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第五十五話

「な、何だ今の音は?」


「ゴーマン様。どうかしましたか?」


「い、いや。この指輪をはめた途端、不吉な音楽が聞こえてきて……え? あれ?」


 グイッ!


 ゆ、指輪が指から抜けない! それに……、


 でんでろでんでろでんでろでんでろで~ろ♪


 指輪を外そうとすると脳内にさっきの不吉な音楽が流れてきた。なんだよこの音楽は?


「一体っ! どうなってるんだっ! 何で外れないっ!」


 でんでろでんでろでんでろでんでろで~ろ♪


 でんでろでんでろでんでろでんでろで~ろ♪


 でんでろでんでろでんでろでんでろで~ろ♪


 何回試してみても指輪は人差し指の肌と一緒になったかのようにびくともせず、脳内に不吉な音楽が流れるばかりだった。ええい! やかましい!


「ゴーマン様。もしかしてこの指輪、何らかの魔力を持った呪いのアイテムなのでは?」


「そんな馬鹿な。これって露店商で買った安物の指輪で、さっきまでお前が身につけていたんだぞ?」


 指輪に何かが起こった様子はなかったし、もし最初から呪いのアイテムだったら流石に気づくぞ?


 バァン!


 ナターシャと一緒にどうやって指輪を外すか考えていると、教会のドアが乱暴に開け放たれた。ああ、もう! 今度は何だよ!?


「お兄ちゃん!」


「ご主人様!」


「旦那様~」


 転がり込むように教会に入って来たのはルピー、ローラ、ステラの三人だった。コイツら、何でここにいるんだ? というか三人とも何だか服がボロボロに汚れていないか?


「お前達、どうしたんだ? 今日は宿屋で留守番をしていたんじゃなかったのか?」


「……どうせわたくしとゴーマン様のデートが気になって後をつけていたけど、途中で見失って今まで探し回っていた、というところでしょうね。……まったく、ゴーマン様の御命令を背くとは奴隷失格ですね」


『………………!』


 ナターシャの言葉に体をあからさまに強張らせるルピー達三人。なるほど、そういうことか……。


「そっ! そそそそ、そんなこと、ことは、ないよ? へ、へ、変な言いが、がかりは……」


「ルピー! どもりすぎだ。お前はこれ以上喋るな! というより……」


「その話し方~もしかして~ナターシャ先輩ですか~?」


 盛大にどもるルピーは別としてローラとステラはナターシャが元に戻ったことに気づいたようだな。


「ああ……。テレサは無事に成仏したよ。ナターシャ、今日一日ご苦労だったな」


「いえ、これくらい何でもありません。ゴーマンさ……ま……?」


『………………』


 言葉の途中で何かに気づいたナターシャが目を丸くして俺の後ろを見る。ルピー、ローラ、ステラの三人も驚いた顔で俺の後ろを見ている。一体なんだと後ろを振り返ってみるとそこには……、


『あ、あの~』


 成仏したと思っていたテレサの困った顔があった。


『私……成仏できたと思ったんですけど、成仏できませんでした。……どうしましょう?』


「どうしましょう、て言われてもな……」


 そんなの俺が聞きたいよ。


 ☆


「はっはっはっ! まさかこの様な結果になるとは! 流石はゴーマンと言うべきか。儂の予想の斜め上をいきよるわ!」


 今俺達はノーマンさんの自宅にお邪魔していた。そして今日のデートの結末を今回の仕事の依頼主であるノーマンさんに説明したら大笑いされてしまった。……そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。


「笑い事じゃありませんよ、ノーマンさん」


「はははっ。いや、悪い悪い。しかしこうして会うのも久しぶりじゃのう、テレサよ」


 そう言ってノーマンさんは椅子に座っている『実体』のテレサに笑いながら話しかける。


「あ、ハイ。お久し振りです、おじ様。でもまさかこんなことになるだなんて……」


 あの教会を出た後テレサに話を聞いてみると、俺とキスをした時彼女は視界が光で包まれて「これで自分は成仏するんだ」と思っていたのだが、気がつくと俺が買った指輪の“中”にいて、その指輪を何となくに指にはめた俺にとり憑いてしまったらしい。本人は全くの予想外だったと言っているが、俺だって予想外だったよ。


 あとテレサが実体化したのは人化の指輪の力のお陰だ。物は試しで人化の指輪を持たせて合言葉を唱えさせると幽霊から実体のある人間になっていて……もう何でもアリだな、人化の指輪。


「指輪を外す方法も分からないし、一体これからどうしたら……」


「別にそのままでもよいじゃろう?」


「「え?」」


 俺の呟きにノーマンさんが何でもないように言い、俺とテレサの声が綺麗に重なった。


「とり憑かれたと言ってもゴーマンの体には何の悪影響も出ておらぬし、テレサもゴーマンと一緒におればある程度自由に外を歩けるからのう。勿論本人同士がよければの話じゃが」


「あの、それでいいんですか? 今回の仕事はテレサを成仏させることだったんじゃ……?」


「別に構わんぞ? あの依頼は屋敷に閉じ込められていたテレサを解放するためのものじゃったからな。屋敷から解放された本人が今からでもこの世界を楽しみたいと願うのなら、儂はその願いを叶えたいと思う。

 それでゴーマンよ、お主はどうなのじゃ? このままテレサにとり憑かれていても平気か? ……もし、とり憑かれたままでいてくれてテレサを外の世界に連れていってくれるというのなら、ここで仕事は完了したということで屋敷の権利書を渡してもいいが?」


「……そうですね。俺は別に今のままでも構いませんよ」


 確かにとり憑かれていても特に害はないし、あるとしたら四六時中テレサに付きまとわれてプライバシーが無くなるぐらいだが……そんなのは今更だからな。


 それに俺もノーマンさんと同じで、テレサが外の世界に出て今からでも人(?)生を楽しみたいと思うなら協力したいと思う。


「ほう、そうか。それはありがたい。感謝するぞ、ゴーマンよ。それではテレサ? お主はどうじゃ? このままゴーマンにとり憑いていくか、それとも成仏する方法を探すか、どちらにするんじゃ?」


「わ、私は、ゴーマンさんさえ良かったら今のままで外の世界を見て回りたいです。外の世界は楽しいことだけじゃなくて怖いこともあると思いますけど、それでも私はもっと外のことを知りたいです。……それに」


 テレサはそこで一旦言葉を切ると、顔を少し赤くして俺の方を見てきた。


「……それに、私はもうゴーマンさんと結婚をしましたから」


「はいぃ!?」


 テレサの爆弾発言にこの場にいた全員が絶句する! 結婚って、もしかして教会でのアレのことか!?


「ちょ、ちょっと待てテレサ! 教会でのアレは……」


「貴方にとっては単なるごっこ遊びでも、私にとっては本当の結婚式だったんですよ? ……責任をとってくださいね『あなた』」


「うっ……」


 笑顔で言うテレサの言葉に気圧された俺はそれ以上何も言うことができなかった。


『……………………』


 満面の笑みを浮かべるテレサに対して、ナターシャ達は能面のような無表情で絶対零度の視線を俺に投げかける。さて、コイツらどうやって説得しよう?




 その後。テレサを仲間にした俺達はノーマンさんから屋敷の権利書を譲り受け、晴れて自分達の住居を手に入れたのだが、しばらくして「夜な夜な女性の悲鳴が聞こえてくる魔王の館」という噂を聞くことになる。


 ……泣きてぇ。

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