第七十五話
そういえばダンの奴、一緒にここに来たはずなのに更衣室にはいなかったな。どこに行ったんだ?
「お前達、ダンがどこに行ったか知らないか?」
「ダンですか? ダンだったら今頃、アルナのお説教を受けているはずですよ。……肉体言語の」
俺が聞くと浴槽に入って隣に座ってきたナターシャが答えてくれた。こんなところでもアルナにボコられるなんてアイツ何をやっているんだ?
「ダンの奴、今日は何をしたんだ?」
「ダン? ダンはアルナに『アルナも一緒に男湯入るッス! アルナは人間の女性じゃなくて魔物の雌だから問題ないッス!』って言って、それでアルナに連れて行かれたよ」
ダンの声真似までして答えてくれるルピー。
……ダンよ。お前の下心ある一言が無自覚な悪意となって神聖なる男の聖地の一つ、男湯を破壊したのだ。その罪、万死に値する。
というわけでアルナ、今日という今日は徹底的にダンを説教してやれ。その鍛えに鍛えぬいた肉体言語で!
「……本当にアイツはろくなことを言わないな」
「いいではないですかご主人様。そのお陰で私達、同じ湯船に浸かっていられるのですから」
ローラに言われて回りを見てみると五人の魔女達はすでに浴槽に入って俺の近くに座っていた。……改めて考えるまでもなく凄い光景だよな、コレ?
「はふぅ~。ちょっと~熱すぎませんか~?」
「ステラ、顔が真っ赤よ。大丈夫?」
湯船に浸かってすぐに顔を赤くするステラをテレサが解放する。いや、のぼせるの早すぎるだろ?
「えへへっ。ルピー達みたいな美人に囲まれて嬉しいでしょ、お兄ちゃん?」
ルピーよ、確かにそうだけど自分で言うな。というかな……。
「といっても、お前達普段から裸みたいな格好だし、本当の裸だって見慣れているからな。今更なぁ……」
ビシッ!
突然場の空気が固まり、魔女達の表情が仮面のような無表情と変わる。
「ん? 一体どうしたんだ?」
「ふ、ふふふ……。そうですか……ゴーマン様はわたくし達の体に『飽きた』と言うのですね……」
ザバァ……。
魔女達が湯船から立ち上がって俺を見下ろしてくる。……蛇のような目で笑うナターシャが本気で怖いです。
「申し訳ありませんゴーマン様。主人を飽きさせるなど奴隷にあるまじき失態。……その償いとしてゴーマン様にはどうかもう一度わたくし達の体を味わっていただきたく思いま……すっ!」
ガシッ! ガシッ! ガシッ! ガシッ! ガシッ!
「なっ!? ちょっ!? お前ら!?」
ナターシャ達の手が一斉に俺の体を掴み、強引に湯船から引きずり出す。……この後、俺が何処に連行されて何をされたのかは、いつものことなので省略させてもらう。
後で知ったことなのだが、雄をその体で虜にする魔女にとって「飽きた」等の言葉は本能レベルでの禁句であるらしい。
それと今日魔女達に搾り取られた回数は過去最高だったと言っておく。何しろテレサまでもがあの馬鹿辛い魔力ポーションを飲んで回復魔術をかけてきたのだから。
☆
「……それで二人共そんなにボロボロになったわけ?」
次の日。旅の道の途中で昨日の出来事を知ったギリアードが呆れた顔で言う。
「ああ……」
「おッス……」
真っ白になった俺はナターシャに、顔が原型がなくなるくらい腫れ上がったダンはアルナに肩を貸してもらいながら答える。
「まったく……」
「この似た者師弟は……」
アランとルークがギリアードと同じ呆れた顔で言うが何も言い返せない。
命が惜しければ魔女とのコミュニケーションは、例えたわいのない会話でも慎重にならなければならないと実感した出来事だった。
六月二十五日に「転生先の宇宙でパイロット兼艦長になりました。」というタイトルのSFジャンルの小説を書き始めました。
この小説の主人公はダンの地球での友人という設定です。興味がある人は是非見ていってください。




