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第六十三話

「テレサ、サンダース、ありがとう。俺はもう大丈夫……ん?」


 ガサガサッ。


 テレサとサンダースの励ましのお陰で立ち直ると、背後の草むらから物音が聞こえてきた。獣か魔物でも出たのかと思い、用心のために槍を構えて後ろを振り返ると、草むらを掻き分けて一人の女性が姿を現した。


 草むらから現れた女性は、褐色の肌と銀色の髪が特徴的で顔立ちはどこかナターシャに似ていた……、というか彼女ってナターシャの妹か姉だよね? 下半身蛇だし?


「懐カシイ匂イガスルト思ッタラ、ヤッパリ貴女ダッタノ。久シブリ。元気ソウデ安心シタ」


「エエ。貴女ノ方モ元気ソウネ。久シブリ会エテ嬉シイワ」


 ラミアの女性とナターシャは言葉を交わすと軽く抱き合った。多分あれがラミア族の再会の挨拶なのだろう。


「ナターシャ。彼女は一体誰なんだ?」


「ハイ、ゴーマン様。彼女ハワタクシト同ジ時期ニ母上、族長ニ産ンデモラッタラミアナノデス。デスカラワタクシト彼女ハ姉妹……イエ、双子ミタイナ関係デスワ」


 同じ時期に産んでもらったって……ああ、そうか、ラミアって確か卵生だったっけ? ラミアの族長が一度に複数産んだ卵の中からナターシャと彼女が生まれたってところだろうな。


「……ナターシャ?」


「ゴーマン様ガツケテクダサッタワタクシノ名前デスワ。人間ガワタクシ達ノヨウニ匂イヤ魔力ヲ感ジルノデハナク、互イニツケラレタ名前ヲ呼ンデ相手ヲ確認スルノハ知ッテイルデショウ?」


「……ウン。知ッテイル」


 魔女っていうか魔物って、匂いや魔力で相手を特定するのか。名前をつけないって聞いたときは不便そうだなと思っていたのだが、やはり人間と魔物とでは色々と違うところがあるんだな。


 と、そんなことを考えているとラミアの女性が俺の方を見てきた。


「ソレデ……アノ人ガ貴女ノ主?」


「ソウデスワ。アノ方コソガワタクシノ主人、ゴーマン様デスワ」


「ヤッパリ……。ラミアダケジャナク、ハーピー、サントール、スキュラ、ソレニ人間ニヨク似タ匂イニ混ジッテ凄ク逞シイ雄ノ匂イガスル……」


「え? な、何だ?」


 ガッ!


 ラミアの女性は熱っぽそうな顔をしてこちらに近づいてきたと思ったら、手を伸ばして俺をつかもうとしたところでナターシャに止められた。


「……貴女、今何ヲシヨウトシマシタノ?」


「何、テ……今ノウチニチョット味……」


「イケマセン!」


 ラミアの女性の言葉をナターシャが怒鳴って遮る。というか今何て言おうとした? もしかして「味見」って言おうとしたのか?


「ゴーマン様ノオ体ハ、コノ第一奴隷ナターシャノモノデス! ドウシテモ確カメタイト言ウノナラ、ワタクシニ話ヲ通シテカラニシテクダサイ!」


「チョット! ドサクサニ紛レテ何ヲ言ッテイルノヨ!」


「ソウダ! ゴ主人様ハオ前ダケノモノジャナイゾ!」


「ナターシャ先輩~ズルいです~」


「ねぇ、その前にゴーマンの意思を聞くのが先じゃないの?」


 ナターシャの発言にルピー、ローラ、ステラ、テレサが抗議の声を上げるが、ナターシャとラミアの女性はそれを無視して話を続ける。


「デモ、私ダケジャナクテ皆モ彼ニ興味ヲ持ッテイル」


「皆?」


「ソウ、皆」


「それってどういう……うおっ!?」


『………』


 気がつけば俺達は何十人ものラミア達に囲まれていた。い、いつのまに……。


 ラミア達は全員ナターシャによく似た顔立ちをしていることからナターシャの姉妹なのだろう。……なんか少なくても五十人はいそうなんだけど。


「ドウヤラ全員集マッテキタミタイデスワネ? ソレデ母上ハ? 姿ガ見エナイノデスガ?」


「…………………………母上ハ先日発見シタ、リザードマンノ集落ヘ味……イヤ、偵察ニ行ッテイテ……。明日ニハ帰ッテクルト思ウ……」


「ソ、ソウデスノ……」


 うつむきながら答えるラミアの女性にナターシャも暗い顔になってうつむいた。……なるほど、ナターシャの時と同じパターンというわけか。


 ☆


 その後話を聞いてみると、ラミア達も俺達より少し先にここに来たばかりで、さっきまで集落を造る準備をしていたらしい。


 ラミア達が住む家を建てたり狩りに行く様子を、俺達は招待された客ということで木陰に座りながら見物していた。


「………………………………………………それにしても凄い光景だな」


 木陰から見学していた俺は、今から数ヵ月前に契約の儀式でナターシャを呼び出した時のことを思い出した。


 あの時のナターシャは衣服を着ていない全裸の状態で現れて驚いたな。…………そう、今目の前にいるラミア達のように。


 ラミア達は服を着ておらず、身につけているのはせいぜい動物の骨や石で作ったアクセサリーぐらいのものだった。


 それにラミア達は下半身は蛇だが上半身はナターシャ似の美女ばかりな上、作業中の動きや会話をしている時の表情の全てが非常に色っぽい。何でもない仕種の一つ一つに男を惑わせる要素が含まれているのは流石魔女といったところか。


 もし「ラミアが好きだ」とか「下半身が蛇でも上半身が美女ならそれでいい」とか言う男がいれば、そいつは死を恐れることなくここにくるだろうな。


『…………………………』


 そんなラミア達を警戒、あるいは威嚇するようにナターシャ、ルピー、ローラ、ステラ、テレサの五人は俺の体にしがみつきながら周囲を睨み付けていた。


 ラミア達は先程からずっと俺に意味ありげな視線を向けてきており、ナターシャ達が警戒するのは分かるのだが……冷静に考えると今の俺の姿って物凄くないか?


 全裸のラミア達の集団の中心で五人の美女を侍らせる唯一の男。


 こんな姿を王都の冒険者達に見られたら、まず間違いなく命を狙われるだろう。ただでさえ最近、外を歩いてると、たまに目を血走らせた冒険者が俺の後をつけてきているのに……。

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