第四十八話
「……ん? 今、悲鳴が聞こえなかったか?」
何か、中庭辺りから聞き覚えのある悲鳴と肉を高速で連打する音が聞こえた気がするんだけど……。
「い、いいえ……。わたくしには、何も聞こえません……でした、わ……」
俺の呟きにナターシャが途切れ途切れの声で答える。こちらの目を見ながら答える彼女の顔には、強い疲労と快楽の色が入り交じったなんとも言えない艶やかな笑みが浮かんでいた。
ナターシャはベッドの上で仰向けに寝ている俺の隣に一糸纏わぬ姿で横になっていて、その周りにはルピー、ローラ、ステラがナターシャと同じ一糸纏わぬ姿で横になって体を休めている。
ここまで言えばもう予想できると思うが、俺は今ナターシャ達と肌を重ねて「行為」を終えた直後だった。
……言っておくがこれはナターシャ達が先に望んだことだからな?
まったく、こんなところでも肌を重ねようとする魔女の本能に恐れればいいのか、それに応える俺自身のスケベ根性に呆れればいいのか分からないな。
相変わらず生命力を限界まで搾り取られたせいで体は凄く重たいし、喉も「行為」の最中で飲んだポーションのせいでまだ痛みが走っている。だけどナターシャ達のような美人達が幸せそうな表情でうっとりとした視線を向けてくれるのは雄として嬉しく思う…………って、ん?
『……ア、アルナ! も、もう止め……!』
ガガガガガッ……!
『ギャアアア!』
………………………………………。
「……なあ、お前達。やっぱり何か聞こえなかったか?」
「んー、何か聞こえた気がするけど……別にどうでもいいじゃない? それよりお兄ちゃん。ルピーと……あぁ!?」
体をすりよせてきたルピーを見ようとすると、ナターシャが両手で俺の顔をつかんで強引に自分の方に向けてキスをしてきて、視界全てがナターシャの顔に占領されて何も見えなくなる。
ナターシャは、というかラミア族は基本的に嫉妬深くて独占欲が強い性格をしている。普段は第一奴隷という立場(?)から他の魔女とも協調性を持っているが、本心では俺のことを独占したいと思っているらしく、今のような肌を重ねた直後だとその本心が表に出るみたいだ。
「………ん、んん! ゴーマン様!」
ナターシャは俺にキスをしながらも足を絡めて乳房と腰をこすり付けてくる。これがラミアの姿だったら彼女は蛇の下半身で俺の体を拘束して他の魔女が手出しできないようにしているだろう。肌から伝わってくる彼女の体の柔らかい感触が、痺れるような快感となって絶え間なく襲ってくる。
魔女の体は例えるならば最高級の火酒のようなものだと俺は思う。まあ、そんな高価な酒なんて飲んだこともないが。
魔女と肌を重ねると体が燃えるように熱くなって、五感の全てが彼女に染められていく錯覚を覚える。実際に俺の五感は今、ナターシャという火酒に完全に酔っぱらっていた。
視覚は激しく乱れる肢体に、
聴覚は苦しげだが艶のあるあえぎ声に、
嗅覚は汗の臭いが混じりながらも甘い体臭に、
味覚はキスの度に口に流れ込んでくる唾液の味に、
そして触覚は柔らかい肉の感触に酔っぱらっている。
ナターシャの、魔女の体から伝わってくるのは全てこれ以上ない快楽で、体力を吸われた時の虚脱感すらも心地好い疲労に感じられた。魔女と肌を重ねるのは命の危険があると分かっていても、これに抗える雄はいないだろう。……だけど、
「な、ナターシャ。ちょっ、息が……」
「ん! ん! んんー!」
ナターシャの舌が俺の口の中で暴れまわり、歯や舌をなめ回される度に肌を重ねるのとは別の快感を感じるのだが……い、息が、息ができない……!
「………………っ! くっ、苦し……!」
「んんんっ! んっ! ……あっ!?」
ぐいっ!
「ちょっとナターシャ! 何をやっているのよ!」
「ご主人様を殺すつもりか!?」
「ナターシャ先輩~今のは~激しすぎですよ~」
息ができなくて窒息しそうになった時、ルピー達が後ろからナターシャを強引に俺から引き剥がしてくれた。……ふぅ、助かった。
「……ん?」
『………』
ふと横を見るとなにやら見覚えのない女性が一人、すぐそばで顔を赤くしながら俺達を凝視していた。……誰?
「え~と、君誰?」
『ふぇっ!?』
体を起こして話しかけると見覚えのない女性は驚いた顔で俺を見上げてきた。……アレ? この女性って、体が白く光っていて半透明だぞ?
「……もしかして君って、この屋敷に出るっていう幽霊?」
『はぅあ!?』
この反応を見る限りどうやら当たりのようだな……。
運営からの警告があったので、5月29日に内容を改編しました。




