第五十九話
「はぁ……。もういいから本当に頼んだぞ? ポーションの味の改善」
あの馬鹿苦いポーションの飲み過ぎで味覚が変にならないか真剣に怖いんだよ。なんだか最近、苦い味の食べ物が妙に美味く感じたりするしさ……。
「任せるのである。他ならぬ店一番の金づる、ゴーマンの頼みであるからな。本来の研究の合間にやっておくのである」
とうとう金づるって言い切りやがったな、コイツ。まあ、それは別にいいんだけど……。
「合間って……本腰を入れて研究してくれよ。というか、本来の研究って何だよ?」
「…………ふむ、そうであるな。ゴーマン達であるのなら見せてもいいのである。小生の、人生を懸けた研究を」
「人生を懸けた研究?」
「うむ! そうである!」
俺が聞くとミストンは自慢の玩具を友人に見せびらかす子供のような表情を浮かべて力強く頷いた。何だろう? コイツのこの表情、どこかで見た気がするんだけど?
☆
「ここである」
ミストンに案内されて俺達は店の地下にある部屋に足を踏み入れた。部屋の中は何かが書かれた書類や使い方が分からない道具が床に散乱していて足の踏み場もなく、部屋の中央に目を向けるとそこには……、
まるで海のように艶のある青い髪を伸ばした十四、五歳くらいの少女が一糸纏わぬ姿で椅子に座ったまま眠っていた。
「どうであるかゴーマン? 彼女こそが小生の……」
「オラァ!」
ドゴォ!
青い髪の少女の姿を見た次の瞬間、俺は考えるよりも先に渾身の右拳をミストンの顔面に叩き込んだ!
「あべしっ!? …………な、ゴーマン!? 突然何をするのであるか?」
「黙れ! 『何をする』はこちらの台詞だ! ミストン貴様、こんな女の子を全裸で自宅監禁だなんて何を考えていやがる!?」
チックショウ、裏切られた! ミストンがおかしいのは言動と作るポーションの味だけだと思っていたのに、まさかこんな犯罪を犯す変態だったとは!
こんなド外道、ギリアードやアランやルークやダンだってしないぞ! ……かろうじてだけどな!
「女の子? 自宅監禁? ま、待つのであるゴーマン! それは誤解である!」
「下手な言い訳なんか聞きたくない! ステラ! テレサ! コイツを騎士団につきだすぞ!」
「はい~」
「分かりました!」
「だ、だから違うのである! 彼女……マリアは小生が造った創造物なのである!」
迫ってくるステラとテレサの顔を見てミストンが叫ぶがこの女の子が創造物だって? それじゃあまるで……。
「この女の子が人間じゃないみたいな言い方だな?」
「そうなのである! マリアはまだ未完成で魂を持っておらず、人形と同じなのである!」
「何を馬鹿な……。そんなことがあるわけが……」
俺はそう言うとミストンがマリアと呼んだ青い髪の女の子の顔を見た。……どこからどう見ても人間の女の子なのだが、よく見るとその顔は完璧に整いすぎている上に生気が感じられなかった。まさか本当に……?
「マリアだったか? 彼女は人形なのか?」
「だからそうだとさっきから言っているのである。ようやく信じてくれたであるか?」
「あ、ああ……。すまなかったな」
「ごめんなさい~」
「疑ってすみませんでした」
俺が謝ると続いてステラとテレサも頭を下げて謝る。それにしても危なかった。危うく早とちりでミストンの間接を全てはずして攻撃魔術で黒焦げにした上で騎士団につきだすところだった……。
「分かってくれたならそれでいいのである。さて、それでは改めてマリアの紹介をするであるぞ」
俺達の誤解がとけるとミストンは嬉しそうに頷いた後、青い髪の女の子……の人形、マリアの横に立った。
どうでもいいけどミストンよ、そのマリアに服を着せたらどうだ? 目のやり場に困るし、はたから見ているとかなりヤバイ絵だぞ。
「彼女の名前はマリア。小生の持てる技術の全てを費やして絶賛開発中のゴーレム(魔動人形)である!」
「ご、ゴーレムだって?」




