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第四十七話

 ギイィ……。


 屋敷の中は窓という窓を締め切っているせいか、昼間なのに酷く薄暗かった。


 目を凝らして辺りを観察すると、人が住まなくなってもう何年も経っているというのにそれほど荒れておらず、人の手によって手入れされているように見えた。ノーマンさんがセバスワンかミュンヒワンゼンに頼んで掃除でもさせていたのか?


「し、師匠……。何か嫌な雰囲気じゃないっスか?」


「何がだ? というか服を掴むな。動きづらいだろ」


 ダンが俺の服を掴んできたのでその手を払い除けると、今度は顔を青くして周囲をキョロキョロし始めた。一体なんだというんだ?


「師匠、ホント勘弁してくださいっス。俺、ガキの頃からこういうお化け屋敷とか大の苦手で……」


 バアン!


 突然、開けっ放しにしていた扉が音を立てて勢い良く閉まり、ダンの言葉を中断させる。


「うおおっ! 何スか!? 何スか!?」


「……ゴーマン様。この扉、何か強い力で押さえられているようで開きません」


 軽いパニック状態になったダンを無視して、ナターシャが扉の取っ手を何回か押したり引いたりした後で結論を出す。……もしかしてコレって例の幽霊の仕業か?


「と、扉が開かないってどういうことっスか?」


「落ち着け、ダン。……とりあえずこの屋敷の探索を始めるぞ」


『ハイ』


「は……はぃい!? 何言ってるんスか? 扉が開かないんスよ? 俺達閉じ込められたんスよ? まずはここから出る方法を探すのが先でしょう?」


 俺の言葉にナターシャ達魔女五人は頷いて賛成してくれたが、ダンだけは慌てた様子で叫ぶ。……うるっさいな。何を慌てているんだ? コイツ?


「だから落ち着けって、ダン。その扉が開かないんだったら、なおさら別の出口を探さないといけないだろ? それに最悪、壁をブチ破ったら外に出られるだろ」


 ここには俺だけじゃなくて二十回クラスの冒険者と同じ実力を持つ魔女が五人もいるんだぞ? その気になったら壁どころかこの屋敷だって破壊できるって。


「う……。それは確かにそうっスけど……」


「なら決まりだな。行くぞお前達」


 ダンも納得したところで俺は全員を引き連れて屋敷の探索を開始した。屋敷の奥へと行く時に背後から「なんなんスか、この脳筋パーティー」とかいうダンの呟きが聞こえてきたが気にしないことにした。


 ☆


 それからしばらく俺達は、屋敷の全体を見て回った。屋敷の中は、流石は貴族が暮らしていた屋敷というべきか今まで見たことがない豪華な造りで、部屋の数も二十以上あり中央には中庭まであった。


 しかし屋敷の全ての部屋を見て回っても肝心の幽霊は見つからなかった。……だというのに。


「何でお前はそんなに怖がっているんだよ? ダン?」


 どうしてここにいる俺の弟子(一応)はまだ幽霊と出会ってすらいないのに腰を抜かしているんだろう?


「だ、だって怖いんスもん!」


 黙れ。男が「もん」と言っても気持ちが悪いだけだ。


「怖いって何がだ? まだ幽霊も出てきていないだろ?」


「もう出てきてるじゃないっスか! 部屋に入る度に食器や家具が飛んできたり、壁から人の腕が出てきたり、どこからか騒音がしてきたり! これ絶対幽霊の仕業っスよ!」


「それがどうかしたか? 飛んできた食器や家具なんて全て叩き落したらそれで終わりだったし、腕なんて壁に槍を刺したらすぐに消えたし、騒音なんて少しうるさかっただけで何の危険もなかっただろ?」


「アンタ絶対頭おかしいッスよ!」


 俺が答えるとダンの奴が半泣きの形相で怒声を上げた。……何故だ?


「ねえ、師匠。もういいじゃないっスか。帰りましょうよ」


「そうはいってもまだ幽霊の姿すら見ていないしな……」


 幸いノーマンさんはこの仕事の期限を決めず「気長にやれ」って言ってくれたが、それでもできれば早いうちに終わらせたい。そのためには問題の幽霊がどんな奴なのか、せめて姿だけでも知りたいんだが……。


「……よし決めた。今日はここに泊まることにする」


「ええっ!?」


「……………………!」


 俺がそう決めるとダンがこの世の終わりのような表情で叫び、ナターシャ、ルピー、ローラ、ステラの四人が目を光らせて俺を見てきた。


 ……もしかして失敗したかな?


 ☆


 はーい。どーもーっス。魔物使い界期待の超新星、狩谷弾ことダンくんっス。


 今俺達は、リーダーである俺の師匠、ゴーマン・バレムの決定で王都にあるお化け屋敷に泊まっているっス。(涙声)


 いや本当に頭おかしいんじゃないっスかね、あの人? 俺がお化けが苦手だといったのにここに泊まるだなんて言い出して……あの人、人間じゃないッス! 鬼ッス! ドエスッス! 魔王ッス!


 まあ、それはともかく俺は今、師匠が泊まっている部屋へと足音を消してゆっくりと近づいている最中なんで、皆さんお静かにお願いするッス。


「……! ……!」


 パン! パン!


 ……うん、聞こえるッス。師匠がいる部屋に近づいていくごとに女の子の苦しげな声と何かがぶつかりあうような音がはっきりと聞こえてくるッス。そう、賢明な皆さんだったら分かると思うッスけど、あの人、こんなとこでもナターシャさん達とエッチぃことしているんスよ。


 本当に何考えているんスかね、あの人? 俺なんてまだ一度もアルナとベットインしていないというのに……! ちっくしょおッス! 何スか!? あの大胆さ、というか無神経さがハーレム王になる条件だとでもいうんスか!? 俺は……俺はあの人に勝ちたいッス!


 そんなことを考えながら俺は、抜き足差し足忍び足で師匠の部屋へと向かっているッス。……誤解のないように言っておくッスけど、これはノゾキじゃないッスよ? これはそう……見取り稽古ッス!


 俺はいずれケモノ娘な魔女を大勢仲間にしてハーレム王となる男……! そのためにはハーレムの魔女を満足させるテクニックを先達から盗み取る必要があるッス! だからこれはノゾキじゃな……ぐえっ!


 ぐい!


 師匠の部屋までもう少しというところで襟首を掴まれ振り返ると……そこには俺の頼もしい魔女であり愛すべきケモノ娘のアルナが立っていたッス。


「ダン様。一体何ヲシテイルノデスカ?」


 うわっ! アルナの俺を見る目がすっごく冷たいッス! これは間違いなく凄く怒っているッス!


「あ、アルナ……。これはそのノゾ……じゃなくて、そう! 夜の秘密特訓にいくところだったんスよ! ほら、俺ってまだまだ弱いじゃないッスか? だから夜に秘密の特訓でもしようかなと思って……」


「特訓……。ソウデシタカ」


 よし! アルナの目が少しだけやわらかくなったッス! ぱっと出の嘘でも言ってみるものッスね! ……ってアレ? アルナ、何でおれの襟首を掴んだままなんスか? 何でそのまま俺を引きずって行くんスか?


「あ、アルナ?」


「ダン様。貴方ノ自ラヲ鍛エヨウトスル考エ、コノアルナ感服シマシタ。ソレデコソ私ノ主にフサワシイ。デスカラダン様ノ特訓ニコノアルナモ協力シタイト思イマス。中庭ニ行キマショウ。ソコデノゾキナンカ忘レテ私ト実戦方式デ思ウ存分ニ特訓ヲシマショウ」


 ばれてるッス! このままだと俺を待っているのは特訓とは名ばかりの地獄のおしおきッス! なんとかして逃げないと……アレ?


『……』


 今、何か白い霧みたいなものが見えた気がしたんスけど……いや、それどころじゃないッス! 誰か助けてくれッス!

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