第六十九話
ローラの背中に乗って家に帰ったその日の夜。夕食をすませた俺は、食堂に集まっている仲間達にルイ店長の武器屋での出来事を話した。
「そんなことがあったんだ」
「見た人達はずいぶんと驚いたやろな」
「しかし、それで今日のローラは魔女の姿のままであるのか」
俺の話を聞いてギリアードとアランが苦笑し、ルークが納得がいったように頷く。ルークが言ったようにローラはよっぽど嬉しかったのか、家に帰ってもサントールの姿で甲冑を身に付けていた。
それにしても家に帰るまでは大変だったな。興味の視線はすぐに慣れたんだけど、ローラに乗っていると時々何人かの冒険者が嫉妬の表情を向けてきて、本当に怖かった。
特に今日、大通りで会ったあのマイケルとかいう衛兵なんかは「金を払うからローラに乗せてくれ」と、鼻血を流しながら言ってきたし……。まさかギリアード達以外にもあんな変態が王都にいたとは……この国って大丈夫なのか?
「それで師匠、ナターシャさんの階級上昇のことはどうしたんスか? ノーマンさんは階級上昇を出来る場所を知っていたッスか?」
ダンがノーマンさんの家でのことを聞いてくる。
「ああ、そうだ。その事で皆に話があるんだった。ノーマンさんから聞いた階級上昇が出来る場所なんだが、そこに行くとなると最低でも一月、長ければ二ヶ月も三ヶ月も王都を離れることになりそうなんだ」
「おおっ。本当にあったんッスね。魔物が階級上昇出来る場所」
「だが長ければ二ヶ月も三ヶ月も王都を離れることになるか」
「随分と長旅になるな」
「ゴーマン。一体その魔物が階級上昇出来る場所ってどこなんだい?」
俺の言葉にダン、ルーク、アラン、ギリアードが興味深げな視線を向けてくる。俺は一度言葉を切るとノーマンさんから聞いた場所を口にした。
「階級上昇が出来る場所……、それはここから北に半月ほど行った先にある森。その奥地にエルフの隠れ里があって、そこに住むエルフ達が魔物の階級上昇の儀式を司っているそうだ」
『エルフ!?』
ダン達四人が口を揃えて驚きの声を上げる。それはそうだろう。エルフは俺達と同じ「人間」に数えられている種族だが、彼らはこの数百年の間、他種族と交流を断って自分達の里に籠ってばかりで、世間に出るなんて極めて稀なのだ。
そんな排他的な性格を持つエルフ達である。当然彼らは里の場所を全力で隠蔽していて、人間も魔物もエルフの里の正確な位置を知っているものは誰もいないとされていた。それを教えてもらったと口にすればダン達が驚くのも無理はないだろう。
「ノーマンさんから聞いた話だと、そこのエルフ達はずっと昔、ある強力な魔物と交流を持っていたみたいなんだ。それでその時に魔物から階級上昇の儀式を教えてもらったらしくて、それ以来魔物と階級上昇を行う代わりに里を襲わない契約をしているんだとか」
ノーマンさんはこのエルフの隠れ里のことをセバスワンとミュンヒワンゼンから教えてもらったと言っていた。そしてセバスワンとミュンヒワンゼンが階級上昇出来るくらい強くなると、その隠れ里へむかったのだが……、
「でも隠れ里のエルフ達は当然というか人間への警戒心が凄かったらしくて、ノーマンさんもエルフ達の信用を得るために色々と苦労したみたいなんだ」
全てがと言うわけではないが、それでも大部分が人間と敵対している魔物と契約をしているなんて、人間達への裏切りだと言う者が出てもおかしくはないだろう。隠れ里のエルフ達もそれを分かっているから人間に対して警戒をしており、ノーマンさんも何度も話し合って仕事を手伝ったりしてようやく信用を得て、セバスワンとミュンヒワンゼンの階級上昇をしてもらったらしい。
「隠れ里の地図はノーマンさんから受け取っている。でも今回の旅はいつもより長くなるから……」
「そうだね。旅の準備は念入りにやらないとね。ゴーマン、早速明日旅の準備に取りかかろうか?」
俺の言葉にかぶせるように言ってきたのはやはりというか自他ともに認めるエルフマニアの魔術師ギリアードだった。
分かっていた。エルフの話をした時からこうなるのは分かっていたけど、やっぱり食らいついてきたな、コイツ……。
「なあ、ギリアード。念のために聞くけど、ついてくる気か?」
「ゴーマン、何を言っているんだい!? そんなつれないことを言うだなんて、いくらなんでも怒るよ? ボクとキミは一蓮托生。どこまでもついていくよ、親☆友」
俺の言葉にオーバーリアクションで答えるギリアード。
あと俺とギリアードの関係はいつの間にか「親友」まで階級上昇していたみたいだ。知らんかった。
運営からの警告を受けたので5月29日に四十八話の内容を改編しました。




