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第七十九話

 それから俺達はイレーナに連れられて小一時間くらい森の中を歩き、ついに今回の旅の目的地であるエルフの隠れ里にたどり着いた。


 隠れ里には十数軒の木造の住宅が建てられていたが、流石は森の民エルフと言うべきか、全ての住宅が森の樹の成長を妨げない位置に建てられていて人間の街に比べると乱雑な感じに見える。


「これがエルフの村ッスか。……なんか俺が知っているのとは違うッスね。俺はてっきりでっかい樹の上に家を建てて住んでいると思っていたッス」


 ダンが辺りを見回しながら言うと呆れ顔となったイレーナが口を開く。


「貴様は何を言っている? 鳥でもあるまいし樹の上で暮らす理由などないだろう」


「まあ、それもそうだな。……それにしても見られているな」


 なんかさっきから数十人のエルフが家の窓や木の蔭から興味と警戒が入り交じった視線を俺達に送ってきているんだけど……もしかして隠れ里に住むエルフのほとんどがここに集まってきているんじゃないか?


「それは仕方がないな。なにしろ彼らは皆、生まれてから一度もこの森から出たことがない上、ここに訪れたヒューマンは十数年前のノーマン・イスターぐらいだからな。……それより『アレ』は放っておいていいのか?」


「アレ?」


 微妙な表情となったイレーナが指差した方を見てみればそこには……、



「あははははっ。エルフが、エルフが沢山いるー♪ ボクの天国はここにあったんだー♪ エルフの皆さん初めまして。ボクはギリアード・ライト。今日からここに永住する人間です。どうかよろしくお願いしますねー♪」



 光輝くくらいイイ笑顔となって周囲のエルフに愛想を振り撒いているギリアードの姿があった。その姿はなんというか……「頭の中がお花畑」という言葉がこれ以上ないくらいに当てはまっていた。


 ……ギリアード。お前、もうそのあたりで止めとけ。エルフ達がドン引きしてるだろうが。てゆーか今、永住するとか言わなかったか? お前?


「………………止めないとまずいかな? やっぱり」


「まずいというか……この隠れ里の住人は私も含めてあまり外の世界に詳しくないからな。あのままだとヒューマンの基準がアレだと思われるかも……」


「それはまずいな。アラン、ルーク、ダン。ギリアードを止めるから手伝ってくれ」


「はぁ……。分かったわ」


「うむ」


「了解ッス!」


 その後俺達は四人がかりでなんとかギリアードを「説得」したのだが、その「説得」は言葉ではなく拳によるものであった。


 ……間違ってもエルフが出てきた途端に裏切った仕返しではない。


 ☆


 ギリアードを「誠意を尽くした説得」で「できるだけ穏便」に静かにした俺達は、隠れ里の一番奥にある長老の屋敷にと案内された。まあ、長老の屋敷と言っても隠れ里にある家の中で多少立派って程度なのだが。


「……長老がいないな。恐らく神殿に行っているのだろう。すまないがそこで待っていてくれ」


 そう言って俺達を居間に案内すると我が物顔で屋敷の中を歩いていくイレーナ。……って、いいのか?


「なあ、イレーナ。勝手に歩いていいのか? ここ、長老の屋敷なんだろ?」


「問題ない。確かに長老の屋敷だが私の家でもある」


「はい? お前の家?」


「そうだ。私は長老の五番目の子だからな」


 マジで? イレーナって長老の娘だったの?


「長老ならすぐに帰ってくるだろう。……お茶を入れてくる」


 お茶を入れに居間から出ていくイレーナの背中を見送ってギリアードが至極真面目な顔で頷く。


「……イレーナさんのお父さんが隠れ里の長老か。ということは長老との交渉がボクの移住とイレーナさんとの関係に大きく影響が出るということ……頑張らないと!」


 ……このヤロウ、あれだけ殴ってやったというのにまだ正気に戻っていないのか? こうなればナターシャ達の力も借りて徹底的に叩きのめすか?


 俺が何やら真剣な表情で長老を説得する方法を考えているギリアードに警戒していると、イレーナが淹れたてのお茶を持って居間に戻ってきた。


「待たせたな。粗茶だが飲んでくれ」


「ああ、ありがとう。いただくよ」


 俺達はイレーナが淹れてくれたお茶を同時に飲んで……、


 ぶうっ☆


 一斉に吹いた。


「けほけほっ!」


「な、なんや、このお茶は!?」


「信じられんほどに苦いであるな!?」


 イレーナが淹れたお茶は口の中が麻痺しそうなくらいに苦く、とてもじゃないが人間が飲めるものではなかった。何とか吹かずに飲めたのは普段からクソ苦いポーションで舌を鍛えている俺と、


「いやぁ。このお茶、人間のとは風味が違いますね? やっぱりエルフだけの特別なお茶の葉を使っているんですか?」


 ……満面の笑みでお茶を飲み干すギリアードだった。


「う、うむ。この森で採れる薬草で淹れたお茶なのだが……人間の口には合わなかったか?」


「いえいえ、そんなことはないですよ? ……あっ、おかわりいただけます?」


 ギリアードの奴、世辞でも何でもなく本当に旨そうにお茶を飲んでるな。


 エルフのイレーナが淹れたお茶、という事実だけでこの馬鹿苦いお茶を旨く感じるようになるとは……なんて変態力だ。

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