第七十六話
俺達がエルフの隠れ里を目指して旅立ってから早いものですでに半月が経った。途中で魔物に襲われたり、ナターシャ達に押し倒されたり予想外の出来事があったが、それでも俺達は旅を続けてようやく目的地、エルフの隠れ里がある森にと辿り着いた。
「ここがエルフが住む森なんだね。なんて素晴らしいんだ」
森の中を歩いているとギリアードが感動した表情で辺りを見回しながら言う。それにしても本当に嬉しそうだな、コイツ。
「素晴らしいって、どこがだよ? 俺にはただの森にしか見えないぞ?」
「何を言っているんだい、ゴーマン? この森はエルフが暮らしている、言わば聖域なんだよ? 見てみなよ、木々は輝いて見えるし、空気だって他とは比べ物にならないくらい美味しいじゃないか」
俺が言うとギリアードは大きな身振りで反論する。その顔は憧れを前にした恋する乙女のようで、俺は思わずときめきそうになってしまった。
クソッ、やっぱりコイツ、生まれてくる性別を間違えているって。
『…………………………』
「ナターシャ、ルピー、ローラ、ステラ、テレサ。無言で睨むのは止めろ。怖いから」
背中に氷のような視線が突き刺さるのを感じて、俺は振り向かずに後ろにいる魔女達に言う。多分ナターシャ達は今、能面のような無表情で俺を睨んでいるのだろう。……怖いから絶対に振り向かないがな。
「あ、あの……それで師匠? 肝心の隠れ里がどこにあるか分かるんスか?」
「ああ、それなら大丈夫だ」
ナターシャ達のプレッシャーに冷や汗を流しながら言うダンに、俺はノーマンさんから預かった隠れ里を探す道具を懐から取り出す。
「何やそれ?」
「ただの棒ではないか?」
アランとルークが言うように俺が取り出したのは紐に繋がれた一本の小さな棒だった。なんでもこの棒は、隠れ里にある大樹の小枝から作ったものにエルフが魔術をかけたもので、紐を吊るすと棒が揺れて隠れ里の位置を教えてくれるらしいのだ。
「へえ、それは便利だね。ノーマンさんには感謝してもしたりないよ。それじゃあ早速行ってみようか?」
俺が棒の効果を説明するとギリアードはすぐに棒が示す方向を確認し、俺達は森の奥へと進むことにした。
☆
森の奥へと進みだしてから一時間が経った。ノーマンさんから預かった棒は森の中心部を示していて、中心部に近づいていくにつれて森の雰囲気が変わっていくのが分かった。
「なんか……森の雰囲気が変わった気がしないッスか?」
ダンを始めとする他のメンバーも雰囲気の変化に気づいたようだ。
「それだけやないで……見られとるで」
周囲から感じられる複数の視線に油断なく周りを見るアラン。最初は森の動物か何かだと思っていたが、中心部に近づくと視線の数が増えていくのが分かった。
「止まれ!」
どこからか人の声が飛んでくるのと同時に、木の陰から十数人の人影が現れる。
木の陰から現れたのは、二十代ごろの革鎧と弓矢で武装した十数人の男女で、弓を引き絞ってこちらに狙いを定めていた。彼らは全員、非常に整った容姿をしており、先が尖った長い耳が特徴的だった。
「……エルフ」
「貴様らは一体何者だ!? どうやって私達の隠れ里の位置を知った?」
恐らくは集団のリーダーである女性のエルフが俺達に警戒心に満ちた目を向けてくる。
「武器をその場に置いて大人しく投降しろ。さもなくばここで殺す」
「そう、無駄な抵抗はしない方がいいよ?」
エルフの女性の言葉に続いて、若い男の声が俺達に投降を促す…………って!
『何でお前がそっちにいる!?』
俺達はいつの間にエルフ達に混ざり、こちらに魔術の狙いを定めているギリアードに向かって同時に叫んだ。




