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第六十四話

「ゴーマン様」


 ラミアの女性達の作業を見学していると後ろにいるナターシャが声をかけてきた。しかしその声は氷のように冷たい上、後頭部に突き刺さる視線は針のように鋭く感じられ、彼女が不機嫌であるのは用意に想像できた。


「……何だ? ナターシャ?」


「彼女達ニハオ気ヲツケクダサイ。彼女達ハ外見コソソレナリニ見映エノアル女デスガ、中身ハ血ニ餓エタ猛獣ト同ジ。言ワバ男限定ノ死神デス。ドウカ警戒ヲ怠ラナイデクダサイ」


 男限定の死神て……。


「……その意見には全面的に同意するが彼女達はお前の姉妹なんだろ? それをそんな風に言っていいのか?」


「ワタクシノ姉妹ダカラコソ危険ダト分カルノデス!」


 な、なんて説得力だ……!


 かつてこれほど説得力にみちあふれた叫びを俺は聞いたことがあっただろうか? いや、ない!


 見れば俺だけでなく、ルピーにローラ、ステラ、テレサも驚愕の表情でナターシャの顔を見ていた。


「いや、しかし……。それでも久し振りに会った姉妹をそう露骨に疑うのは……」


 ガシャアン!


『キャアアッ!?』


 何かが倒れる音と悲鳴が聞こえたのでそちらを見ると、地面に散乱した数本の木の棒と布、それに二人のラミアの姿があった。ラミア族の家は俺達人間のような木や石の家ではなく、地面にたてた柱に布を張ったテントのようなもので、あの二人のラミアは家を建てる作業中に誤って材料を落としてしまったのだろう。


「そこの二人、大丈夫か?」


「ゴ、ゴーマン様! 危険デス! 行ッテハイケマセン!」


 俺は立ち上がると二人のラミアに近づいていった。ラミア達はやはり姉妹というべきかナターシャとよく似た顔立ちで、見た目の年齢はナターシャよりも幼い感じだった。


「もしよかったら俺も家を建てるのを手伝おうか?」


「……エ?」


「デ、デモ、オ客様ニソンナコトヲシテモラワナクテモ……」


「そんなことは気にするな。二人でするよりも三人でやった方が早いだろ? だから……」


「ソコマデデス!」


 いつの間にかすぐそばに来ていたナターシャが、俺の言葉を遮ると二人のラミアを睨み付ける。


「貴女達! 下手ナ芝居ハソコマデニシテ、ゴーマン様ヲ開放シナサイ!」


『…………!』


「ナターシャ? 芝居ってどういうことだ?」


「ソノママノ意味デス。ゴーマン様ニ近ヅクタメニソノ様ナ事故ヲ装ッテモ、コノナターシャノ目ハ誤魔化セマセンヨ!」


 事故を装う? この二人の行動が俺に近づくための芝居だって?


「おい、ナターシャ。何を言っているんだ? いくらなんでも言っていいことと悪いことが……」


「デハ、ソノ足下ハ何デスカ?」


「足下? 足下に何が……え?」


 ナターシャに言われて足下を見てみると、二人のラミアの尻尾が俺の足に絡み付いていた。


「な、何だコレ!?」


「ダカラ言ッタノデス。アノママ油断シテイタラ、ソノフタリニ連レサラレテ襲ワレテイタノデスヨ?」


『ア、アハハ……』


 ナターシャの指摘に二人のラミアは、尻尾をほどくと愛想笑いを浮かべながら去っていった。……あ、危ないところだった。


「ゴーマン様、分カリマシタカ? コレニ懲リタラモウ油断ハシナイデクダサイ」


「……ああ、分かった。もう二度と油断はしない」


 ☆


 警戒心を通常時の三倍まで上げて見学に徹しているとラミア族の家を建てる作業は夕方に終わり、作業が終わると彼女達はそのまま宴を始めて俺達も宴に呼ばれることとなった。


 すでに日が沈み夜となったが集落の中央で焚かれた巨大な焚き火が周囲を照らし、数人のラミアの女性達がその焚き火の周りで躍りを踊る。ラミア達の踊りは人間の踊りとは全くの別物だが独特の魅力があり、焚き火の光を浴びながら踊るその姿は昼間よりも美しく見えた。


「凄いな。あんな見事な踊りは見たことがない。それにあんなに幼いラミアもちゃんと振り付けを踊っているなんて、よっぽど練習したんだろうな」


 焚き火の周りには大人の外見のラミアに混じって、十歳ぐらいの子供の外見のラミアも何人か踊っていた。


「アノ子達ハ生マレテ半年程ノラミアデスワネ。確カニアノ若サデアレダケ踊レルノハタイシタモノデスネ」


「ナターシャもそう思うか……って、え?」


 今ナターシャってば何て言った? 生まれて半年程? あの子供達が?


「ね、ねぇ、ナターシャさん。あの子供達が生まれて半年って本当なの?」


「エエ、本当デスヨ? アト半年モスレバアノ子達モ一人前ノラミアニナレルデショウネ」


 俺と同じ疑問を抱いたテレサの言葉にナターシャは何でもない顔で答える。


「……なあ、ナターシャ。それとルピー、ローラ、ステラ。お前達が今何歳か聞いてもいいか?」


「? ワタクシハ二歳ト半年デスガ?」


「ルピーハ一歳ト半年ダヨ」


「私ハ二歳デス」


「私は~生まれてから~一年と三ヶ月くらいです~」


『………………!?』


 今日初めて聞いたナターシャ達の年齢に俺とテレサは二人揃って絶句した。一番年上のナターシャでさえ二歳半だって!?


「ソンナニ驚クヨウナコトデハナイカト。ワタクシ達魔女ハ生マレテ一年程デ大人ニナリマスカラ」


「そうなのか?」


「ハイ。ワタクシ達魔女ハ雄ト肌ヲ重ネル時、精ト一緒ニ生命力ヲ吸イ取ルジャナイデスカ? ソノ時得タ生命力ヲ使ッテ生マレル子供ヲ強化シテイルノデス。ワタクシ達魔女ハ人間ヤ他種族ノ魔物カラ迫害サレテイマスカラ、絶滅シナイヨウニコウナッタト聞イテイマス」


「な、なるほど……」


 ナターシャの説明に俺は思わず納得して頷いた。それにしても……。


 魔女が雄を襲うから人間や他種族の魔物が迫害するのか、


 人間や他種族の魔物が迫害するから魔女が絶滅しないよう強い子孫を生むため雄を襲うのか、


 一体どっちが先なのだろう?

この回でナターシャ達と肌を重ねる度にゴーマン様の生命力が減る理由が説明できました。元々はナターシャ達を他の男に取られないようにするためのNTR防止用の設定だったのですが、思わぬところでネタにできてよかったです。

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