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第六十七話

「アラ、母上? イツ帰ッテキタノデスカ?」


 俺がリザードマン達への数秒間の黙祷を終えたちょうどその時、集落の方からナターシャがやって来た。


「ついさっきよ。久しぶりだけど元気そうね。……ふ~ん?」


 ナターシャの母親は軽い調子で答えると、ナターシャの頭から尻尾の先までじっくり見て意味ありげな笑みを浮かべる。……なんか嫌な予感。


「どうやらほんのちょっと見ないうちに随分と強くなって、それでいて随分と愛されたようね? ここにいるゴーマンさんに愛された回数は軽く百を超えているでしょう?」


 えっ!? 見ただけでそんなことまで分かるの? ラミア族の族長って、どれだけ凄い眼力を持っているんだよ?


「ハ、ハイ。ソノ通リデス……」


「やっぱり! ねえねえ、ゴーマンさんってどんな風に貴女を愛してくれたの?」


 興味津々といった様子でナターシャに俺との夜の生活内容を聞こうとするナターシャの母親。そんな二人の姿は親子というよりも年の離れた姉妹のように見える。


 ナターシャとナターシャの母親は小声で話していて詳しい会話の内容は分からなかったが、それでも時折「毎晩」とか「初めての時は八回」とか「平均一人五回」とかいう単語が聞こえてくるあたり、俺の恥ずかしい秘密は全て筒抜けなのだろう。


「あらあらまあまあ! 魔女を相手に十回以上も肌を重ねても生きてられるだなんて、凄い優秀な雄を見つけたじゃない! 昨日わたくしが肌を重ねたリザードマン達とは大違いね」


「……………」


 ナターシャの母親の大声に思わず空を見上げると、空には俺の代わりにナターシャの母親の餌食になったのだと思われるリザードマン達の顔が浮かんでいた。


 ……たぶん幻覚だろうけど。


「聞いてよ。昨日のリザードマン達なんか期待はずれもいいところだったんだから。三回か四回肌を重ねただけですぐに死んじゃうし、本当に数しか取り柄がなかったんだから。……あ~あ、貴女達がこんなに早く来るって分かっていたら、リザードマン達なんか娘達に任せてここに残っていたのに……」


 明らかにがっかりした表情のナターシャの母親の言葉を聞いて再び空を見上げる。するとやっぱり空にはリザードマン達の顔が浮かんでいたのだが、気のせいか彼らの瞳は泣いているように見えた。


 ……勿論幻覚だろうけど。


 というか女同士の下ネタ話のネタにされるのは、恥ずかしいというか汚されてる感がハンパないからそろそろ止めてくれないかな? ……男達の下世話な視線を受ける女性ってこんな気持ちなのか?


「……でも、そんなに素敵な雄に何度も愛してもらっていながら、いまだに子供を生んでいないというのはどういうことかしら?」


 空を見上げぼんやりと考えていると不意にナターシャの母親が真剣な表情となってナターシャに問い詰める。


「ソ、ソレハ……」


「わたくし達魔女は優秀な雄の子供を生むことこそが最高の使命であり喜び。それは分かっているわよね?」


「ハイ。分カッテイマス。……申シ訳アリマセン、母上」


「もっとしっかりしてもらわないと困るわ。貴女のことは次期族長と考えているのだから」


「えっ!? ナターシャって次期族長なんですか?」


 思わぬ発言に俺が声をあげるとナターシャの母親は当然といった顔で頷く。


「ええ、勿論。だって集落のラミアで『階級上昇』ができる域に達しているのはこの子だけなのだから」


 階級上昇。


 それはある一定の強さになった魔物がある場所で特別な儀式を行うことで更に上位の魔物になるということ。


 ノーマンさんから階級上昇の話を聞いたときは、セバスワンとミュンヒワンゼンがその域に達するまで何年もかかったと聞いていたのだが……。


「あの、ナターシャが階級上昇できるって本当なんですか?」


「あら? ごぞんじなかったの? この、貴方がナターシャと呼ぶ子はもう十分階級上昇ができる強さとなっているわ。あとそこにいるハーピーとサントールの子達も、もう少し強くなったら階級上昇ができそうね」


 ナターシャの母親がルピーとローラを見て発言する。マジか? ナターシャだけじゃなくてルピーやローラも階級上昇できるって?


「……ここまでわたくしの娘を大事に育ててくれたのだから何かお礼をしないといけないわよね?」


 そう言うとナターシャの母親はどこからか細長い何かを右手にとって俺達に見せた。


 それは動物の骨で作られた一本の槍だった。長さは俺の背丈と同じくらいで、両端には刃のように鋭い刺が生えており、こうして見ているだけで不思議な魔力が感じられる。


「それは?」


「これはその昔、ラミア族と交流を持っていたヒュドラの骨から作られた槍、『蛇骨槍・双頭の毒蛇』。代々ラミア族の族長に伝わる族長の証とも言える槍なの。これを……それ!」


 ボキン!


 ナターシャの母親は『蛇骨槍・双頭の毒蛇』を両手に持つと軽い掛け声と共に真ん中からへし折った……て、ええっ!? 何、いきなり折ってるの!? ラミア族の族長に代々伝わる族長の証じゃなかったの!?


「ちょっ!? 何をやっているんですか!?」


「慌てない、慌てない。気の短い男は嫌われるわよ? この槍は大丈夫よ。見てて?」


 そう言うとナターシャの母親は二つに折れた槍のうち右手に持っている方を掲げる。すると槍の折れた断面から刃のような刺が生え、柄の部分が伸びていき、あっという間に元の槍になった。


「槍が……元に戻った?」


「驚いた? この『蛇骨槍・双頭の毒蛇』はラミアの魔力を与えるといくらでも再生するのよ。更には使用者の意思である程度伸縮自在で刃先からは強力な毒が出せるスグレモノ! ……これを貴方に差し上げます。ゴーマンさん」


 ナターシャの母親が左手に持っていた折れた状態の「蛇骨槍・双頭の毒蛇」を差し出してきた。


「え? いや、俺がもらっても意味がないんじゃ? それよりもナターシャにあげた方が……」


「大丈夫。魔力とは即ち魂の力。ナターシャの魂の一部を持つ魔物使いの貴方ならきっと使えるわ」


「そう、ですか? それじゃあ……」


 物は試しとばかりに折れた槍を受け取って魔力を送ってみると、さっきナターシャの母親がやったように折れた槍が元通りになった。


「凄いな。俺にもでき……」



 でんでろでんでろでんでろでんでろで~ろ♪



 …………………………………………………はい?


 俺の手の中で槍が元に戻った瞬間、頭の中で聞き覚えのある不吉な音楽が聞こえた気がした。


「ああ、言い忘れていたけど、この槍ってば使い手の手に戻ってくる呪いがかかっているの。だから誰かに盗まれてる心配はないわよ」


 ナターシャの母親が言う呪い。それは確かに盗まれる心配がない、こちらにメリットがあるようなものに聞こえるが、何だか嫌な予感がする。


「それともう一つ。わたくし、その槍の魔力を感じ取れるから、貴方の危機には一族を引き連れて助けに行けるわ。うん。お礼はいらないわよ?

 …………………………いつの日かわたくしと娘達のお相手をしてくれたら、それだけでいいからね?」


 …………………………!?


 ナターシャの母親の言葉にかつてないほどの悪寒が走った。ちょっ、この槍ってマーキングかよ!?


 それでもラミア族に伝わる強力な武器を譲ってもらったことにはかわりなく、俺達は礼を言うとラミア族の集落を後にしたのだった。

【蛇骨槍・双頭の毒蛇】

レアリティ:☆☆☆☆☆☆☆☆★★

形状   :槍

「ヒュドラの骨から作られた槍。ラミア族の魔力を持つ者にしか使いこなせず、あるラミア族の集落では族長の証とされている。また四つの力を秘めている上級の武器でもある。

1:損傷部分再生

2:伸縮自在

3:高確率毒付与

4:自動帰還(呪い効果)」

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