第六十話
ゴーレム(魔動人形)。
魔術の力を宿す特殊なカラクリを内蔵したひとりでに動く人形の総称だ。
主人である人間に絶対服従で、主人の命令であれば身の回りの世話から魔物との戦闘までどんな命令でも忠実に実行する人形の従者。そんなものがあるというのは噂で聞いていたが……それがこの椅子に座っているマリアだって?
「彼女がゴーレム? 初めて見たぞ」
「すごいですね~。それで~ゴーレムって~何ですか~?」
「体内から感じられるこの魔力……。確かに彼女、マリアさんはゴーレムのようですね」
俺の隣でよく分かっていないステラが首を傾げ、テレサが真面目な顔でマリアを見ながら言う。
「テレサ? お前、ゴーレムを見たことがあるのか?」
「はい。生前に一度だけお父様が造ったゴーレムを見せてもらったことがあります。マリアさんから感じられる魔力は、あの時ゴーレムから感じた独特な魔力によく似ています」
生前は宮廷魔術師の一人娘で今は魔力の扱いに長けた魔女であるテレサが言うのだったら、まず間違いはないだろう。……しかし俺が聞いた噂が全て本当だったらゴーレムを造るのって、とんでもなく難しくなかったか?
物質に魔術の力を宿してマジックアイテムとするのは非常に高度な技術で、それができるのは全て一流の魔術師とされている。その上マジックアイテムをカラクリに利用して複雑な命令をこなすゴーレムを造り上げることができるのは一流の更に上、「超一流」とされる一部の魔術師だけという話だ。
「……なあ、ミストン? マリアはお前が一人で造ったのか?」
「当然である! マリアの基礎設計から素材の厳選まで全てこのミストンが一人で行ったのである! 長年失敗を積み重ねながらもそれにもめげずコツコツと研究と開発を繰り返し、ようやくここまできたのである!」
俺の質問に誇るように胸を張って答えるミストン。確かに未完成とはいえゴーレムをここまで造り上げたのならばそれは誇ってもいいのだろう。
「それにしても本当に綺麗ですね。私がお父様に見せてもらったゴーレムは、私の二倍くらいの背丈の不格好な鉄の人形でしたけど、このマリアさんはまるで本物の人間のよう……。ミストンさんが愛情を込めて造り上げたのが分かります」
「うむ、そうなのである! なにしろマリアは小生の未来の花嫁であるからな! 小生の血と汗と涙と愛情と心血の全てを注ぎ込んであるのである!」
テレサの言葉に再び胸を張って答えるミストンだが……今コイツ、何か変なことを言わなかったか?
「……おい、ミストン?」
「ぬ? 何であるか、ゴーマン?」
「今お前、マリアのことを『未来の花嫁』とか言わなかったか?」
「そうであるが?」
「………………製作者のお前なら当然分かっていると思うが、マリアはゴーレムなんだぞ?」
嫌な予感を覚えつつ問題点を指摘するとミストンは小さく笑ってから口を開いた。
「ふっ……。ゴーマンよ、お前ほどの男が何をそんな小さなことを気にしているのであるか? そんなことでは魔女達のハーレムの王、魔王の名が声を上げて号泣するであるぞ?
……よいであるか? いい機会だから言っておくであるが小生は生身の女などに毛ほどの興味もないのである。小生が愛するのは永遠に若く、永遠に美しいゴーレムの女性! すなわち! そこにいるマリアこそが小生がこの世で唯一愛する花嫁なのである!」
目をヤバイくらいに輝かせて高らかに叫ぶミストン。こ、この目の輝きは間違いなくウチに居候している変態達(ギリアード、アラン、ルーク、ダン)が時おり見せる輝きと同じ……!
「つ、つまりお前は自分の理想の女性を花嫁にするためだけにマリアを造ったというのか?」
「うむ! その通りである」
即答だった。
そういえばここに来る前にミストンが見せたあの子供のようなあの表情、今思い出したがあれはダンが知り合った冒険者にアルナを紹介した時のものと全く同じものだった。つまりはこのミストンも、ダン達と同じ変態だったということだ。
エルフ好きの魔術師、十二歳までの少年少女好きの斥候、ドワーフ好きの神官戦士、獣耳好きの魔物使い、そして人形好きの道具屋。
……何で俺の周りにはこんなのしかいないんだと真剣に考えたくなってきた。




