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第六話

「それにしてもナターシャに続いて今回も魔女か……。魔女って珍しい魔物じゃなかったのか?」


 魔物使いの書に書かれた情報によると、魔女ってのは人が寄り付かない奥地に集落を作り、他種族から繁殖用の雄体を捕獲する目的以外ではあまり集落を出ないらしい。だから契約の儀式で魔女が呼び寄せられるのは滅多にないことなのだが……どうやら俺は魔女に何かしらの縁があるようだ。


 目の前の魔女は俺より頭一つ分背が低く、艶のある黒髪をした「綺麗」というより「可愛い」という言葉がよく似合う容貌だった。胴体は人間だが両腕は髮と同じ黒い羽の翼で、足は膝から下が鳥の脚となっている。


「ハーピー(鳥魔女)か。これはまた可愛らしいのがやって来たな……っていうか」


 初めて会った時のナターシャもそうだったが、このハーピーもやはり服を着ていなかった。胸にはナターシャより小さいがそれでも十分大きいと言える柔らかそうな巨乳があり、そして下の方はというと………………生えていなかった。


「い、いかん……。鼻血が出そうだ」


「ゴーマン、気をつけて! 前だ!」


 ハーピーの刺激が強すぎる姿に視線をそらすとギリアードが叫んだ。


 前を見るといつの間にか上空に飛び上がったハーピーが、両脚にあるナイフのような爪を俺に向けて急降下していた。


「うおおっ!?」


 慌ててしゃがむとハーピーは俺の上を通りすぎ、両脚の爪で地面をえぐった後、再び上空に飛び上がった。


 あ、危ねぇ! もう少しで首から上がなくなるところだった!


「ゴーマン、油断しすぎだ! ……気持ちは分かるけど!」


 ……っ! そうか、ギリアード。お前にも俺の気持ちが分かるか! そうだよね! 同じ男なんだから女性の裸が気になるよね!


「………」


 ……あ。ナターシャが人を殺せそうな冷たい目でこっちを見ている。いろんな意味で熱くなっていた俺の体が一気に冷えた。


 よし、そろそろ真面目に戦おう。なにしろ自分の命がかかっているんだ。冷静に戦えばきっと勝機はある。


「アハハハ! 遅イヨ! オ兄イチャン?」


「くっ!」


 ハーピーは急降下をしては上空に退避するといういわゆるヒット・アンド・アウェーで攻めてくる。くそっ! このハーピー、幼さを残す外見や無邪気な言葉とは裏腹にかなり強い! 流石は魔女といったところか。


 ハーピーの動きはまさに風とも言うべき速さで、こちらから攻撃するどころか相手の攻撃を紙一重で避けるのが精一杯だった。……だけどな!


「こっちには必勝の策がある。そう簡単に勝てると思うなよ」


「……? キィッ!?」


 俺の言葉に気をとられたハーピーが何かにぶつかり小さな悲鳴をあげる。


 今この陣は、第三者の乱入や対戦者の逃亡を防ぐために、陣自身が作り出した不可視の障壁で囲まれており、ハーピーはその障壁にぶつかったのだ。そしてこれこそが俺の「必勝の策」だった。


 俺が考えた策の内容は「あらかじめ陣を小さく作り、相手の機動力を封じる」という簡単なものだ。策は今のところうまく作用していて、移動範囲が制限されているハーピーは持ち前のスピードを活かせず、攻撃も単調になっている。その証拠に俺の目も段々ハーピーの動きとスピードに慣れてきた。


「……そこだ!」


「ッ! グギュ!?」


 攻撃を避けたと同時に放った俺の蹴りがハーピーの脇腹に突き刺さり、その小さな体を吹き飛ばす。蹴り飛ばされたハーピーが背後の障壁にぶつかって地面に倒れる。よし! 今がチャンスだ!


 俺は倒れたハーピーに馬乗りになると首筋にバトルナイフの刃をあてた。


「どうする? まだやるかい?」


「ウウ……!」


 ハーピーは目尻に涙を浮かべて悔しそうに俺を睨んだが、すぐに体から力を抜いて抵抗するのを止める。そしてそれと同時にハーピーの胸から光の玉が出てきて俺の胸の中に入っていく。どうやらハーピーが敗けを認めて、仲間になってくれたようだ。


 ……やれやれ。中々しんどかったな。


 ☆


「………………これは一体どうしたらいい?」


 俺はある問題に内心で頭を抱えていた。問題とはついさっき戦いの末に仲間にしたハーピーのことだ。


「ウワアアアアン!」


 ハーピーは今俺の前で大声で泣いていた。ちなみに演技ではなくマジ泣きである。


 ハーピーを仲間にした俺は当初の予定通り、ハーピーに崖の上にあるトリス茸を採りに行かせた。トリス茸の採集は予想以上に早く進み、一時間もしないうちにハーピーが十数本のトリス茸を集めてくれたあたりで、これ以上集めたら逆に値段が下がるとギリアードが言うので採集を中止。用がすんだので契約を解除することをハーピーに伝えた途端、大泣きをされて今に至る。


 俺達がどんなになだめてもハーピーは泣き止もうとせず、時折カタコトの涙声で「嫌ダヨウ……。離レタクナイヨウ……」とか「捨テルナンテヒドイヨウ……」とか「一緒ニ連レテイッテヨウ……」とか言ってきて、言葉の刃が俺の心に深く突き刺さる……!


 俺か!? 俺が悪いのか!? ……うん。俺が悪いんだよな……。


 ここで平和に暮らしていたハーピーをこちらの勝手な都合で呼び出し、殴る蹴るの暴行を加えた後で強制労働を強いて、用ずみになったら捨てる……。


 ……冷静に考えたら俺って、とんでもない鬼畜なんじゃないだろうか?


「………」


「………」


 見ればギリアードが困った顔をしていて、ナターシャもさすがに気の毒そうな顔をしている。


 目線で「もうこのハーピー、仲間にしていいよね?」と二人にお伺いをたててみると、まずギリアードが苦笑をしながら頷き、次にナターシャが渋々と頷く。


「分かったよ。契約は解除しないからもう泣き止んでくれよハーピー……いや、違うな……ええと、ルピー?」


「……? ルピー?」


 俺の言葉にハーピー、いやルピーは一旦泣くのを止めてこちらを見上げる。


「そう、ルピー。それがお前の名前だ。仲間になったのに、いつまでも『ハーピー』って呼ぶのは変だろう?」


 何となく思い付いた名前なんだけど、どうやら気に入ってくれたらしく、ルピーはさっきまで泣いていたのが嘘のように大喜びする。


「仲間! ルピー、オ兄チャンノ仲間!」


「うわっ!?」


 ルピーは何を考えたのかいきなり飛び上がると俺の肩の上に座り、肩車の体勢でおおはしゃぎをする。ちょっ! ルピーのふとももの感触が……!


「………」


「えっ!? ナターシャ?」


 いつの間にかナターシャが俺の腹の辺りに腕を回して抱きついている。ナ、ナターシャ!? 胸が股間に当たっているんだけど、わざとやっているのか?


「………シャー……ッ!」


 ナターシャが相変わらずの無表情だが明らかに敵意のある目でルピーをガンつけして蛇の鳴き声を発する。うわっ! こんなナターシャ、始めてみた。


 バサッ!


 ルピーが両翼を広げて「ケンカならいつでも買うぞ?」的な目でナターシャを見下ろす。待て。何でお前ら初対面でそんなに仲が悪いんだよ? てゆーか、俺を巻き込んでケンカするな!


「はははっ。モテモテだね、ゴーマン? やっぱりキミは……」


 ギリアード! お前も笑ってないで助けてくれよ! あとお前、何か言ったか? よく聞こえなかったんだけど。


 結局。ナターシャとルピーは街に帰るまでの間、何度もケンカをしてその度に仲裁に入った俺は精神をかなり消耗した。今回の仕事の報酬はギリアードと山分けをして銀貨十三枚だったが、割りに合わない仕事だと俺が思ったのは仕方がないことだろう……。

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