第七十八話
「それで貴様。名前は何という?」
エルフの隠れ里に案内されている途中でリーダー格の女エルフが俺に話しかけてきた。
「え? 俺か?」
「そうだ。お前が持っていたアイテムは我々が信頼の証としてノーマン・イスターに渡したものだ。それを持つ貴様は何者だ? ノーマン・イスターとはどんな関係だ」
どうやらノーマンさんはこのエルフ達に随分と信頼されているみたいだった。それにしても俺とノーマンの関係ね……。
「俺の名前はゴーマン・バレム。ヒューマンの魔物使いで、ノーマンさんとは魔物使いの先輩後輩の関係かな?」
「魔物使い? お前がか?」
「ああ、そこにいるナターシャ、ルピー、ローラ、ステラ、テレサの五人が俺の従魔だ」
俺が魔女五人を指差して言うと、リーダー格の女エルフは驚いた顔でナターシャ達を見る。
「五人の魔女を従魔にだと!? 人間と魔女が一緒にいる奇妙な集団だとは思っていたが……」
女エルフはひとしきりナターシャ達を見たあと、視線を再び俺に向ける。その表情はさっきまでの警戒心が薄れて、その代わりにこちらに敬意を払っているように感じられた。……何故?
「魔女を五人も従えるとは流石ノーマン・イスターの弟子だな。ゴーマン・バレムと言ったな? お前はただの人間とは違うようだな。私の名前はイレーナだ、覚えておいてくれ」
「それはどうも。……でもイレーナ、だったか? 何か急に態度が柔らかくなってないか?」
「お前もノーマン・イスターの弟子なら知っているだろう? 私達は過去に魔物と契約した一族であるため、どちらかと言えば魔物側なのだ。だから私達は魔物と心を通わせる人間、魔物使いには敬意を払う。それがノーマン・イスターの弟子であるのなら尚更な」
そう言って女エルフ、イレーナは小さく笑う。へぇ、彼女ってこんな風に笑うんだな………って!
「いたたたたたっ!? な、何だ!?」
ギリリリリ……!
「ゴーマン……。一人だけでずっと話すなんて狡いじゃないかぁ……」
肩に鋭い痛みが走ったのでそちらを見ると、まるで悪霊のような顔で俺の肩を掴むギリアードの姿があった。
うわっ!? 血涙なんて初めて見たよ、俺。てゆーか、肩が! 肩が潰れる! コイツ、こんなに力が強かったか!?
「お、おい、お前!? さっきから味方に危害を与えて一体何なんだ?」
「ボクですか!? ボクはギリアード・ライトといいます。彼、ゴーマンの親友です。よろしくお願いしますね、イレーナさん」
イレーナに話しかけられてギリアードが顔を輝かせて答える。……それにしても人間の親友とは相手の肩を握り潰そうとするものなのか。知らんかった。
「そ、そうか……。よ、よろしく、な……。ギリアードとやら」
「はい!」
顔を輝かせたギリアードにドン引きするイレーナ。他のエルフ達もドン引きだ。
「(なあ、ゴーマン・バレムよ。このギリアード・ライトという女は何なのだ? 先程から私達に好意的なのは分かるが、いささか度を過ぎていないか?)」
イレーナがギリアードから距離をとって俺に小声で話しかけてくる。
「(いや……なんでもアイツ、子供の頃にエルフに助けられて以来、エルフに強すぎるくらいの憧れを抱いていてな……。まあ、その、何だ? 頭の病気だとでも思ってくれ。あと、ギリアードは男だぞ)」
「(男!? どう見ても女だぞ! ……どうなっているんだ最近の人間は?)」
「だから! あのオカマ野郎を人間の基準にするなって!」
森の中に俺の絶叫が響き渡った。この後ギリアードが抗議の声をあげたが全員が無視した。
 




