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第五十三話

「……ん?」


 何だか今、物凄い悪寒が走ったというか、殺気を感じたんだけど……気のせいか?


「どうかしましたか? ゴーマンさん?」


「いや、何でもない。……それにしてもよく食べたな」


 テーブルの上を見てみるとそこには十数枚もの空になった皿が積み重なっていた。念のために言っておくが、俺は今日この店に来てまだ一口も料理を口にしておらず、ここにある皿の塔は全てテレサ一人が食べた後である。


 最初は大量の料理が山のようにあったのだが、今ではパンの欠片すらない。テレサが食事を食べる様子は最初から見ていたが、ゆっくりと食べているようにしか見えなかったのに、この短時間であの量を完食したのは少し驚いた。


「あ……す、すみません。一人でこんなに食べてしまって……。あまりにもここの食事が美味しかったのでつい……」


「別にいいって。まともな味がする食事はこれが初めてなんだろ? だったら遠慮なんてするな。……ん?」


 顔を赤くして謝るテレサの右手を見ると、人差し指に露店商で買ってやった指輪がはまっていた。買ってすぐに身につけてくれるのは嬉しいが、その指輪って明らかにサイズが一回り大きいよな?


「その指輪、買った時は気づかなかったがサイズが大きくてブカブカだな」


「はい、そうですね。でもゴーマンさんが買ってくれたものですから私は気に入っています」


「……そ、そうか」


 いかん。指輪を指で触れながら本当に幸せそうに言うテレサ……がとり憑いたナターシャの笑顔に思わず見とれてしまった。中身は相変わらず別人だが、ナターシャってこんな風にも笑えたんだ……なっ!?


「……………!」


 ガタン!


「ど、どうしたのですかゴーマンさん? いきなり席を立ったりして」


「い、いや……。何でもない……か?」


 まるで頭に向けて手斧を投げつけられたかのような強い無数の殺気を周囲から感じた。店内には特に変わったところはないが、それでも耳をすませば怨念に満ちた幾千幾万の呪いの言葉が聞こえてきそうな気がする……!


 ……何だか嫌な予感がする。よく分からんが早いところ別の場所に移動した方が良さそうだな。


 そうと決めた俺は早速支払いを済ませるとテレサを連れて店から出ることにした。


「それじゃあ次はどこに行こうか? テレサは行きたいところとかあるか?」


「あ、はい。……実は一つだけ行きたいところがあって……え?」



『『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』』



 テレサが何かを言おうとした時、どこからか複数の怒号が聞こえてきた。


 ここからだと人が邪魔でよく分からないが、どうやら喧嘩のようだな。それもかなり激しい……って!? 大勢の通行人達が避難しようとこっちに押し寄せてきた!


「え? え? 何ですか?」


「テレサ、こっちだ! 早く!」


 俺は突然の出来事に動揺しているテレサの手を引き大通りを駆け出した。


 クソッ! こんな時に大騒ぎを起こすなんて一体どんな馬鹿だよ?


 ☆


「………」


 俺ことダンは今、戦場……もしくは地獄にいたッス。


 目の前にはジャックくんを初めとするさっきまで俺と一緒に師匠を監視していた冒険者達がボッコボコになって倒れている姿が。そしてジャックくん達の屍の山(死んでいないッスけど)の上には、魔女の姿に戻ったルピーちゃん、ローラさん、ステラちゃんの三人が立っているッス。


 一体どうしてこんなことになったかというと一人の冒険者が師匠の悪口を言ったのが原因ッス。師匠の悪口が怒りの導火線となって、それを聞いたルピーちゃん達の溜まりにたまった苛立ちが爆発。その後で起こったのは、喧嘩というよりルピーちゃん達による一方的な虐殺ッス。


 いやもうあれは本当に凄かったッス。まるで嵐のような暴れっぷりで、ジャックくん達をボッコボコにしているルピーちゃん達を見ていたら「魔女無双」とかいう意味不明な言葉が頭に浮かんできたッス。


『………………』


 ルピーちゃん達は今、散々暴れたお陰で大分落ち着いたみたいッスけど、それでもまだどす黒い不機嫌オーラを体に纏わせているッス。そのあまりの迫力にアルナなんか立ったまま気絶していたッス。


「……ダン」


「お、オッス! なんスか? ローラさん?」


「イツノ間ニカゴ主人様ガアノ悪霊ト一緒ニイナクナッテシマッタ。私達ハスグニゴ主人様ヲ探シニイクガ、ダンハコノ塵ノ後始末ヲシテカラ来テクレ」


 悪霊ってテレサさんのことッスか?


 塵ってジャックくん達のことッスか?


 一瞬ツッコミが口から出かかったッスけど慌てて口を閉ざすッス。余計なことを言って三人の怒りをかうのは全力で避けたいッス。俺はまだ死にたくないッス!


「オッス! 後始末、任せて下さいッス!」


「頼ンダ」


 ローラさんはそれだけ言うと、人間の姿となってルピーちゃんとステラちゃんと一緒に師匠を探しに行って、三人の姿が見えなくなると俺は大きく息を吐いたッス。


「はぁ~。こ、殺されるかと思ったッス」


 何回かとばっちりを受けて死にそうな場面があったッスけど何とか生き残れたッス。これも全てジャックくん達が俺の代わりにルピーちゃん達の怒りを引き受けてくれたお蔭ッス。


「……ジャックくん。それに皆、皆のことは忘れないッスよ」


 ビシッ!


 俺はお空に召されたジャックくん達に向けて今までの人生で最高の敬礼を決めたッス。

今までと違う雰囲気を書こうと思ったのに、何回も書き直したあげく、結局いつもの馬鹿展開に……。慣れないことはするものじゃないと痛感しました。

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