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第五十七話

「どうだ驚いたか? 回復魔術を習得して新しく生まれ変わったこの俺に」


 驚いた顔をする仲間達にステータスを見せびらかして自慢げに話す俺。外から見たら色々どうかと思うだろうが今日ばかりは許してほしい。


 ……本当に、思えば長い道のりだった。


 俺は最初、「回復魔術ならギリアードとルークも使えるから彼らに習えばいい」と思っていたのだが、詳しい話を聞いてみればギリアードの擬体系回復魔術は体の傷しか治せず、ルークの神聖魔術は大地母神イアスの信者となって長年修行をしなければ習得出来ないと言われた。その時感じた奈落に落ちるかのような絶望は今でも忘れられない……。


 仕方なく回復魔術の習得を諦めた俺は、今日までナターシャ達に搾り取られる度に銀貨一枚もするくそ不味いポーションを何十本も飲んでなんとか命を繋いできたが、そんな辛い日々とももうお別れだっ!


「今の魔力量だとまだポーションに頼らないといけないが、それでも以前よりポーションを飲む量は減るはずだ。あと仕事の報酬の大半をポーション代につぎ込まなくてもいいし……くぅっ!」


「あの、師匠? 前から気になっていたんスけど、師匠って一ヶ月にどれくらいポーションを使っているんスか?」


 嬉しさのあまり目尻に浮かんできた涙をこらえていると横からダンの質問が飛んできた。


 一ヶ月にどれくらいポーションを使っているのか、か……。


「そうだな……。体力を全快にするのにポーションを五本飲むから、ナターシャ達と肌を重ねたら最低でも十本はポーションを飲むな。だから一日おきに休憩日を挟んだとしても……一ヶ月に合計で百五十本以上はポーションを飲んでるな」


「……自分で聞いといてなんスけど、一ヶ月にポーション百五十本以上って凄い数ッスね」


「というよりナターシャ達と肌を重ねたら最低二回は死ぬ寸前まで搾り取られるんだね……」


「そのポーション代を少しでも抑えることができとったら、今頃一財産築けとったんやないか?」


「一日に十本もあのポーションを飲むとは……。ゴーマンよ、それは新手の苦行なのであるか?」


 俺が答えるとダン、ギリアード、アラン、ルークが驚愕と同情と畏敬が混じった視線を向けてきた。その視線は静かにこう語っている。


『よく今まで生きてこれたよな』と……。


 自分でもそう思う。普通だったらナターシャ達に吸い殺されるか、ポーション代で破産しているか、ポーションのあまりの不味さに発狂していると思う。本当に今まで生きてこれたのが奇跡だよな、俺……。


 ☆


「テレサのお陰で回復魔術を覚えることが出来たよ。本当におりがとうな」


「い、いえ……。そんなお礼を言われることはしていませんから」


 その日の夜。今日まで教師役を引き受けてくれたテレサを自室に呼んで礼を言うと、彼女は照れた表情となって声を嬉しそうに弾ませて答えてくれた。


「そ、それで今夜なんですけど……お願い、できますか?」


 顔を耳まで真っ赤にして聞いてくるテレサは人化の指輪の力で実体化していて、服は肌が透けて見えるネグリジェを着ていた。彼女の言う「お願い」が一体何なのかは……皆さんのご想像にお任せします。


「俺は別に構わないが……お前はそれでいいのか?」


「も、もちろんです! わ、私はあなたの僕となった魔女ですけど妻でもあります。だから、だからあなたと一緒に初夜を迎えるのに何の問題もありません! ……でも」


 そこまで言ったところでテレサは俺の後ろにいるナターシャ、ルピー、ローラ、ステラの四人に視線を向ける。この五日間ずっとテレサと回復魔術の訓練をしていたせいか、嫉妬心と性欲が溜まりに溜まった四人からはなんと言うかこう、禍々しい気配が背中から感じられて……ぶっちゃけ怖いです。


「そ、その……。は、初めてですから、今夜だけ二人っきりにさせてもらえないでしょうか……?」


「あ~、ゴメン。それ無理」


 ナターシャ達に向けられたテレサの言葉に彼女達に代わって即答する。


 いやね? 実は以前にも一対一で彼女達の相手をしようと考えたことがあったんですよ? 一人ずつ相手をしたら毎晩連戦になるけどポーションを飲まなくてもすむかな、と思って。


 でもね? 実際に一人だけを相手にすると、その日相手にされなかった魔女達の燃え上がりかたがハンパなくて、結局いつもの三倍くらい搾り取られる結果に終わったんですよ。……あれは死ぬかと思った。


 だからテレサには悪いけど彼女の要求は却下させてもらう。いくら回復魔術を習得したとはいえナターシャ達の性欲を刺激するのは全力で避けたいからな。


「うう……。わ、分かりました。で、でも! 今夜の最初は私ですからね! …………あ、あと、優しくしてくださいね?」


「ああ、分かっている」


 俺はそう答えるとテレサとナターシャ達と一緒に同じベットの中に入っていった。


 ☆


「………………………………………………………………」


 次の日。俺は昨日の大部屋で静かに椅子に座っていた。


 今の俺には指一本動かす気力もなく、今朝鏡を見たらどことなく全身の色が薄くなっていた気がした。正直、どうやって自室からこの大部屋にきたのかすら記憶になかった。


「ご、ゴーマン? いつも以上に疲れてる気がするんだけど、一体どうしたんだい? 回復魔術を習得したからもう大丈夫じゃなかったのかい?」


 大部屋には仲間達が全員集まっていて、その中を代表して話しかけてきたギリアードに俺は答える代わりにステータスを呼び出して渡した。



【名前】 ゴーマン・バレム

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【戦種】 魔物使い

【才能】 26/29

【生命】 90/1090

【魔力】 10/260

【筋力】 124

【敏捷】 124

【器用】 118

【精神】 118

【幸運】 118

【装備】 高品質な鋼の短槍、バトルナイフ、冒険者の服(白)、旅人のマフラー(紫)、契約の首飾り、呪われた低品質な指輪

【技能】 才能限界上昇、自己流習得、魔女難の相、蛇魔女の主、鳥魔女の主、馬魔女の主、蛸魔女の主、告死霊女の主、蛇魔女流体術、馬魔女流剣術、馬魔女流槍術、馬魔女流弓術、鳥魔女の眼、麻痺の魔眼、弓矢系疾風魔術(1)、弓矢系雷撃魔術(2)、発光系回復魔術(1)、周囲警戒、隠密行動、奇襲攻撃、完全模倣(技)



『うわぁ……』


 俺のステータスを見てギリアード、アラン、ルーク、ダンが同時に声を漏らす。


 甘く見ていた。昨夜まで禁欲生活を送っていたテレサの乱れっぷりを。そして五日間構ってやらなかったナターシャ達の欲情の高まりを。


 昨夜の彼女達の前では回復魔術なんて焼け石に水にしかならなかった。むしろ魔力まで搾り取られたせいでいつもの二倍くらい疲労を感じる。


「ううむ。これは流石に惨いな。……ゴーマンよ、試しにこれを飲んでみるか?」


 ルークが懐から小さな小瓶を取り出して俺に渡す。視線で「何だこれは?」と問いかけるとルークは一つ頷いて答えた。


「魔力を回復させるポーションである。一瓶飲めばだいたい五割ほど魔力を回復できる」


「………………!?」


 魔力を五割回復できるポーションだと!? そんな夢のようなアイテムがあったとは! そしてそれをくれるとは! 感謝するぞ、ルーク!


 俺は弾かれたように瓶の蓋を外し、一気に中のポーションを飲んだ。その瞬間……、


「ごぶはぁっ!?」


 口の中に走った衝撃に思わず椅子から転げ落ち、床に倒れてしまった。


 な、何だこのポーション!? 辛い! 今まで飲んできたポーションが殺人的なまでに苦いとすると、こっちのポーションは殺人的なまでに辛いぞ!?


「ル、るーぐ……! ぎざば、なにぼ、のばべだ……!(貴様、何を飲ませた……!)」


「やはりそうなったか……。このポーション、魔力を五割回復してくれるのはいいが、酷く辛くてとても飲めるものではないのだ。ちなみに値段は銀貨三枚である」


 目をつぶって俺の視線を無視しながら淡々と説明するルーク。分かっていたなら、飲ませるなよ! あと銀貨三枚だと!? 払わん! 俺は払わないからな!



 こうして俺は回復魔術を習得したのだが、それと同時にナターシャ達魔女から搾り取られる勢いは更に増し、ポーションも「苦い」だけではなく「辛い」という味のバリエーションを増やしたのだった。


 ……いっそ殺せ。

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