックオークか?」


 念のためにイレーナに確認すると彼女は無言で頷いた後、ブラックオーク達に向けて口を開く。


「ブラックオーク達よ。ここで何をしている? また私達の里へ向かうつもりだったのか?」


「イイヤ、ソウデハナイ。タダ、コノ森ニ人間ガヤッテ来タトイウ話ヲ聞イタノデナ。コノ地ヲ守ル我ラトシテハ無視デキン話ナノデナ、コウシテ様子ヲ見ニ来ノダ」


 イレーナの質問に一匹のブラックオークが答える。多分コイツがこの集団のボスだな。面構えといい、右手に持っている使い込まれた戦斧といい、他のブラックオークより凶悪そうに見える。それと話している時、横目でこちらを見たからこの森に来た人間とは俺達のことなんだろう。


 それにしても「この地を守る」か。もうこの森の守護者気取りとは……ここまで図々しいと呆れるのを通り越して笑えてくるな。あっ、イレーナが顔を真っ赤にしてブラックオークを睨んでる。


「ふざけ……!」


「ソレニシテモ」


 怒りで顔を真っ赤にしたイレーナが何かを叫ぼうとするが、それより先にブラックオークのボスが口の端を上げて話しだす。


「エルフデアルオ前ガココマデ来ルマデ我ラニ気ヅカントハナ。何カニ気ヲトラレテイタノカ?」


「そ、それは……!? ……!」


 ブラックオークのボスの嘲笑混じりの言葉にイレーナは悔しそうに顔を歪ませた後、俺達の方に僅かに恨みがましい視線を送ってきた。


 ……うん。まあ、イレーナの気持ちは分かる。自分の生まれ育った森で相手の接近に気づかなかった、というのはエルフにとって屈辱でしかないだろう。そしてその原因が俺達が、というか主にギリアードが起こした騒ぎに気にとられたというのだから、こちらを恨みたくなるのも当然だろう。


 それにしてもギリアードの奴、エルフにいいところを見せたいという熱意は凄いんだが、ことごとく空回りしているよな。そんな風に俺が考えていると……、



「雷群矢!」



 と、何やら聞き覚えのある声と共に……無数の雷の矢が空から降ってきたぁ!?


 ガガガガガガガガガッ!


『ギャアアッ!?』


 雷の矢の群れはブラックオーク達にのみ降り注ぎ、突然の攻撃を受けたブラックオーク達が悲鳴を上げる。


「こ、こんなことをする馬鹿は……」


 上を見上げるとそこにはやはりというか、いつの間にか木の上に登って魔術の狙いを定めているギリアードの姿があった。本当にアイツはエルフが絡むと信じられない行動力を見せるな!


「ブラックオーク! この邪悪な魔物共め! エルフの聖地に土足で足を踏み入れ、エルフの生活を脅かした罪、もはや万死に値する! 今からボク達がお前達に天誅を下す、覚悟しろ!」


 もう本当に気持ち悪いくらいのキメ顔でブラックオーク達に死刑宣告を下すギリアード。あんな残念な美形、見たことないよ。


「グ、グゥ……。イキナリ攻撃ヲ仕掛ケテオキナガラ正義ヲ気取ルトハ、何テ非常識ナ人間ダ……!?」


 ブラックオークのボスがふらつきながらも立ち上がると、ギリアードを見上げながら言う。ギリアード……魔物にまで非常識と言われるなんて……。まあいいか、ギリアードだし。


 気を取り直し辺りを見回すと、俺達を取り囲んでいるブラックオーク達は、全員がギリアードの攻撃でダメージを負っているものの戦闘不能になっている奴はいなかった。流石はオークの上位種ではあるが、これはチャンスだ!


「……っ!」


 俺はギリアードの奇襲によってブラックオークが慌てている隙をつき、ブラックオークのボスとの距離をつめるとナターシャの母親、ラミア族の族長から貰った新しい槍『蛇骨槍・双頭の毒蛇』で突きを放った。最初のうちにボスであるコイツを始末しておけば残りのブラックオーク退治がずっと楽になる。


 卑怯とか言わないでくれよ? これは戦いで勝って全員が生き残るために必要なことなんだから。正々堂々と敵の集団と戦って、苦戦の末に勝利する、なんてのは物語に登場する正義の騎士様にお任せしておく。


 ビシュ!


「ムウ!?」


 必殺のタイミングで放った突きだったが、ブラックオークのボスは直前に危険を察知して避けてみせ、俺の槍は首筋の薄皮一枚を切るだけで終わった。クッ! 一応は集団のボスなだけあるか!


「貴様……。小癪ナマネ……ヲ!?」


 槍を避けた後、ブラックオークのボスは俺を睨んで何かを言おうとしたが突然首を、俺にさっき切られたところを手で押さえるとその場で倒れてしまった。な、何だ?


「グッ! ガアアアッ!?」


 地面に倒れたブラックオークのボスは首をかきむしりながら断末魔と言ってもいい悲鳴を上げる。見ればその首筋にはいつの間にか紫色のシミが出来ていて、紫色のシミは目に見えるスピードで広がっていく。……そういえばこの槍『蛇骨槍・双頭の毒蛇』って毒があったっけ? もしかしてコレって毒のせい?


「ア、アアア……ア………」


 ブラックオークのボスは数秒間地面にのたうち回った後、救いを求めるように手を空に伸ばそうとしてそこで絶命してしまった。


 この槍、ちょっと凶悪すぎないか? というか俺、昨日この槍の穂先で指を切りそうになったんだけど、もし指を切っていたらこのブラックオークみたいになっていたのか?

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